第115話 虚像の友達

 「サナエちゃんのお見舞い行って来るね」


 「ああ」


 イガラシさんは今日、高熱を出して学校を休んでいた。


 そのため、アリスはお見舞いに行く事にしたらしい。


 俺も友達と言われたけど、弱っている女子のところに男である俺が行くのも良くないと思い、アリスに伝言を頼んでおいた。


 ちなみにまだニックネームが思いついてないらしく、サナエちゃんと呼んでいるらしい。


 アリスが出かけてから数時間が経過して、もうそろ帰って来ても良いと思われる時間である。


 俺も入っているけど慣れてないので、マナにGPSアプリでアリスの場所を確認してもらう。


 すると、場所が良く分からない港付近に反応があるらしい。


 しかもここからはかなりの距離があり、教えて貰った住所の場所からも離れている。


 何かが起こっているのは間違いない。だけど、何かあった場合すぐにローズ班のメンバーから情報が舞い込んで来るはずだ。


 何かあったのだろう。


 勝手に行動するとも思えないしな。


 「ちょっと行って来る」


 気づいたのなら速く行くべきだ。


 単なる誘拐犯だった場合、アリスなら普通に抵抗できるし仲間も動けるだろう。


 敵がいる場合、ソイツは絶対に普通じゃない。


 俺はサキュバスとなり、月の輝く夜を飛んだ。


 運命の魔眼を使って確認すると、アリスの場所と無事が確認できた。


 最速でGPSの反応があった場所に向かう。


 「なっ!」


 始めに目に入ったのは倒れている仲間達だった。


 斬られたのは一箇所だけだったがかなり深く、しかも毒まである。


 息はしているのでまだ生きている。


 急いで月の方を向いて都へと転送して貰う。


 影の中に潜んでいただろうウルフやホブゴブリンを引きづり出し、一撃で沈めた。


 それだけで異質なのは間違いないだろう。


 種族を最初から明かす訳にもいかないので、人間に戻り俺は建物の中に入る。


 この中にアリスが⋯⋯。


 「⋯⋯なんっ」


 「あ、もう来たの? 案内書を送るつもりだったのに。あーいや。こっちの方が良いっすか喋り方?」


 眠るアリスの横に立つイガラシさん。


 その手にはダガーが握られており、サイズ的に仲間を斬り裂いたのは九分九厘彼女で間違いないだろう。


 だが理由が分からない。


 「なんでアリスを巻き込む。どうして、俺の仲間を⋯⋯」


 「どうして? 不思議っすね。君の周りを狙う奴らなんて一つっすよね?」


 それだけで分かった。


 彼女はオオクニヌシのメンバーだ。


 でも、部活も最初から居たはずだった。俺が魔王後継者になったのは途中からだ。


 最初から狙っていた訳では無い?


 まぁ良いや。話は後で聞かせて貰うか。


 種族になって秒でアリスを救出する。


 「おっと。動かないで欲しいっすね」


 「おまっ!」


 イガラシさんはアリスの首にダガーを突き立てた。


 「君なら分かるっすよね。少しでも変なマネをしたら⋯⋯この子がどうなるか」


 「アリスは、君の友達じゃなかったのか。アリスだけじゃない。ナナミや、俺だって」


 「友達? 面白いっすね。そんな演技に本気になるなんて。結構純粋なんっすね」


 ⋯⋯嘘だろ?


 ずっと、演じていたと言うのか。


 ◆


 目の前で苦悩している排除対象を見下ろす。


 脅しがここまで通用するとは思いもしなかった。


 最初は単なる強い人だったヤジマ。だけど彼が魔王後継者となった。


 情報を集めてどんな人物なのか、弱点はなんなのか、色々と探った。


 結果として分かったのは、彼はかなり強いと言う事。


 真正面から戦ったら確実に負ける、それだけは分かった。


 種族になって戦った場合、限りなく低い勝率だったのが確実にゼロになる。


 そんな彼をどうやって倒すか。すごくシンブルだった。


 仲良くなれば良い。


 友達として近寄り隙を伺う。彼は常に警戒してたから不意打ちは難しかった。


 周りとも親しくなった。


 信用した相手などには途端に甘くなる彼を倒すにはこれが一番効果的なのだ。


 脅しの材料に使って、言う事を聞かせる。


 「これを着けて」


 隙を与えないように、眠っいるアリスを持っている手で鉄の首輪を取り出し投げ渡す。


 これを彼が着ければ全て解決である。


 この方法なら納得してくれる。別の形でのミッションクリアだ。


 あぁ、相手を知ろうとしなければ良かったのに。相手を知ると、辛いのは自分だ。


 ◆


 これは過去。


 物心つく前から武器などの知識を叩き込まれ、虐待と一般では言われる暴力で強制的に動いた。


 外の情報を一切知らないし周りもそうだったから、これが普通なのだと誤認した。


 きちんとすれば叩かれなかったし、殴られなかった。


 幼い頭でそれを理解して、必死に足掻いた。


 親の愛情なんてのは知らない。知っているのは商品を扱う大人の心だ。


 13歳、世の中では中学校と言う場所で皆は勉学をするらしい。


 家族と言うのがなんだったのか、幅広い知識を集めて行くうちに考えるようになっていた。


 初めての依頼が舞い込んだのはこのタイミングだった。


 幼い頃にアニメ映像を利用して刷り込まれた事が一つある。


 悪は殺せ、悪を殺せば人々に感謝され褒め称えられると。


 悪ならば殺すしかない。善はなんなのか記憶に深く刻まれている。


 依頼の対象は当然悪、迷いなく殺す事に成功した。だけど時間がかかった。


 わてが未熟で暗殺対象に自分の姿が見られたからだ。


 その時に放たれた一言を今でも忘れない。


 「アヤカ?」


 依頼先の情報をまとめてある資料の事を思い出した。


 対象の夫婦二人は産まれてすぐに娘をなくしたと。当然悲しみ、付ける予定だった名前で認識しているらしい。


 遺影の写真も無く、ただ子供を産んだと言う事実が存在する。


 その理由は麻薬による混乱作用。麻薬を他人にもばら撒き、巧みに人を操り会社を作り上げた。


 会社も詐欺会社と、沢山の人を悲しませた。


 放たれた一言が気になったが、依頼の為、世界の為、殺した。


 この年で依頼を受けるのは限られた優秀な人間だけであり、生還する人は少ない。


 同期ではわてが唯一、生還した。


 一度人を殺したら感覚が麻痺したのか、次々と依頼を熟す事ができた。


 成功する度に喜ばれ、感謝され、褒められて、報酬と言う物も手にする。


 15歳になった時、ふと家族の存在を思い浮かべる。


 家族と呼べるのは一緒に育った子供達だけである。


 先輩や後輩、弱い同期と失敗ばかり続ける不良品達と殺し合いをさせられた事がある。処分もあるが、兄弟のような人を殺させる事で心を殺す。


 暗殺の為の演技や武技を鍛え才能を開花させた結果、若くしてそこそこの立場になったので初依頼について調べてみた。


 結果として分かった事、殺したのは両親だった。産みの親を殺したのだ。


 しかも悪とされていた事象は全てデマ。


 罪なき善なる人を殺していた。その事実が当時のわてを苦しめた。


 だけど言われたんだ。


 未来の崩壊した世界で平和を築く為の尊い犠牲だって。


 幼子の心を完全に殺す為に家族などに興味を持ち始めるタイミングで殺させたのは容易に想像できた。


 同期は家族の愛情を僅かに感じて足を洗ったらしい。結果として処分された。


 中には当然、依頼対象を護っている護衛に敗れる者もいる。


 なんでわてはそれを感じなかったのか。言われたのは心が無いから。


 自分に言い聞かせ、ただ依頼を熟す。


 もう、善も悪も関係ない、依頼があれば組織の邪魔をする奴なら全員殺す。


 家族や身内を殺したと言う事実が深く心に刻まれた。


 だからだろう、いくら殺人を重ねても何も感じなかった。


 ある日、高校に行くように言われた。そこでの潜入訓練かつ情報収集。


 そして魔王候補者の後継者を探す為だと知る。


 敵なら殺すし、味方になりそうなら仲間に加える。


 それが与えられたミッション。


 最初は特になんともなく、普通の日々が続いた。


 普通を演じ続ける事で染み付いた普通。依頼の度に崩れる普通。


 次の対象はヤジマキリヤ。同級生。


 彼は強かった。高校生とは思えない程に。他にも数名強さの次元が違う人がいる。


 警戒心を上げて情報を集めた。近寄った。仲良くなった。


 仲の良い友人を演じた。


 そしたらどうだろうか、三人もの友人を作れた。演技って素晴らしい。


 人を殺すのに躊躇いなんてのは無い。迷う事も無い。


 重ねた罪が百から百一になろうとも、些細な違いだろう。


 今更本当の普通なんてのは得られない。家族の愛情を感じ取れなかったわては。


 ただ、依頼ミッションを遂行するのだ。




◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます

★、♡、とても励みになります。ありがとうございます



シリアスパートが始まってしまった

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