第199話 龍の力を得し者達の模擬戦
月の都の訓練所にて、龍の力を吸収した二人が模擬試合を行おうとしていた。
方や炎の龍の力を得て同化したユリ、方や雷の龍の力を得た猫人のナナミである。
ナナミは魔剣を所持してないため、武器の性能を同じにするためにライムを借りている。
ユリはペアスライムの日本刀を手にする。
お互いに武器は日本刀である。
ユリの技術はバランス良く高い身体能力を活かした技が多い。
ナナミはお得意の足技と目にも止まらない速さを活かした技が多い。
「よろしく」
「よろしくお願いします。クジョウさんっ!」
魔石を渡す事を考えたのはユリなのだが、怒りが滲み出ているのがナナミには伝わって来ていた。当然、力を得た事による怒りでは無い。
模擬戦だと言うのに本気で殺しに来るんじゃないか、そう思わせる気迫をユリは持っている。
だからこそ、ナナミは口角を上げた。
「ようやく力が制御できるようになったんだ。強い人と戦いたい!」
ユリが足裏から炎を放出して加速しナナミに迫る。次の瞬間、視界から消える。
「えっ!」
「火炎放射器から出される炎と天から落ちる雷、どっちが速いなんて考えるまでも無い」
ユリが認識できないスピードで背後に立ったナナミ。
力を手に入れてから一週間近くしか経過してないのに、これ程までに力が扱えるのかとユリは悔しく感じる。
自分は最近、普通の体温を維持できるようになったのに。
才能の差。それを見せつけれるように感じた。
⋯⋯しかし、それを抜きにしてもユリには一矢報いる覚悟があった。
私情十割でナナミに一太刀くらわせたい彼女は再び動き出す。
「【炎龍の息吹】」
「【突雷電】」
ブレスに対してナナミは雷を集約して放つ魔法を繰り出した。
ブレスを貫通した電撃はユリを貫ことうと突き進む。
「まだまだ!」
弾き飛ばして接近するが、再び視界から消える。
今度はこちらから、そう言わんばかりの攻撃が背中に直撃した。
「ぐっ。はっ!」
地面に落下したがスレスレで飛び立つ。
「翼が無いのにどうやって空に?」
ナナミは空中で綺麗に停止していた。翼が生えている訳では無い。
「雷雲を足裏に出して足場にしている。今の私はこの世の全てが足場。【電光石火】」
言葉の通り、急加速して肉薄と同時に刺突を繰り出した。
「
正面の攻撃に神経を集中して確実に相手の攻撃を防ぐ。
それに対してナナミは十八番の高速の連撃を繰り出す。
捻りに合わせて落雷の如きスピードを魔法にて合わせる。
ユリも負けじとジェット噴射の加速を利用して攻撃を防ぐ。
互いに引かない接近戦の攻防。六撃程防いだユリだったが、そこから徐々に攻撃が当たるようになる。
ナナミの連撃は後に行く程に速度が落ちる。それが普通でありナナミとて例外では無かった。
しかし、攻撃する度にボルテージが上昇する現在だと話は変わる。
攻撃を繰り出す度に蓄積される電気がより高速の刺突へと繋げているのだ。
「このままじゃ。【炎龍の翼撃】」
翼に炎を纏わせて攻撃する。四箇所からの攻撃は流石に良くないと判断したのか、ナナミは一歩引いた。
しかし、それは回避では無かった。
「甘いね」
ナナミの特徴として挙げられるのはやはり異次元レベルの刺突スピード。
だが忘れてはならない。
それを可能にしているのはナナミが力や身体の扱い方が上手いからだ。
得意なだけであって絶対では無い。
それはまるで蝶が水面で踊るかのように鮮やかで華やかな舞うような斬撃。スピードがおかしいために蝶に例えると語弊があるだろう。
同時の四撃に対してほぼ同時、誤差など分からない程のスピードを持ってして翼撃を弾いた。
身体で受けたにも関わらず、どの順番で攻撃されたか全く分からない。
「やはり強いっ」
「もっと強い魔法を使ってよ」
「腹立ちますねぇ」
距離を離して沈黙の時間が流れる。
どちらが先に行動するか、警戒している訳では無い。
ユリが何かする。だからナナミは黙ってそれを見守る。
「『龍鬼化』」
全身が紅黒い炎に包まれて鱗が浮き彫りになる。角はさらに太く長くなる。
顔の部分は目から涙が流れる痕のように鱗が生える。
爪が伸び、身体が一回り大きくなる。
奥底から溢れ出る魔力と炎。息を吐くだけでも大火事になる火炎を吐き出す。
「クジョウさん、アナタもあるでしょ?」
「うん。ようやく本番だね『雷獣化』」
ナナミは全身が毛に覆われ、爪が鋭く伸び、奥底から魔力と電気を放出させる。
身体能力を大幅に上げる強化能力。
「【雷速】」
ナナミはスピードを上昇させる強化魔法を使用して、再び距離を詰める。
時間を数える事すら許されない超スピードの一撃。
互いに背中を向けて一秒が経過すると、ユリの腹部から鮮血が飛び出る。
斬られた事を思い出したかのように、傷が開くのが遅かった。
「結構深くやりますねぇ?」
「それはお互い様でしょ。凄い嫉妬を感じる」
ナナミは腕が丸焦げになっていた。
月の上と言う事でユリはすぐに再生するがナナミはそうはいかない。
なので、懐から雷が保管された小瓶を取り出した。
蓋を開けて口の中に運ぶ。
「ごくっ」
「電気飲んだ!」
「君も炎食べるでしょ」
焦げた腕が回復して行く。
龍は同じ属性のモノを喰らう事で再生能力や力を回復される効果があるらしい。
「まぁ良いでしょう。アナタの技術を超えてみせる【黎明】」
「私の技術を盗むならせめて動体視力で追いつけないと。⋯⋯慢心じゃないし自慢でもないけど、こうなった私は多分キリヤよりも強いよ」
「ええ、そうでしょうね」
才能、技術、それに似合う力。
戦闘に関してはキリヤの上を行くだろう。それはユリにも言える事。
種族パワーのアドバンテージが無い現状、ユリがナナミを超える事は難しい。
戦闘に関しては。
「⋯⋯実は私の懐の中に主君の寝顔写真が入ってます!」
「なっ!」
ナナミが見るからに動揺した。
ユリはナナミよりもキリヤと長くいて親密、部屋の出入りも簡単な関係だ。
持っていても不思議では無い。
高速の思考速度を無駄使いして導き出した答えによって一瞬の隙を生んだ。
「【爆炎刃】」
「とっても卑怯だね【天雷刃】」
互いの属性を纏った剣技が飛ぶ。
ユリが戦闘で勝っている点は一つだけある。
母体が人間の女性だから起こってしまう悲しき現実。
同じ性別でもモンスターは違う。
それは、純粋なパワーだ。
「ぐっ」
猫人でスピードアタッカーのナナミ。彼女は力をスピードでカバーしている。
正面衝突、馬鹿正直の力比べになるとユリに軍杯が上がる。
軽く吹き飛んだナナミに即座に追撃を繰り出す。
体勢を直させたら千載一遇のチャンスを見失う事になる。
二度と通じないだろうブラフによる不意打ち。そのチャンスを掴むのだ。
「もっと、加速しろ!」
足裏、翼、ありとあらゆる場所から炎を噴射して加速する。
自らを新たなステージへ押し上げる。
「【
己を炎として高速移動する。炎の龍は巨体故難しかった次元のスピード。
それをユリが完成させる。今の彼女ならば炎の龍にも勝るかもしれない。
「なるほど。そうするのね⋯⋯【
ナナミも同様に自分を雷そのモノに姿を変えての移動を成功させる。
炎と雷の塊がぶつかり合い、訓練所の上を駆け回る。
「【炎龍の息吹】」
「【雷龍の爪撃】」
息吹に対して三本の雷の斬撃を飛ばす。
「まだまだ行くよ!」
「望むところ!」
ユリの私情はどこへやら、二人は手札を出し合いながら戦う時間に没頭した。
対等に戦える相手がいなくなってしまったユリには良い刺激になっているらしい。それはナナミも同じ事だった。
もしもレイがいればこの二人を同時に相手していただろう。
普段のレイなら間違いなくナナミに対して邪な視線を向けて興奮し迫っていた。
でも、今の彼女にそんな心のゆとりは無かった。
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます
★、♡、とても励みになります。ありがとうございます
レイの説得は次回です
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