第121話 地球と太陽と火星と金星の魔王
建物をぶち壊した光はニュースになってしまった。
光魔法に近いモノなので、俺だとはすぐに特定されないだろう。
もしもサキュ兄だと瞬時に特定されても、逮捕するのは難しいはずだ。
「疑われる可能性はあるけど」
なんせギルドに種族を登録してないからな。
死体はライム達の手で処理して、イガラシさんは埋葬した。
初めて行った人殺しに対して思うところが無い、そこに微かな恐怖を感じながら、いつもと違ういつも通りの日常を送る。
イガラシさんは行方不明扱いとなり、俺とアリスの空気が重い。
それを察してかナナミもイガラシさんについて触れる事はしなかった。
あの日の夜、魔王の事などを全てアリスに伝えた。話さなくてはならないと思ったのだ。
話を咀嚼するのには時間がかかると思ったが、全面的に信用してくれた。
ただ、不思議だったのはアリスは種族を得てないはずなのに十年後の未来に変化が訪れたのだ。
彼女は十年後死なない、その運命が映し出された。
アリスが聞いたと言う声の主、太陽の魔王がどんな存在なのか。
今宵、月の都にてレイから話を聞く予定だ。
大きな変化って訳では無いがあるとすれば、ユリが訓練でさらに自分を追い込むようになってしまった。
あの戦いでユリはちゃんと戦えていた。時間稼ぎだけだと責めるべきじゃない。
それに、ユリが己を責めれば周りも自分を責めるだろう。
ローズやアイリス、他の皆は一撃で戦闘不能に落ちたのだから。
俺は夜、月の都へと足を運んだ。
「やっほー。派手にやったわね」
「貴様がレイの後継者か⋯⋯本当に男か?」
「中身は男よ。可愛いわよね」
レイ⋯⋯の他に数名知らない顔がいる。
まぁ、対等に座って談笑していたのなら他のところの魔王だろう。⋯⋯魔王って他の魔王の領域に足運べたんだ。
ユリ達も訓練せずにこの場にいて、給仕をしている。不満とかないのかな?
とりあえず、面倒そうなので帰ろう。
「せっかく来たんだから座りなよ。話したい事もあるからね」
レイが俺を逃がさんとばかりに先回りして誘って来る。
うぅ、嫌だけど素直に従う。
ギロリ、と右隣の吸血鬼が俺を睨む。コイツは地球の魔王か。
「こーら、ラッド、あまり睨むんじゃないわよ」
「いや、ただ見ていただけだ。睨んでは無い。目付きが悪いだけだ」
なんか凹んでないか?
他の魔王達にも目を向ける。ちなみに地球の魔王は吸血鬼で名前はガイアラッドらしい。
「あちらがアマテラス、太陽の魔王よ」
「手を貸させて貰ったよ。友の後継者の大切な人だから」
人と全く見た目の変化が無い。でも魔王なら魔族系の種族なのだろうか?
分からない。
「シシシ、いくら考えても分からないと思うぞ。ちな、朕がアリスと言う娘に魔眼を授け力を与えたからな。種族とさほど変わらん状態よ」
「そうなんですか⋯⋯大丈夫なんですか?」
俺はチラリとガイアラッドさんを見る。
「太陽の魔王は特殊でな。これくらいしないと魔王後継者は現れない」
「つまり、レイとアマテラスさんは後継者が一人づつ⋯⋯」
「否、朕は朕を信仰し崇め奉る下々全て平等に力を与えとる。種族を得てない純粋な人間が対象ぞ」
本当に特殊っぽいな。
他の二人は⋯⋯狐の尻尾に耳。
「小僧、お主の考えている事は正しい。わっちの後継者候補を殺したな。褒めてやろう」
すごく上から⋯⋯てか、良いのか?
「あまり怯えなくて構わない。だいたい、候補者同士の殺し合いは魔王側としても推奨している。強い奴が生き残り魔王へと進化する、当然の事よ」
「火星の魔王、リューネイトよ」
「ネイと呼びたまめ。⋯⋯レイ、久々に喋るから喋り方が間違ってないか分からん。問題なかろうな?」
「ええ大丈夫よ」
「そうか」
どこか満足そうにお茶を飲む。
そして最後に⋯⋯ゴーレムである。人型の皆と違ってゴツゴツした身体なので違和感がある。
種族としてゴーレムはしっかりと存在し、守り役として優秀だ。
身体の材質は金剛石だろうか。輝いている。
「この子はミダス、金星の魔王よ」
「吾輩をこの子呼ばわりは止めてくれて、ムーンレイ」
それぞれの自己紹介をしてくれた。
皆の目線が俺の方へと向く。
「えっと。俺の自己紹介も必要でしょうか?」
「一応、初めての面識だからな。例え知っていても自己紹介をするのがマナーだろう」
怖い見た目の割にしっかりしている地球の魔王。
俺は自分の紹介をしてから、再び席に座る。
膨大な魔力の塊が数個あると言う威圧感に耐えながら、この場を過ごすのはぶっちゃけキツい。
ネイトんに関しては魔眼について詳しく聞きたいところだが。
そう言えば、イガラシさんは魔王候補者だったのだろか? 種族が知らないから分からんな。
「久しぶりの旧友との会話は弾むわね。でもこの子が仲間外れだもの、話題を変えましょうか」
レイが俺に気を使ってくれた。正直、まともに会話できる気がしない。
一人一人が俺が数十人束になってかかっても勝てそうにないくらいに強いのだ。
「そうよなぁ。君はわっちの魔眼について知りたいんじゃないか?」
「まぁそうですね。本当の目的は太陽の魔王について聞くためでした」
「幼馴染へと力を貸した存在が気がかりだったか? 安心せい。ただ、友の助けをしたかっただけぞ」
それが嘘か本心かを見抜く術は俺になかった。
と言うか、ミダスさんの口数が少ないな。無口な方なのだろうか?
レイの事をフルネームで呼んでいた当たり、何かありそうな気がする。
それを気にする事では無いと切り捨てて良いモノか、俺としては判断材料が少ないな。
旧友、魔王達が魔王として君臨する前はどんな世界でどんな生活をしていたのだろうか。
十年後侵略して来る敵はその過去に関わりがあるのだろうか。
⋯⋯ダンジョンって具体的にいつから用意されたんだろうか。
色んな疑問が出て来るが、質問できる空気じゃないので黙る。もう、帰りたい。
気まづいし、怖いし!
◆
ここはとある空間、誰もが認識できない虚空の空間。
十字架に吊るされ、骨となった今も血を流し続ける屍。
どんな理由で吊るされたのか、どのようにして血を流しているのか。
それを知るのは古き時代を生きた存在だけだろう。
崩れかけている世界を保つために違う世界を侵略しようとしている。
自分達の行いは生き残るためには必要な事であり、そこに善悪は関係ない。
誰もが生きるために工夫を凝らし、他者の命を奪う。
それは化け物であっても動物であっても人間であっても変わらない。
生存競争は世界規模でも起こるのだ。
「ようやく繋がった。まずは君が向かうと良い。入口はまだ小さい。君しか行けないだろう。死ぬかもしれない。だけど、最大限暴れてくれ」
侵略する世界に住まう生物は多くないと言う情報を持っている。
ソイツが動けば大半を消し去る事ができるだろう。
信仰して魔王の力を高める源を断つために、ソイツは動く。
「我々の世界に恨みを抱き別世界で魔王として君臨している、それは大きな間違いだぞムーンレイよ」
誰かに話す訳でもなく、ただ独り言のように空に向かって話す。
違う世界へと旅立つ友の背を見ながら、遠い昔の話を思い出す。
「アイツを倒せる存在はいるのか、ガイアラッドよ。お前が動かねば崩壊は免れぬぞ」
一方的にゲートを繋げるのは難しい。
トンネルだって片方の道から掘り進めるだけでは時間がかかる。
だからこそ、反対側からも一緒に掘り進めるのだ。
作業ペースは二倍となる。
「運命の魔眼を使おうとも、心に芽生えた劣等感は見抜けない。故に、気づかぬのだ。さぁ、最初の侵略と行こうか」
◆あとがき◆
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