第123話 回避できないならダメージ覚悟で斬れば良くない?

 「終わりだ。弱き後継者よ」


 まずい。


 「ご主人様!」


 ユリ、ローズ、アイリスが俺の前に現れてペアスライムの盾を構築する。


 ダメだ。それだけじゃ足りない。


 後ろにジャクズレとチノイケが現れ、魔法の壁を構築する。


 それでも足りないだろう。


 「まだだ!」


 アイリスが叫ぶとホブゴブリンやコボルト、仲間達が組体操のように集まりだし、全員で盾を作り上げる。


 「自分らが主人の盾となります」


 「私達だって、ずっと護れるだけの存在でありたくない!」


 「踏ん張るぞ!」


 全員の魂が重なってできた盾に猛火のブレスが直撃する。


 今回は魔力でコーティングできてないため、ペアスライムの盾の防御力は落ちている。


 だが、全員の気持ちが一つとなった盾は俺が何もしなくても、強固だった。


 「塵一つ残さん!」


 「耐えてみせる!」


 影の中から出て来るトウジョウさんが作ったポーション。


 既に蓋は空いており、飲める状態だった。


 ライムがポーションを運び、俺の口に持って行く。


 ⋯⋯しかし、先程の攻撃で全く動けない俺。飲める状態でも無かった。


 内部からの方が効果的なのは分かるが、飲めないので怪我している場所にふりかけて欲しいところ。


 「はぁはぁ」


 「よもや。この程度の実力者達に我がブレスを防がれるとは。まだまだ未熟よな」


 「これで未熟とか。俺らは赤ちゃんかよ」


 「主様!」


 ユリが飲めない状況だと察してか、急いで隣にやって来た。


 「ライム貸して」


 ライムからポーションを受け取ると躊躇わず自分の口に含み、俺の口へと移す。


 ユリの真剣な眼差しを見ながら、ゆっくりと無理やり流し込まれるポーション。


 中に入ると、ぽわぽわと暖かい感覚に身が包まれて痛みが引いて行く。


 折れていた骨が完全に治った。


 トウジョウさんのポーションは効果が凄い。お値段以上だ。


 「助かった、ユリ」


 「⋯⋯い、え」


 「ユリ?」


 ッ!


 『精力』と言う能力が俺にはある。一度使ってから封印しており忘れていた。


 相手を興奮状態にするその能力はキスする事が条件で発動する。額でも頬でも同じ効果だ。


 俺にポーションを飲ませるために重ねた唇でも条件は満たされる。


 鼻息が荒くなり、頬が真っ赤に染まるユリ。


 その瞳は何を見ているのか分からないくらいにとろけており、吐く息は少しだけ白かった。


 「ごしゅじんしゃま」


 大きくなってから呼ばなくなった俺の呼び名、懐かしさを噛み締める前にユリが刀を持った。


 「じきゃんをかせぎましゅ!」


 呂律が回らないのか、少しだけ頼もしさが消えた。


 でもありがたい。


 俺はライムに預けていたレイから貰った白い薬を取り出す。


 「コイツに賭けないと全滅だ。頼む、俺に力をくれ!」


 口に含み、ごくんと飲み込んだ。


 刹那、強烈に全身を巡る痛みに絶叫する。


 失敗? まずい? そんな考えが出て来ないくらいに痛い。


 「ああああああああ!」


 痛みと同時に骨格が変わって行く気持ちの悪い感覚が芽生える。それだけじゃない。


 心の奥底、深層から溢れ出てくる魔力が尋常じゃない。


 このままでは⋯⋯いし⋯⋯うしな。


 俺の意識は飛んで、倒れた。


 ◆


 「みんにゃ、じかんをかしぇくじょ!」


 「姉御大丈夫か!?」


 「ユリ様⋯⋯」


 「だいじょーぶ! なちゅかしいかんかくよ。いみゃならどんなきょうてきやろうとかてるきがしゅる!」


 「コレはダメだな。皆、気を引き締めろ! 俺らの中で一番強い姉御が戦える状況じゃない!」


 アイリスの叫びに一層、空気が重くなる。


 ただでさえ逆立ち、飛んでいなくても勝てるような相手では無いのだ。


 実力の差なんてのは主との戦いを見ていれば嫌でも分かる。


 今のアイリス、ローズが数段階の覚醒を奇跡的にできたとしても実力は追いつけないだろう。


 それだけの強敵相手にどうやって時間を稼ぐか。


 ジャクズレの不死の軍団も超高火力かつ超範囲攻撃の魔法を使える奴には意味が無い。


 無駄な命は散らせない。


 弱い頭と分かっていながらもアイリスは考えを巡らせる。


 同時にローズも考える。


 異世界にも存在しないだろう毒を生み出せる自信があるローズ。


 それでも、毒の性能はドラゴンの毒耐性を貫けるか不安が残る。


 そもそも体内で炎を生成できるのなら、回る前に消される可能性がある。


 血だって簡単に蒸発するだろう。


 ユリ達とは違う進化をして得た力がこの場面では全くの役立たたず。


 能力無しの純粋スペックならばアララトにも劣ると断言できる。


 「先程は面食らったが、貴様らが我の攻撃を防げるとは思わん。一撃で葬り去ってくれる!」


 ドラゴンの火球が口から放たれる。


 「すぅぅはぁぁ。ホブゴブリン六体盾形成で火球をブロック」


 火照った状態でありながらも饒舌に喋ったユリの指示。


 日頃の教育でホブゴブリンは恐怖に足を震わせながらも実行する。


 強力な攻撃を受けてジリジリと後ろに押されて行く。


 このままでは防御も突破されるだろう。


 「はっ!」


 ユリがホブゴブリンの肩をジャンプ台代わりにして高く跳び、今すぐにでも防御を突き破って仲間を消し炭にするだろう火球を切断する。


 「ほう」


 「魔法を斬る練習はしましたから⋯⋯気を引き締めろ。目の前にいる敵は過去類を見ぬ強さだ。だが、弱い我々には本気を出さない。時間を稼げれば良い。主が目覚めるまでだ!」


 「それを我の前で叫ぶとは、脳が動いてないようだな」


 キリヤがギリギリで避けた大量の火球群が生み出される。


 その一部は主へと向かうと予想はできている。


 「アイリスは主様の護衛を、ローズは私に合わせて。アララトも同行」


 「御意」


 「分かった!」


 「はい!」


 ローズは翼を広げてドラゴンに向かって行く。


 スピードが圧倒的に負けており、身体を引き裂かれる。


 吸血鬼の再生能力で瞬時に元通りになり、血の忍刀で攻撃する。


 「やはり、硬い」


 「ぬあああああ!」


 アララトの斧も向かうが通らず、反撃の火球に阻まれる。


 「力の流れ、反発してはダメだ」


 火球と打ち合っても負けるのは自分。


 ならばどうするか。


 力の流れを曲げて斬る。


 「受け流して切断する!」


 アララトに迫って来る火球を⋯⋯ユリは斬る事に成功した。


 レイとの猛特訓の末会得した魔法を斬る技術。


 だけど完璧ではなく、酷い火傷を負う。


 しかし、興奮状態では火傷の痛みを感じない。衰える事の無い攻撃で火球を斬り裂く。


 今のユリには力の流れが矢印として見えている。


 矢印に刃を刺して、望む方向に動かす事でパリィしながら斬る。


 燃えて巫女服が黒くボロボロになろうとも、肉が焼け落ち骨が露出しようとも。


 全ての火球を切り裂く。


 ユリは例え自分の身が朽ち果てようとも、主を護ろうと考えているのだ。


 だからこそ、止まらない。止まれないのだ。


 ◆


 「ラッドが誘いもなく来るって珍しいわね」


 「レイ、少し話がしたい」


 椅子と机を用意し、対面に座る。


 紅茶も用意して、レイがすする。


 (うん、ローズちゃんの入れた紅茶に慣れるとワタクシの紅茶凄くまずいわね)


 笑顔を崩さずそんな事を考え、ラッドが重い口を開くのを待った。


 「あの男(?)に肩入れする理由はなんだ」


 「肩入れなんて⋯⋯もう時間が無いのよ。実際、今も彼は戦っているわ」


 「ああ。勝てるかは⋯⋯怪しいところだが」


 苦しい顔をするラッドは厳つい顔をしながらも、どこか子供を見守る親のような顔だった。


 「コレが最後のチャンスだと思っているわ」


 「だからココを渡したり、訓練にも付き合っていると?」


 「それもあるけど⋯⋯彼ほどの逸材はいないもの。この先これ程の奇跡は起きない。何億年、奴らの侵略に備えてようやく巡り会えたチャンスなのよ」


 まだ原始人と呼ばれている時代から既に準備は始まっていた。


 賢くなった人間、それは嬉しい事である。


 だが反対に準備がしにくかった要因でもある。


 「彼は勝つし、のんびりとお話しましょうか。君にはその権利がある訳だしね」


 「そうさせて貰おう。人間を誰よりも嫌っているお前がどうしてあの子に固執するのか、気になるところだ」


 驚きを表すように目を見開くレイ。


 「心外ね。ワタクシが嫌いなのは元いた世界の全てよ。人間が嫌いな訳じゃないわよ!」


 「あ、そう」





◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます

★、♡、とても励みになります。ありがとうございます


次回、キリヤの秘密が明かされます

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