第22話 元ゴブリンに語る配信の意味

 「ふへぇ」


 己の心と戦って、ようやくここまで成長した。


 二十体近くのゴブリンに、三体のウルフを魅了する事に成功した。


 どのようにしたのか、言いたくもないし思い出したくもない。


 「はぁ。疲れた」


 先程で一区切りつけて、魅了を終わらせよう。


 俺は防具を着ながら、ユリがゴブリンとウルフの管理を行っているのを眺める。


 「よし。今日からは訓練をメインにして行こう。ゴブリン一体一体の強さは当然、連携も強化していこうと思う。それだけじゃなくて、回避能力を上げて行く予定だ」


 「了解しました!」


 ユリが手を挙げながらそう言ってくれる。


 子供の面倒をみているようになるが、この中では一番強いのがユリだ。


 今後の成長次第では、俺と一緒に最前線で戦えるようになるかもしれない。


 今はまだ、俺とユリの実力差がかなりあるので、隣り合わせで戦うのは厳しい。


 回避能力の向上に関しては、純粋に生き残るための技術だ。


 できれば背後からの攻撃や不意打ちをノールックで回避できるレベルに上げたい。短期間では難しいけど。


 そして二日間を利用して、チームとしての強さを上げた。


 「そろそろ配信するか」


 「ご主人様。気になっていたのですが、その丸いのはなんですか?」


 「これはカメラ⋯⋯って言っても分からないか。えっとね。他人に俺達の成長記録を観てもらうための道具だよ」


 「意味はあるんですか?」


 意味か。あるとしたら自己満足だろうな。


 「俺が辛い時、たくさんの励ましコメント⋯⋯その他人の人達に励ましてもらったんだ。俺達の成長で元気を貰った人が、俺達に元気を返してくれるんだよ」


 「難しいです。ですが、ご主人様が良いのなら我々は良いです! それでは、三層に行きましょう!」


 「ああ」


 俺はライブを始めてから三層に向かう。


 “長く感じたぜこの時を!”

 “ユリちゃんは日本語ペラペラ”

 “んーぎゃわいい”

 “今日は何するの?”


 “待ってましたぞ!”

 “サキュ兄お久!”

 “ユリちゃんの武器変わってね?”

 “エロ待ち(正座半裸)”


 ユリの武器は短刀にしている。


 修行中に金を稼いでユリの武器を強化したのだ。


 「もっとお金を稼いだら、レザーアーマーを強化したいな」


 ブカブカの防具なら問題ないしね。


 あるとしたら、やっぱり鉄とかの金属じゃないから防御面に不安が出る事だ。


 結局、防御面に不安は残るな。


 「ご主人様、二体のウルフがおります」


 ユリが先行して敵を発見して、俺に報告してくれる。


 ウルフ二体なら、今の俺達なら問題ないだろう。


 「ユリが編成を考えてみて」


 彼女の成長に繋がるためにも、今回は彼女に任せようと思う。


 ユリは一体のウルフと四体のゴブリンを選出した。他は俺の護衛兼見学である。


 少数精鋭で連携の力を見せるらしい。


 戦い方は一体のゴブリンとウルフで一体の敵を牽制し、残り三体のゴブリンで一体のウルフを倒す。


 倒した後に牽制していたウルフを倒す。


 「私もすぐに援護ができるように近くにいます」


 「分かった。俺も上で待機しておくから、やってみて」


 「ありがとうございます!」


 ユリは自分だけの成長を目指しておらず、きちんと仲間も強くしようとしている。


 二度の全滅で自分だけが強くては意味が無いと気づいたらしい。俺も同じだ。


 俺だけが強くても仲間の全滅を防げる訳じゃない。


 個々の力、軍としての力が必要なのだ。


 サキュバスの魅了と言う能力で築き上げた関係のチームだけど、できたからには守り抜く。


 俺はライムを強く抱いて、飛んで見学する。強すぎたのか、苦しいと腕をペチペチしてくるライムに癒される。


 カメラの高度よりも高い。


 “かわいい!”

 “相変わらず抱き心地が良さそうだな”

 “魅了は動画に残しておこうぜ”

 “数が増えてるなぁ。かなり”


 “ウルフ魅了してくれ。観たい”

 “頑張れ”

 “頼もしいなユリちゃん”

 “ファイト”


 ユリの合図によって指定したメンバーが飛び出し、ユリも後ろから追いかける。


 すぐに気づいた相手も迎撃に向かう。


 ウルフが前に出て、一体のウルフを爪で攻撃する。そのタイミングでペアのゴブリンも攻撃する。


 残ったウルフにゴブリン三体が瞬時に群がり包囲する。


 槍持ち三体だ。


 二体が槍を突き出しながら刺す事を狙い、もう一体が目を狙っている。


 攻撃を絶対に受けないようにして、爪の攻撃は余裕を持って回避し、噛みつき攻撃は防ぐ。


 その防いだタイミングを狙って一斉に攻撃する。


 人数の少なさによって臨機応変の対応が必要となる。


 タンクとアタッカーを切り替えての連携で小さなダメージを刻んで行く。


 一撃の重さよりも確実に勝てる戦い方をする。俺達の訓練によってゴブリン達は全員、その意識がある。


 植え付けたと言っても過言ではない。


 確実に勝たす。


 “戦いはかっこいい!”

 “あと少しで見える! 見えるのだ!”

 “もうちょっと角度を上げて”

 “あと少しなんだ!”


 攻めきれずに苦戦を強いられているウルフは我慢の限界に達した。


 ゴブリンに向かって骨を簡単に噛み砕く凶悪な白い牙を輝かせる。


 大ダメージを覚悟しての特攻、全身全霊の一撃が来るのだとゴブリン達の空気が凍る。


 「冷静に戦え! 今までの戦いを思い出せ! チャンスだ!」


 それを察して、ユリが味方を鼓舞する。


 その息吹はゴブリン達の目に決意と覚悟の炎を灯した。


 相手の噛みつき攻撃に合わせて槍を伸ばして、ダメージを受けないで相手に攻撃を与える。


 三本の槍が首に突き刺さる。だけど、ウルフの目は死んでいなかった。


 一体のゴブリンが槍を抜き取り、すぐさまジャンプする。


 目を見て何かすると判断したゴブリンはトドメを早期に狙う判断力の高さ。


 確実に倒せると考え、その上で今決めるべきと言う判断。


 それは吉と出るか凶と出るか⋯⋯サイは振られた。後は結果を待つだけだ。


 ゴブリンの槍は垂直にウルフの脳天に突き刺さり、目の輝きを失ったウルフから槍を全員が離す。


 すると、力なく地面に倒れた。


 勝利の余韻に浸る余裕などゴブリン達には無い。


 すぐに牽制しているウルフを倒しに向かう。


 ウルフ一体とゴブリン一体、それだけで連携の取り方や戦い方ってのが変わる。


 そのおかげで、二体は無事である。


 「お前達ならできる! 命を大事に立ち回れ!」


 “ユリちゃんが軍師なんよ”

 “頑張れ!”

 “胸熱”

 “神回”


 “エロがみたい”

 “一ライブに一魅了のノルマ達成待ってます”

 “イケイケ!”

 “頑張れやれるぞ!”


 ウルフが噛み付きで追い詰めて爪の攻撃を誘導させている。


 いつの間にか、俺の仲間は攻撃の誘導を覚えていたらしい。


 ウルフとのペアのゴブリンは剣を持っている。


 爪での攻撃をウルフが誘導し、その攻撃が不発に終わったタイミングで軽く撫でる。


 血飛沫が舞う中、両者の眼光に衰えは全く無い。


 命を賭けた戦いに妥協はありえない。


 攻撃が終わったタイミングは隙だらけであり、爪での攻撃後が一番隙だらけだ。


 ただ、それを何回も繰り返していると対策されるのは必然、それはアイツらも分かっている。


 俺達の訓練で学んでいるはずだ。


 槍を持ったゴブリンが前に出た。


 「⋯⋯今だ!」


 ユリの指示が飛ばされ、反応したゴブリンが槍を横向きに倒して、それを牙で挟むウルフ。


 逃がさんと言わんばかりに前に力を加える。


 そのチャンスは逃せない。


 槍持ちは突き刺して動きを鈍らせ、剣持ちが大きなダメージを与えるべく深く斬り裂く。ちょっと角度が甘いな。


 トドメはウルフが首を噛みちぎる。


 大量の血液を蛇口を捻った時のようにドバドバ流して、ウルフは倒れた。


 俺は地面に降りる。


 「良くやった。おめでとう。完全勝利だ」


 戦った者は喜び舞い上がり、戦えなかった者は嫉妬を持ちながらも戦いを思い出して相談している。


 なんとなくだが、話している内容は分かる。


 ライムに解体処理をお願いして、反省会を始める。


 ここでコメントを利用する。ユリもいずれ読み書きを覚える事だろう。




◆あとがき◆

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