第74話 襲撃されたんだが

 ユリの装備も完成したので、それを持ってダンジョンに向かう。


 「大荷物だね⋯⋯」


 アリスにそう言われるのもしかたない。


 ホブゴブリン達の武器も購入しているので、それらとアリス名義の防具、ユリの装備を持っている。


 防具がステータスカードのIDで登録されるから、鎧の部分だけって訳にもいかないのが辛い。


 アリスに帰る時間を伝えてから俺はダンジョンに入る。


 「主様、大荷物ですね」


 「ああ。仕分けするぞ」


 ユリは進化して、身長は俺くらいになっている。


 スタイルの良さはモデル並みだろう。


 髪の毛も伸びて俺並に長くなった。


 俺の呼び方も進化に合わせて変えたのか、『主様』になっている。


 別に問題は無いので構わないのだが⋯⋯ちょっとまだ慣れない。


 「これはユリの装備で⋯⋯」


 購入した装備を皆に渡し、ユラが壁に擬態してユリを囲んで着替えさせる。


 俺も同様にライムが擬態して壁を作り、その中で防具に着替える。


 翼や尻尾があり最初は大変だったが、なれると簡単にできる。


 「うん。凄く似合ってるよユリ」


 褒めると、嬉しそうに頬を染めて前髪をクルクルしている。


 「あ、ありがとうございます」


 当分はまた貯金しないとな⋯⋯スッカラカンだ。


 分割払いが終わったかって? 終わってないお。


 「ローズ、姉御をあまり妬ましそうに見るなよ」


 「別に嫉妬してないし。ユリ様だから納得してるし」


 納得してるのかな?


 ホブゴブリンの防具はペアスライムが変身して補っている。


 「なんか、いつの間にか色々と食べて変身できるようになってるから整理が追いつかんな」


 しかもなんか⋯⋯立派じゃね?


 キュラから貰った細胞に入った情報だろうし⋯⋯誰かがキュラに餌やりしているのかもな。


 ユリの新たな防具と武器の具合を確かめつつ、奥へと進んで五層へと到着した。


 「ゾンビも斬ってみたいです!」


 「あはは。新しい武器を手に入れてはしゃぐ気持ちは分からんでもない⋯⋯でもその興奮は動画まで待って欲しかった」


 このネタがあれば魅了タイムは無くなったのにな。


 凹みながらカメラを起動すると、血のように赤いクナイが破壊する。


 「誰だ!」


 ちぃ。配信どころか録画もできないじゃないか。


 何より⋯⋯今は金欠なんだぞ。


 「殺気を感じなかったし正確にカメラを狙った⋯⋯人間だろ? なんで同じ探索者を狙う!」


 姿が見えない。


 全員が警戒態勢に入る。


 「下っ!」


 魔眼の力を使っているが相手を一度も見てないから能力演算ができずに運命を示すテロップが現れない。


 だが、俺の直感が下から何かが来ると訴えた。


 剣を引き抜き警戒していると、地面を突き破り木の根っこが襲い来る。


 「植物⋯⋯」


 こんな魔法を使う奴はここら辺の階層には居ないし、俺をピンポイントで狙った。やはり人間だな。


 「重いっ!」


 そのまま押されて奥の通路へと入って行く。


 「まずいっ」


 皆と離れるのは危険だ。


 翼を広げて脱出しようとしたが時すでに遅し⋯⋯通路を塞ぐように木が生えて、隙間を埋めるように根っこが絡む。


 「そこから先は通行止めだよ」


 「誰だ!」


 振り向きその正体を見る。


 木を人型にしたような見た目であり、淡い緑色の光を常にまとっている。


 ドリアードと言う種族である。


 「⋯⋯声的に女性か?」


 「ああ。名乗っておこうか。うちは東條刹那とうじょうせつな。よろしゅう」


 「よろしくしたくないね。なんで襲う?」


 「うちが看破の魔眼の持ち主。それだけで理由は事足りる」


 短い文章で大きな情報をくれたなぁ。


 魔眼持ち⋯⋯つまりは魔王後継者か。


 いや、正確には後継者の候補者なんだっけ?


 候補者から後継者になって、地球産の魔王となる。


 ややこしいな。


 看破の魔眼の持ち主はトウジョウさん以外にもいるって事だけ覚えておこう。


 今重要なのは、それでなぜ俺が襲われているかだ。


 「別の種類の魔眼だ。協力関係を⋯⋯」


 「せやな。せやけど⋯⋯この状況でそれが可能やと思うか?」


 トウジョウさんが手を俺にかざすと足元から木の根っこが二本伸びて来る。


 能力演算が終わったのか、それはテロップとして現れていた。


 対策は可能⋯⋯そもそもドリアードの戦い方の基本なので知っている。


 「魔法だが物体だ。ならば、斬れる」


 俺はその根っこを真っ二つにぶった斬った。


 はは。


 ゾンビよりも強度があるだろうこの魔法をあっさり斬る事ができるか。


 「買った価値は十分にあるな」


 「この魔法は鉄と同等の強度だぞ。なぜ斬れる?」


 「逆に問おう。なぜ鉄が斬れないと?」


 俺はその場で構えて、一瞬で肉薄して剣を振るう。


 「なんっ!」


 僅かに遅れる反応。


 殺す気のない刃故に反応はさらに遅れたのだろう。銀閃は頬を撫でた。


 剣先から垂れる緑色の血は植物に宿った精霊であるドリアード特有の血。


 その血を払って、再び構える。今度は突きの構え。


 当然、そのまま突き出したら射程不足で当たらないだろうが、先程のように一瞬で肉薄して間合いに入る。


 「クソっ!」


 紙一重と言った様子で回避した。


 「なんだその動きは! 構えた状態で距離を詰めるその動きは!」


 「教えてどうする?」


 再び構えようとしたが、危険だと判断したのか懐のポーションを取り出した。


 そのポーションがどのような物かいくつかのパターンで視える。


 確率は気にしない。


 重要なのは、どんな種類があるかだ。それが全て網羅できている。


 運命の魔眼の利用方法はこれかもしれんな。


 確率の方に目を向けるのではなく、内容の方に目を向ける。


 相手の手の内が少しでも割れているのなら、対策は可能だ。


 「痺れや!」


 黄色の液体が入ったフラスコ型のポーションを地面に投げて割った。


 空気に触れた液体は即座に蒸発して、黄色の霧をこの空間に蔓延させる。


 「鼻が痛くなる臭いだな全く」


 「⋯⋯臭うのか?」


 俺は翼を強く羽ばたかせて霧を吹き飛ばし、そのままの勢いで接近する。


 構えはしており、近寄った勢いも乗せた斬撃を叩き込む。


 「ぐっ。サキュバスなのに、なんて重さだ」


 「一番気にしている事を言うな!」


 ナイフで防がれたが、力任せに振り抜く。


 「クソっ。予備動作もない接近がこれ程厄介とは。一体どんな魔法だ」


 「魔法じゃない。ただ練習した成果だ」


 奴は分かってない。


 俺が地面に足を着けているから、何かしらの歩行術に関連した高速移動だと勘違いしている。


 だが実際は違う。


 翼を利用した。ただ速いだけの平行移動だ。


 身体に一切のブレを生じさせない平行移動を高速で行っただけに過ぎない。


 サキュバスは本来、単身で戦う種族では無い。故に素の力が弱い。


 その力を速度で補い、強いパワーを生み出す。


 「高校生だからと侮っていたよ。少しだけ、本気でやろうかな!」


 ポッケからいくつかの種を取り出し、ばら撒く。


 「急成長!」


 ドリアードの植物などの成長を加速させる能力か。


 種から成長したのは人参やじゃがいもなどの野菜である。


 「知っとるか。ダンジョンの中で育った植物は魔物になるんやで!」


 「知ってるさ」


 ダンジョンの広大な土地を利用しようと考えた国が試したが、魔物化して失敗に終わった実験結果がある。


 かなり昔の話だが、探索者に憧れた人間なら知っている有名な話だ。


 だからこそ、魔物化するのを待った。


 野菜が巨大化し、目や口が開く。


 「ふんっ!」


 刹那、一秒にも満たない速度でその全てを斬り裂いた。


 「は?」


 「それで、次は?」


 全ての手札を出し切らせて戦意喪失させる。さっさと、戻らないといけない。


 「おいおいソウヤ。こいつぁ予想外やで」


 驚いた様子だ。


 無色の液体が入ったポーションをいくつか取り出し、それらを空中に投げた。


 「蓋が空いている?」


 「爆ぜろ!」


 空気に触れた液体は化学室で嗅いだ事のある毒素の臭いがした。


 「ちぃ」


 口と鼻を覆いながら後ろに飛ぶ。


 「邪魔だな!」


 爆発によって生み出された真っ黒の煙を吹き飛ばす。


 煙の晴れた先にはトウジョウさんはおらず、地面が割れていた。


 「植物魔法かなんかで地中を移動できるのかな。全く。なんだったんだよ」


 カメラ弁償してくれよ。


 「主様!」


 ユリ達が来ている⋯⋯木の壁は破壊したのかな?


 てか、だいぶ離されていたっぽいな。


 俺はカメラの事を考えながらユリ達の方を向いた。




◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます

★♥ありがとうございます


あと二話?

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