第177話 世界に轟く戦闘

 茜色に染まった日本の空を駆ける黒閃と閃光。


 正反対の色をした二つの光は交差しながら日本の空を駆け回る。


 既にモンスターが日本に現れて戦っている事実は広まっており、対策のために動かれている。


 しかし、上手く対策できないでいる。


 何故か。理由はとても単純だった。


 疾いのだ。


 二つの光は異常とも呼べるスピードで争っており、普通の人間では援護すらできない。


 このインフレ環境には追いつけないのだ。


 日本の探索者で上位の者には称号を与えられる制度がある。


 しかし、称号持ちであってもこの戦いには参加できない。


 “空のあれなんなの?”

 “ドラゴンらしいけど、ダンジョンにドラゴンっているっけ?”

 “希少種だけどいるぞ。剣持ちは情報皆無だけど”

 “そもそもなんでダンジョンからモンスターが出てるの?”


 “ダンジョンとは限らんだろ。どっかか忘れたけど空からモンスターが現れたって事件あるやん”

 “闇に包まれて良く分からないあれね”

 “つかドラゴンと戦ってるの誰?”

 “マジでわからん”


 “日本の空で戦って欲しくないわ。どっか行けよ”

 “上見とけば視界には入るよな”

 “まじで日本で戦うなよ。つか誰だよ”

 “空を飛べる種族なのは確実だよな?”


 “自衛隊が魔力砲担いだ軍用車両動かしてるの見たわ”

 “日本政府もガチ対策始めてんのか”

 “でもあんな高い所当てられるの?”

 “行ける行ける。当たるかの心配だろ”


 “実物が未だに見れない程に疾いのか”

 “音と光しか俺らには分からん”

 “写真撮った人いるー?”

 “カメラ向けたら消えてる。構えて入った瞬間に指動かしても取れん”


 “スマホのカメラじゃまず無理。スピードが速すぎる”

 “どうなってんの?”

 “軍基地の方でも魔力砲の準備始めてるぞ。大量の魔石を運んでるらしい”

 “ガチか。イレギュラーの対応がなんか早い気がする”


 “化学兵器レールガンも出番あるかな”

 “スピードだけならレールガンの方が上だし使うかも”

 “ただ火力が魔力砲より落ちるよな”

 “多分人間側の味方だと思われる黒い方に当たらん?”


 ネットでは数々の意見が飛び交っていた。


 空で戦う両者は言葉を交わす事も無く、スピード勝負をしていた。


 (雷の龍、ここまで疾いかっ)


 サキュ兄は既に全力のスピードとテクニックを使っていた。


 しかし、龍の方は余裕を見せている。


 「ガハハ。ここまで互角に戦える相手がいるとは面白い。だが、そろそろ限界なんじゃないか?」


 「黙れ。お前がいると、ナナミが死ぬんだ。そんなの、絶対に嫌だ!」


 「この世界の生命体は全員死ぬ、平等にな!」


 「尚更倒す理由ができた!」


 キリヤの最速にも手加減で対応される。


 『このままじゃ負けるわね。そろそろアーシの出番よ!』


 月明かりを圧縮した完成する弾丸の魔法、それを龍に向かって放つ。


 しかし、回避された挙句にキリヤの背後に回られる。


 未だに手加減している用でキリヤも対応して回避する。


 自身を強化できる魔法は展開できるが効果範囲外に出てしまう戦い方をしている。


 領域を広げて炎の龍と戦った様にするのも難しい。


 大きさやパワーは炎の龍に及ばないが、それを補うだけのスピードが存在している。


 (今の俺がコイツに勝つには、何をすれば良い。何があれば良い)


 カラスとハヤブサと言うレベルでもない。


 カラスとロケットだ。


 「はああああ!」


 「クハハ。気合いじゃどうにもならないんだよ!」


 「ちぃ」


 ギリギリの回避も見飽きたかのように龍はため息を零した。


 十分遊んだ。そんな雰囲気を醸し出す。


 「あのガキの力を微かに持ってしてもソレか。もう十分だ。所詮はガキの劣化サキュバスか!」


 あのガキとは勇者の事だと思われる。


 雷の龍とて評価しないといけないレベルの強者だった事になる。


 世界の意思によって作られた勇者と魔王の二人は龍にも勝る力を持っていた事になる。


 その二つの力の鱗片を受け継いだキリヤ。


 しかし、目の前の龍には届かない力しか持っていなかった。


 スピードが負けている。サキュバスなのでパワーなどでは勝ち目がない。


 「もう終わろうぜ!」


 龍がキリヤを蹴り飛ばし、その勢いは太平洋まで吹き飛ばした。


 「⋯⋯かはっ!」


 一瞬意識が飛んでいた事実に驚愕するが、そんな暇も無く龍の追撃が入る。


 電撃の魔法攻撃。そのスピードは龍と同程度と言えるだろう。


 「負けるかああああああああああ!」


 吹き飛ばされるベクトルを捻じ曲げて魔法を回避する。


 刹那、真上へと現れた龍の剣が落ちる。


 「ぐっ」


 防御はするが脆い。


 海の底へと叩き落とされる。


 バシャン、キリヤを叩き落とした衝撃は辺りに伝わるだろう。


 「終わりか?」


 「⋯⋯終わらない!」


 海を弾き飛ばしてクレーターを作り脱出する。


 沖の方では小さな津波が起こってもいても不思議では無い程の衝撃。


 地球でやって良い戦闘ではないだろ。


 「はぁはぁ」


 飛び上がり龍へと接近する。


 「そうでなくちゃな!」


 攻撃を防ぐが吹き飛ばされるのを繰り返す。


 ロシア、アメリカ、中国、北極、様々な場所に向かって行く。


 世界の上空で戦う二人。


 月明かりを浴びて強化されたタイミングもあったが、すぐに日の当たる場所に出る。


 (もっと速くならないと。もっと速く!)


 「どうしたサキュバス! スピードが落ちて来てるぞ!」


 世界各地でこの事は話題になり、対策が急ピッチで行われた。


 “待って真情報見てたら気づいたんだけど”

 “俺も俺も”

 “ドラゴンと戦ってるのサキュ兄じゃん”

 “ヤバいって。てかなんで?”


 “サキュ兄ってこんなに強いの?”

 “サキュ兄とは限らなくない?”

 “装備がサキュ兄と一緒。あと四翼のサキュバスはサキュ兄くらいだろ”

 “サキュバスで進化する人がまず珍しい”


 “戦闘寄りに進化したのは多分サキュ兄が初”

 “嘘だろなんで”

 “てかサキュ兄負けたらやばくね?”

 “まじかよ。高校生で命託すの不安定なんだけど”


 “サキュ兄は少なくともお前よりかは強い”

 “そろそろ六分か。サキュ兄の体感だとどんだけ長い戦闘なんだ”

 “つか押されてねサキュバスの方”

 “ザコじやんw”


 “世界が動いているのに手伝えない戦いをこなしてる奴にかける言葉じゃない”

 “世界の終わりは今日だった”

 “詰みやん。詰み”

 “頑張れサキュ兄!”


 “世界ランカーも全員動きているらしいぞ”

 “世界的に見たらサキュ兄はまだまだだと思いたい”

 “そうじゃないと本当にやばいって”

 “なんか助けになれないかな?”


 “サキュ兄そのドラゴン魅了しろよ”

 “負けるな!”

 “サキュバスが勝てる訳ない。終わりだ終わり”

 “まじでどうすりゃ良いんだよ”


 ◆


 一方月の都では。


 「良いのねユリちゃん。これは初めての事でシミレーションもできてない。ワタクシが死力を尽くすけど、失敗する可能性の方が高いわ」


 「お願いしますレイ様。今私には力が必要なんです。僅かな可能性でも縋りたいのです」


 「⋯⋯その覚悟受け取ったわ。ああ、全く。これは計算外。なんで気づけなかったのかしら! ラッドもラッドで何してるのよ全く!」


 巨大な円形の施設にびっしりと敷き詰められた魔法陣。


 その中心にユリが正座をして優しく龍の魔石を持っていた。


 (主様、少しばかりの辛抱を。必ずやお力になってみせます。この魔石の力を手に入れて)


 「行くわよユリちゃん」


 ユリが考えて答えを出した魔石の取り込み方。


 それをレイと相談して研究中だった。


 しかし、予想外の事に雷の龍が襲撃に来ていたのだ。


 エネルギーなどの問題から龍が直接こちら側に来ないとタカをくくっていたのだ。


 (月よ。一気にエネルギーを使うけど許してちょうだい。ユリちゃんのため、キリヤくんのため、⋯⋯そしてワタクシのためにも)


 レイは覚悟を決めて魔法を起動させる。


 これ一つに月の半分近くのエネルギーを消費する。


 その量はキリヤ三人分の魔力である。


 今でさえあまり魔力切れを起こさないキリヤ。


 ユリ一人の進化を促すために使うその量は尋常じゃない。


 「始めるわよ。目を瞑って理想を思い浮かべなさい」


 「はい。お願いします」


 憧れを持って、その強さを目指して進化したユリ。


 理想、具体的なイメージができればきっとその先が進化となる。


 キリヤの剣に憧れた進化ではもう足りない。


 全てだ。キリヤの全てに憧れ強さを願う。


 地獄の業火よりも燃え上がる気持ちを沈めるように深呼吸しながら、理想の己を思い浮かべる。


 「【魂昇華エヴォリューション】」





◆あとがき◆

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