第224話 最弱魔王の実力
黄金の身体を持つゴーレムである金星の魔王ミダス。
「やはり来よったか」
「金星の魔王、魔王因子をくれないか。俺は世界の繋がりを断つ」
「殺して奪えば良かろう?」
「無駄な殺しはしたくない。できれば、レイ達とまた昔みたいに戻って欲しい」
「我々の関係性を知らないようだな」
ミダスはそう言うと、立ち上がった。
大きさは2メートル行くか行かないか程度だった。
自ら光を発しているのでは無いか、そう思える程に輝いている黄金の身体。
一つ目の赤眼が煌めき、拳を打ち合わせる。
「昔のような関係? もしやあやつらは友などと吐かしていたのでは無いか?」
「そうだ」
「違う。徹頭徹尾間違いだ。我は幹部の中で最弱。劣等感に常に襲われた。魔王様に力をいただき、魔眼を手に入れた⋯⋯だが、その魔眼の力も役には立たん」
ミダスの魔眼は黄金の魔眼、物の価値が分かると言う力だ。
「同じ歳月を生きれば同じ量の努力をする事になる。才能も無い造られただけのゴーレムでは才能があり力もある他の奴らには到底追いつけない」
そこで俺はようやく、ミダスがどう思っていたのかを理解した。
どうして裏切ったのか。
ミダスはこの世界に来る前から劣等感に苛まれていたのだ。
周りと同列の立場でありながらもその強さは顕著に現れていたのだろう。
今でもそうなのだろう。
ミダスの実力はレイと比べるとだいぶ劣る。
その事実が彼を蝕んでいた。
「ようやく手に入れた力、魔王様が世界移動を許可してくださった証。それを若造に譲れと言うのか。笑止。これは今や我の力、貴様なんぞに譲る通りは無い」
「お前は龍が憎くないのか。またこの世界を奪われるとは考えないのか」
「我はゴーレムだ。造られた存在。我を創造した研究者は天寿を全うした。魔王様の死は受け入れ難いモノはあったが、それも過去の話。今の我はただ、この世がどう変わるか見たいだけよ」
ミダスとの対話はできないか。
元々その認識でこっちは来ていたんだ。
だったらやる事は変わらない。
「話し合いで解決しないなら、戦うしかない」
ライムが二刀流の剣になる。
ユリは魔剣を構え、ナナミは刀を抜いて、ローズは血のダガーを作り、アイリスは斧を手に持つ。
戦闘の準備は終わり、後は始まるだけだろう。
ご挨拶代わりに月光のレーザーをプレゼントするが、黄金の壁が地面から出て来て防がれた。
「【黄金球体】」
巨大な金色の球が数個出現して俺達の方向に向かってゴロゴロと転がって来る。
全員が回避行動に移る中、俺はボールに向かって真っ直ぐと飛行した。
俺とミダスの魔力量は互角と言って良い。
造られた人形にそもそも才能なんてのは存在するのだろうか?
分からないが、ミダスの言う才能ならばきっと、俺の方が上だろう。
「うむ」
全てのボールを切断すると、全員が一斉に動き出す。
「『龍鬼化』」
「『雷獣化』」
「『鬼王化』」
強化能力をフル活用してミダスに肉薄する。
「その程度があの勇者の力だとは言わんだろうな?」
ミダスが自分の身体を変化させる。
その見た目はバイクであり、タイヤの部分が駆動し加速する。
ドリフトでの攻撃をアイリスが防ぐが力が強かったのか吹き飛ばす。
「縛る!」
ローズの血がミダスの動きを止めたと思ったら、今度は小さく分裂して脱出。
再び一つの大きな身体になると両手を刃に変形する。
「ナナミ!」
「行くよユリ」
二人が各々の属性を刀に纏わせてミダスに振るう。
「『硬質化』」
より強度を上げたミダスの刃と雷炎の刃が重なる。
「「あああああ!」」
「我が肉体に傷は付けれない」
「それはどうかな」
アイリスと共に奴の懐に飛び込んだ。
「主君【エンチャント】【焔の翼】」
俺の翼に炎が宿り背中から押される感覚に襲われる。
加速して向かう俺の刃は如何なる物体だろうと特攻になる。
ゴーレムの身体は魔力で動いている。当たれば相当なダメージだ。
しかし、特攻があったとしてもこの身体に傷は付けれないだろう。力不足だから。
だが、その力を補うパワーの持ち主がいる。
紫の長い髪を靡かせて、力強く握った斧を振り上げる。
「
「ぐぬっ」
天を穿つ一撃で黄金の身体にヒビを入れる。
「ナイスだアイリス!」
俺の剣に月の光が宿る。さらに、ローズの血がサポートして火力を上げる。
「【雷獣の咆哮】」
「【炎龍の息吹】」
二人の遠距離攻撃によりミダスの回避行動を封じ、俺の連撃が奴を襲う。
抉るように斬る、それが俺の剣だ。
「はあああああ!」
飛び散る金色の破片が横を通り抜けて行く。
「我は⋯⋯魔王最弱、それは百も承知」
「ぬっ!」
俺の剣をミダスは素手で捕まえた。金が溶けて纏わり固まって固定される。
さらに、地中から黄金の柱が伸びて飛んでいたユリ達を落とす。
「弱者には弱者なりの戦い方がある。ムーンレイの子孫よ。勇者の力を後継できた気でいよったか? 笑えない勘違いだ」
俺の剣はライムなので、変身を一時的に解除して脱出する。
全員で一旦距離を取る。
「勇者の力があるならば我は足元にも及ん。世界によって創造された勇者と魔王様はそれだけ別格の力なのだ。勇者の血を引いているからと言えど、奴の力は奴のみだ」
「そうだろうな。一人で龍の半分を倒したらしいからな。⋯⋯俺にはできない事だと思う」
俺はミダスの知る勇者よりも弱い。俺も聞いた話だけだけど弱いと思う。
あの化け物を六体、単騎で短時間で討伐したのだ。
俺なんかにできる芸当じゃない。
だけど、それがなんだと言うのだ。
上がいるのは知っている。俺はそれを超えるんだ。
「俺は探索者だ。未知に挑戦してこその探索者。侮るなよ」
「来るが良い。全力で迎え撃とう『
黄金の身体が白金へと変わる。
「貴様らの命脈が尽きる時、この世が龍の支配に置かれると同義。世界を背負って戦うが良い」
「俺は龍じゃない。人間だ。世界なんか背負うか。俺が背負うのは、大切な人達の未来だ」
加速して真正面から衝突する。
ミダスの斬撃を受け流し、反撃の一撃を加えるが無傷。
「ゴーレムとて隙間はある」
ローズがダガーをミダスに刺して、血を中に流し込む。
「浄化された?」
「我が身に悪しき力は干渉せぬ」
「自分は役立たずか。ならば」
ローズの血が全員に注入される。
内側から力が湧いてくるような、高揚感に包まれる。
意識がクラクラしない『精力』を使った時の感覚に近いだろうか。
興奮しながらも頭は冷静であり、普段よりも動きのキレが上がる。
「はああああ!」
だが、それでも白金の身体に刃は通らない。
ユリの爆炎を纏い炎で加速した刃であっても、アイリスの渾身の一撃であっても結果は変わらない。
「貴様の力も我には届かん」
ナナミの刺突も意味を成さない。
鉄壁の守りが可能な身体から放たれるのはパンチだ。しかも本体から離れて拳だけ飛んで来る。
「ぐっ!」
力強いパンチに足が沈む。斬る事ができない。
「【白金の柱】」
「ぐあああ!」
俺を下から突き上げた白金の塊の柱。
骨が砕かれ内臓にも届く強い一撃だった。
「主君! 【黎明】」
ユリがミダスの背後に移動して攻撃をしかける。
「技術が高かろうと力が足りぬ」
「きゃああああ」
「ユリいいい!」
ミダスの拳がユリを吹き飛ばした。僅かに骨の砕ける音が聞こえた。
ナナミは悲痛の叫びをあげながら集中力を上げて接近。
白金と白金が繋がってる隙間を狙って刀を刺し込む⋯⋯しかし、ミダスは軽やかな動きで後ろに移動した。
自在に変化させられる身体を活かして足裏にタイヤを用意したらしい。
スピンで遠心力を乗せたパンチがナナミを襲う。
「シィ」
動体視力で動きを捉えて瞬発力で回避する。しかし、回避した場所にもミダスの拳は伸びていた。
「があああああ!」
手からだけでは無い。全身から奴はパンチを繰り出せる。
「ローズ!」
「ええ!」
ローズの血がアイリスの斧に纏わり、巨大な斧へと姿を変える。
「かち割るぞ」
「もちろんよ!」
「来るが良い若人よ」
二人で振るう巨大な戦斧の一閃をミダスは⋯⋯片手で受け止めた。
絶大な質量で固めた攻撃さえも防いだのだ。
「まだだ!」
ローズが斧の血を刃にして攻撃するが⋯⋯それも火力不足。
ダイヤすら貫けるだろうその攻撃も魔王には届かないらしい。
「ふんっ!」
「なんっ!」
「だとっ!」
ミダスが瞬間移動でもしたかのような動きでアイリス達に肉薄して吹き飛ばした。
地を転がる二人。
「他愛も無い」
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます
★、♡、とても励みになります。ありがとうございます
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます