第133話 第二回アイドル魅了が確定した
「うん。配置場所も決まったし音質とかのテストを始める段階かなぁ」
「サキュ姉さん。そろそろサキュ兄さんに報告しなくて良いんですか、練習とか?」
「そうだね。そろそろ暴露しておくよ。配信とかでやろうかな?」
リアルバレはもちろん、月の都での撮影もダメだ。
ダンジョン内の撮影で暴露する流れで良いかもしれない。
面白い反応をしてくれる事を期待しつつ、帰る事にした。
外堀はほぼ埋まったと言えるだろう。
◆
今日も今日とてダンジョンへとやって来た俺は、相変わらずライブを始める。
潜っている最深部へと早足で向かっていると、ツキリが激しく言葉を出して来る。
酷い頭痛に耐えながらツキリに要件を尋ねた。
『実は重要な報告があるんだよ』
「なんだよいきなり」
“お、来たか”
“むしろここまで一切バレてない事に面白さとか通り越して心配になって来る”
“情報に疎いサキュ兄”
“配信者として流行に乗り遅れは良くないとか思ったけど、魅了が観たいだけやしええけどw”
『これよ』
「うぐっ」
ツキリに流されたのは俺の知らない記憶だった。
サキュバスの能力でツキリボイスとなった俺の身体。その声と会話するのは赤の他人。
アイドル、協力者、準備、その全ての記憶が流れ込んで来る。
夜だけの短い時間での活動だろうと、日数を考えれば丸一日の時間を優に超える。
膨大かつ凶悪な記憶に俺の心臓が激しく鼓動する。
不安と恐怖、蘇るのは過去の記憶。
「コレは、一体」
『あーそんなベタな反応は良いから。理解してんでしょ?』
違う。これはツキリが勝手にやった事で俺がやった訳じゃない。
きょ、協力者の楽しみと期待の籠った瞳と笑みが俺の心臓を掴む。
もしもこの状態で「やっぱ無しで」と言ったらどうなるか。
この笑みは潰えて失望へと変わるだろう。
それだけじゃない。協力者以外にも楽しみにしている人達全員の期待を踏みにじる事になる。
配信者として、人としてそれはどうだろうか?
良くないだろう。
協力者達も自分達の大切な一秒一分一時間をコレに使ってくれた。それをドブに捨てさせるのか?
ステージ、ライト、マイク、スピーカ、カメラ、モニター、様々な設備の配置場所なども考えている。
協力者にはその手の業界のプロまで参戦しているようだ。
既にサキュ兄専用の歌を依頼している。
依頼料はそのままにキャンセルなんて、前向きに協力してくれた人に申し訳なさすぎる。
何より、何よりもだ。
配信者の俺として恐れている事の一つ『炎上』は不可避だ。
俺の性格や思考を全て考慮した上でこのタイミング。ここまでの準備を水面下で行って来たのだ。
「お前〜」
大粒の涙を浮かべながら、姿の無いツキリに向かってキッと睨む。
俺の目が狂ったのか、半透明のツキリがニヤニヤ笑っているのが見えた。
クソがっ。本当にクソがっ!
「こんな魅了に何百人と協力者がいる、そんなの無いぜ」
アリスやナナミが毎日会う度に複雑そうな顔をしていたのはコレが理由か。
⋯⋯待てよ?
「ユリ、ローズ、アイリス、ダイヤに他の皆だって! 知ってて俺に何も言わなかったのか!」
全員が一斉に顔を逸らした。
「⋯⋯妹も、幼馴染も、友人も、知った上で言って来なかったのか?」
“待って、リアルの人達にサキュ兄の存在知られてんの?”
“まじかよw両親には知られてなさそう”
“今までどんな気持ちで魅了してたんだろうなぁw
“バリウケる”
“サキュ兄の味方って本当にいないんだなって再確認したよね”
“ネットで軽く調べれば出て来るようなモノを⋯⋯”
“取り上げたニュース番組なんて炎上までしたのに”
“サキュ兄の危険な所だね”
そんなの嘘だぁ!
『泣いても現実は変わらないんだよ』
「お前は悪魔か!」
『ん〜サキュバスだしあながち間違ってないかもよ?』
「クソがああああ!」
“どうしよう。泣いているサキュ兄にムラムラする”
“起きてサキュ兄、ヒールヒール”
“大丈夫だよ。まだ始まってない”
“練習頑張ろっか”
はは、良いぜ。
もうなるようになれだ。
こうなったらとことん全力でやってやる。
期末は終わって無いし、夏休み課題だって計画的に進める予定だ。
補習は無いし部活動が多少ある程度。
時間はめいっぱいある。
「本気で大成功させてやるよ。どーせダンジョンだと戦いよりも魅了を優先させられるしな!」
『その意気よ!』
「覚えておけよお前は! 俺が自由に切り替えれるようになったら全部お前に魅了やらせるからな!」
『ワーコーワーイー。防ぐ力を今のうちに伸ばしておこっと。追いつけると良いね★』
なんかムカつく。凄くムカつく。
“コレで確実のモノとなったか”
“これからも進行はサキュ姉かな?”
“でも本番はサキュ兄だね。やったぜ”
“デュフフ。大手を振って宣伝でふ”
それから帰った後、マナに抱きつかれた。
「映像越しになっちゃうけど、ちゃんと応援するからね! 頑張ってね! 楽しみにしてるからね!」
「⋯⋯お願いします、それだけは、それだけはご勘弁ください」
「頑張ってねお兄ちゃん!」
「うぅ。悲惨」
妹にアイドルの姿なんて観られたくないよぉ。
ちなみに同じような事をアリスにも言われた。
『私も生で観たいけど、人が多そうなので配信で我慢します。頑張ってください』
と、ナナミからメッセージが入っている事に気づいたのは風呂上がり。
俺の事を知っている人達も応援してくれている。見てくれると言っている。
「それが一番俺の心にダイレクトアタックしているんだけどな」
はは、もう乾いた笑みも浮かばないや。
そんじゃ。俺は寝るのでツキリにチェンジしておこう。
「時間は効率的にだよねぇ」
◆
アーシに変わったので早速月の都にレッツゴー!
ここでは最近、ローズがアイドルの衣装を考えてくれている。
翼の数も増えてしまったし色々と大変だ。
「アイドルっぽくミニスカも良いけど、やはり主人にはカッコよくあって欲しいし⋯⋯でも太ももは露出させたい!」
ローズのブツブツ言いながら作業を軽く聞いて、レイにゃの所に向かう。
ユリちゃんと訓練中だった。
「はぁはぁ。もう一度お願いします」
「そろそろ休憩しなさい。精度が落ちてるわ」
「いえ。まだ大丈夫です」
「ダメよ。それ以上やっても逆効果。精度が落ちた中ガムシャラに暴れるのは戦闘の時だけにしなさい。訓練の時は最高のパフォーマンスで最高効率でよ」
「⋯⋯はい」
ユリちゃんが刀を収めた所で、ようやくアーシの存在に気づいた。
「ツッキー様」
「ゆっくり休みなさい。なんなら膝枕してあげるわよ」
「いえ。それは主様が良いので⋯⋯失礼します」
あの状態でも素直に即答するのね。
身体は一緒なのに、何がダメなのかしらね?
「ツキリちゃんいらっしゃい。今日の要件は? ワタクシとのベッド・インかしら?」
「それもありかにゃ〜。レイにゃとの熱い夜は個人的には嬉しいけども、彼が絶対に拒絶するからさすがに無理かなぁ」
「きちんと意を汲むのね」
「さすがに最低限のわきまえはありますよ。本気で拒絶されたらキツいですからね」
アーシにとっての彼は全てと言っても過言では無い。同じ肉体だしね。
別人であり別人では無いのだ。
「で、本題だけどダンスレッスンに付き合って欲しくてさ」
「どうしてワタクシに?」
「そんなのレイにゃに評価して欲しいからに決まってるじゃん」
「あら嬉しい」
ま、本音を言うなら先生に一番向いているからかな?
仲間達の強さが格段に上がったのは他でもないレイにゃの手腕だ。
先生の教えたのは武技、それをどう活かしどう戦うかを教えたのがレイにゃだ。
キリヤくんもレイにゃの指導は何回も受けている。
依頼して届いたプロダンサーのダンスを一度レイにゃに見せる。
すると彼女はそれを一回で暗記し、細部まで再現する。
覚える事は簡単だ。しかし記憶に従って身体を動かすのは至難の業だ。
後はアーシとキリヤくんの二人体制でこの身体にダンスを刻み付ける。
カラオケなどで難しい曲を歌いながら練習しつつ、歌詞が完成したら歌の練習も始める。
ダンスの合間に挟むファンサなども考えないとな。
アーシが始めた事だ。細かい雑務などは全て背負わないとね。
「良し、頑張るわよ!」
「おー!」
ちなみにレイにゃの指導は的確かつ詳細であり丁寧なので、優しい指導なのに厳しく感じた。
◆あとがき◆
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