第223話 最後の進化に向けて
今日は回転寿司へと来ている。俺の奢りで。
メンバーはいつも通りと言うべきか、アリス、ナナミ、サナエさんである。
最後の戦いに向けて色々と話しておく必要があると思ったからだ。
家に帰ってからマナにも同じ内容を話す予定でいる。
前を歩く三人を少し離れた位置から見ながら歩き、ナナミの方を見る。
そのせいか、周りから変な視線を向けられる。すれ違う人、性別年齢問わずにだ。
あの三人は基本一緒に行動している。あの輪にはナナミが必要だ。
「⋯⋯結果はやらない事には分からないか」
俺が見ていると気づいていか、振り返ったナナミは柔らかく微笑んで軽く手を振った。
俺もお返しで手を上げる。
回転寿司に着いてからアリスは遠慮なくガツガツと食べ始める。
サナエさんはスマホでネット検索して俺の配信での収益がどれくらいか予測しているサイトを開いていた。
そこから遠慮を無くして食べ始めた。
⋯⋯四万で足りるよね?
ナナミも食べ始める。躊躇は感じないが、この二人よりかは胃袋は小さいらしい。
「キリヤは食べないの?」
アリスが何も手を出さない俺を見て不思議に思ったのだろう。
「ああ。なんか食欲が無くてな」
「食わないと倒れるし集中力も落ちるんじゃない?」
「⋯⋯それもそうだな。無理にでも腹に入れるか」
食べる。うん。ちゃんと美味しい。
しかし、腹に入って行く感覚がしなかった。お茶を飲んでも味はするが飲んだ感覚がしない。
満腹にもならければ空腹にもならない。
「何なのかしら、これ」
「「「ッ!」」」
「ん?」
三人が一斉に俺の方を向いたので驚いた。
顔に何か着いているんだろうか?
「どうしたの?」
「いや、さっき」
「うん。なんて言うか⋯⋯」
「キリヤ氏らしからぬ物言いっす」
「さっき⋯⋯確かに?」
まるでレイやツキリみたいな話し方だ。意識してないので無意識にあんな喋り方に?
⋯⋯もしかして、種族の影響がこの人間状態でも現れ始めてるのかな?
強い力の代償だと考えるなら、安いがな。
ただ、これからは意識しながら会話した方が良いだろう。
「⋯⋯うっし。そろそろ本題に」
本題に入ろうとした。ただ、机の上に置かれた皿のタワーに言葉が詰まった。
まだ十分も経ってないのに。
しかも、どれも一番高い皿だ。
「⋯⋯はは。これはなんと言うか、不安になるな」
「キリヤ、足りなかったら私も出すよ⋯⋯三百円なら持って来たから」
「アタシは二十円! 道中で飲み物買ったからね」
「わてはそもそも人間やないから食事とか諸々必要あらへんので無銭っす」
「え、なのにそんなに食べてるの?」
「味はするので!」
忘れていたが、サナエさんは地球の魔王によって転生させられたんだ。
人間の見た目をしているが中身は違う。すっかり忘れていた。
本題を切り出す心構えが崩れたのは言うまでもない⋯⋯しかし、気を取り直して話す事にした。
重要な事だと思ったから。
近くで支えてくれた人達には言うべき事だから。
「実は⋯⋯」
「そろそろ終わりが近いんでしょ? それで長期間居なくなる、そんくらいの話でしょ?」
「⋯⋯軽くない? 俺今めっちゃ重要な話する重苦しい雰囲気出てたよね?」
「キリヤがアタシらに奢るって事は重要な話、今の状況的にこのくらいしかない⋯⋯幼馴染を舐めんなし。もう高校生だぞ」
アリスは俺が話す事等諸々全て察していたらしい。
敵わないな。こりゃあ。
「アタシは戦えない。応援しかできない⋯⋯それと待つ事。絶対に帰って来る⋯⋯信じてるからね?」
「ああ」
「わては何かを言えたり望める立場じゃないっすね。元は命を狙った敵っすから⋯⋯ただ、感謝はしてるっす。こうしてわてを殺しの道具から人間にしてくれた事、今はこうして人間やないけど、親友としてここにいれるのは皆のおかげっすから」
アリスが感極まったのか、サナエさんにハグしていた。
「私は一緒に戦う。それだけ」
肩に頭を乗せて来るナナミ。
髪が首をくすぐり、少しむず痒くなる。
「そうだキリヤ」
「なに?」
「ナナミを悲しませたら許さないからね。あんたの帰る場所が無くなると思え」
「もちろん。そんな事しないよ。ナナミと一緒に帰って来る。この場所に」
「そう。なら良い。⋯⋯そん時は回らないお寿司ね」
「ああ。回らなくて安い場所を探すから安心しろ」
サナエさんとナナミを送り届けて家に帰る。
それからマナを俺の部屋に呼び出して同じような話をする。
さっきはアリスに先を越されたが、自分の口でちゃんと言うんだ。
リビングにしなかったのは両親に知られる訳にはいかないからだ。
「兄さん」
「マナ⋯⋯実は」
俺の言葉を遮るように飛びついて来るマナ。
「行くんだね」
「俺の周りには勘の鋭い人ばかりだ」
「帰って来るんだよね?」
不安なのだろう。俺を抱き締める力が一段階上がった。
「もちろんだ。しばらく心配させるかもしれん」
「ダンジョンに行く時、ずっと心配している。もう慣れっ子だよ」
涙を溜めた目を隠しながら最大限の明るい笑みを浮かべるマナ。
優しく、抱きしめ返した。顔が見えないように。
「心が沈んだ時、浮かせてくれてありがとう。支えてくれて、ありがとう」
「はは。恥ずかしい事言うねぇ」
「ああ。すっごい恥ずかしい。今めっちゃ顔真っ赤だよ」
「お兄ちゃんの恥ずかしがる顔、男バージョン見たいなぁ」
「ダメだ」
「そっかぁ」
俺の肩で涙を拭いたマナは強く押しながら立ち上がった。
くるりと回転して背中を見せて、天井を見る。
「行ってらっしゃい。帰り、遅くなっちゃダメだからね」
震える声で、言葉を絞り出してくれた。
「ああ。行ってくる」
種族を解放して、窓を開ける。
爽やかな風が部屋の中を通り抜ける。
そこからは一言も言わずに窓の外に飛び立つ。
「さーて、行くとするか」
「キリヤ〜」
自分の部屋の窓から身体を出て俺の名前を言うアリス。
「いってらー」
「おう。ちょっくら最強になって来る」
月まで一直線に飛行する。もう後戻りはできない。する気は無い。
最後の進化を終わらせて、侵略戦争を完全に終了させる。
家族、友達が死ぬ運命をぶっ壊す。
⋯⋯なぁ魔眼。答えて見ろよ。
今、十年後の運命。
俺の大切な人達は死ぬのか?
『演算不可』
「違うね」
お前が示す運命はただ一つだ。
「生きる、100パーセントだ」
俺が月面に足を着けると、既に待っていた皆が顔を出している。
未だにぎこちないアイリスとローズの間にユリが入っている。
ユリの両腕、あるいは両翼と考えればカッコイイが⋯⋯純粋に隣に立つのが恥ずかしいんだろうな。
「キリヤ」
後ろにナナミが立つ。
そして上からレイが降りてくる。それだけでは無い。
俺の知らない顔の魔王や知っている魔王までもが顔を出す。
金星の魔王、ミダス以外の魔王が揃った。
「キリヤ、君は初代勇者の力をその身に宿した。本来は反発する力、もしかしたら身が持たないかもしれない」
「それでもやる。世界を断絶する力を得るには、それに耐えるには、世界に想像された勇者と魔王の力が必要だから」
「そう。ならワタクシ達はアナタ達の帰りをここ月で待ってるわ。最後の因子を回収して来なさい⋯⋯最悪、殺しても構わないわ」
「良いのか?」
「⋯⋯魔王達は全員友人同士、でも⋯⋯彼は裏切った」
レイは悲しそうに俯いた。
他の魔王も重苦しい顔をしているが、誰もが何かを言う事は無かった。
「今でも友だと思ってる?」
「まぁね。何億と言う年月をこの世界で過ごしたのよ。離れていても、友人以外の考えは無かったわ」
「そっか」
俺は翼を広げ、ナナミを抱える。
同時にユリとローズも翼を広げる。ローズが血を使って荷物を運搬する機械のようにアイリスを持ち上げる。
「それじゃ、金星に行って来る」
魔王達の因子を一度に全て身体に入れて完全な魔王の力を手に入れる。
レイの協力で魔王達の合意は得られた。彼らにとって重要なのは奴らから逃げて平和に生きる事らしい。
魔王の力を完全に得るには全ての因子が必要。
最後の一ピース、金星の魔王が持つ因子を手に入れるべく俺らは金星に向かっている。
◆あとがき◆
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