第145話 楽しい楽しい夏祭り

 夏祭りは本格的に始まりだし、人気のない茂みの中で初対面の姉妹がいた。


 ナナミとマナは状況を呑み込めてないが、そのまま進行させて貰う。


 「⋯⋯なんと言いますか、あては姉ちゃんの妹です」


 「⋯⋯ごめんっす。なんて言えば良いか。正直に言えばまだ疑ってるっす。これまでそんな話聞いてないし、こうやって面と向かっても分からない」


 俺達が密かに行った検査によって、DNAで二人は姉妹だと確定している。


 精霊の身体と言っていたが、基本は人間に近い感じだった。


 自然と髪の毛は抜けるし、ご飯も普通に食べる。


 必要ないらしいが、食べている方が安心するらしい。


 初対面の二人、姉妹だと確信させてくれるのは検査結果を表す紙一枚。


 手紙の関係も嘘だと確定した瞬間、カナエちゃんはどう反応するか。


 「そ、そうですよね。ぶっちゃけあてもいまいち分かんないです。でも、でもですよ? なんとなく、近い空気と言うか懐かしい感じがします」


 「そう、っすか」


 戸惑いを見せるサナエさん。


 カナエさんは何かを感じ取ったらしいが、サナエさんはピンと来てないらしい。


 マナは友達と遊ぶために俺達とは離れて行く。


 夏祭りを全力で楽しむ事となった。


 絶対に当たらない紐を引っ張るタイプのクジや無くなったら足すだけやから精神のクジを楽しみたかったが、無かった。運命の魔眼、すまん。


 定番の射的をしたり。


 「キリヤ壊滅的に下手だね」


 「ゆ、指ならば」


 「止めろよ」


 ナナミも射的をしたり。


 「ナナミンも下手だね」


 「火薬が足りないんじゃないかな?」


 「火薬を使ってたら大問題だよ?」


 イガラシ姉妹は射的で欲しい景品を手に入れたりしていた。


 アリス? アリスは俺と同じ結果だよ。


 焼きそばを食べたりもする。


 「あ、これ苦手。キリヤほい」


 焼きそばにあるピンクの物体、紅生姜を割り箸で全部つまんで俺の口に持って来る。


 パクリと食べつつ、自分の焼きそばにも手を伸ばす。


 「「「⋯⋯」」」


 「「ん、どったの?」」


 おかしな事をしただろうか。じっと見られている意味が分からない。


 ナナミは箸で焼きそばを掘り返し、何かを探す。


 「ダメだ。もう食べちゃった」


 な、なんか落ち込み始めた。


 今日のナナミはおかしな行動が目立つ気がするけど、気のせいかな?


 型抜き屋があったので皆で器用自慢を始める事になった。


 夏祭りを楽しみ始めてから一時間は経過しただろうか?


 イガラシ姉妹は仲睦まじく楽しんでいた。仲良くなるペースがとても早い。


 それこそ血の繋がる姉妹だからなのかもしれないな。


 それでさ、ツキリさんよ? 俺は自信ないので変わってくれません?


 『肉体労働をアーシに任せないでよ。肉体労働は君の担当でしょ? 無理無理』


 全力で否定された。


 仕方ない。できるだけ頑張るとするか。


 結果的にカナエちゃん以外は見事にできた。


 「俺って思っていた以上に器用だったんだな」


 「自分で驚くんだ」


 ナナミは脅威の集中力で一番早く終わり、驚かせていた。


 さすがのスピードである⋯⋯俺達は自分達のに集中して気づいてなかったけど。


 「楽しかった」


 「そうだな。限界まで上げたのか?」


 「ううん。あの境地は中々。練習しているけどいつの間にか寝てる」


 「そっか」


 ナナミですら意識して入れない境地。


 俺の模擬戦で見せた極限の集中力。


 もしもアレをマネできたら、なんて思ったけど難しいかな。


 やっぱり俺は俺のやり方で行くか。


 「あっ」


 「おっと」


 ナナミが地面のでっぱりにつまづき倒れそうになり、俺はそれを支える。


 確認のため足の方を見ると、靴擦れを起こして赤くなっていた。


 「これだから慣れない下駄は嫌だったんだ」


 場の空気を壊してしまう事、それを恐れたナナミは無意識に悪態をついた。


 気づかなかったけど、ずっと痛かったんじゃないだろうか?


 かなり赤く広がっているのでちょっと前からではない。


 それを隠していた可能性は?


 アリスも動揺を隠せない様子だ。親友の痛みに気づけなかった事はアリスにとって悲しい事。


 「俺も人酔いしたし、休憩したい。ナナミと一緒に休むよ」


 「それだったら皆で休もうよ」


 人気の少ない場所に移動して、休憩を挟む。


 「ごめん、私のせいで」


 「そんな事無いよ。全然気にしてないから」


 ほら、キリヤもなんか言って。と視線を感じる。


 「あーこれは昔の話なんだが。同じように靴擦れを起こして、痛みで泣いた人がいるんだ。自分で履きたいって言った下駄を放り投げて、もう嫌だって言ってるんだ」


 「ちょ、キリヤそれは⋯⋯」


 アリスの顔が赤くなり始める。そう、これはアリスの昔話である。


 「その時皆で足を止めて宥めたんだ。当時の俺はうぜぇとかめんどくせぇとか全く思ってなかった。ただ純粋に心配した。どのくらい痛いのか。とかな」


 アリスが静かになり、俺の話へと耳を傾ける。


 「無理して合わせる必要は無い。いつものナナミと俺達は遊びたいんだ。痛いなら痛いって言って欲しい。素直になって欲しい。空気を壊すなんて怯える必要は無い。後になって言われる方が俺達は怖いんだから」


 「⋯⋯ごめん」


 「謝らなくて良いよ。その事を素直に言われるような友達になりたいとは思う。アリスやサナエさん達だってそう。ナナミ、この程度の事で楽しい空気が壊れるとか勘違いしちゃダメだ。俺達はそんな奴らじゃないからな」


 ずっと言っているつもりだが、やはりナナミにも思うところはあるのだろう。


 小さい頃のトラウマなどは引きずってしまうものだ。


 まだ友達ってのを理解できてないのだ。それは俺にも言える。


 はっきり言えば、幼馴染であるアリスを除けば友ができたのは高校生からだ。


 最初はヤマモトが話しかけてくれて、次にナナミと剣をぶつけた。


 心が通じたと言うのならナナミの方が最初だろう。剣士はモノを剣で語るからな。


 「あ、アタシ、さっき唐揚げ見つけたから買ってくるね」


 「わてらも行くっす」


 「うん」


 そうだ。それが正しい。


 離れて行くアリス達を見送る。


 友ができずにここまで来たんだ。接し方なんてのは分からない。


 とても難しいんだ。初めてできたからこそ、失うのが怖くて慎重になる。


 それが空回りであり逆効果だとも気づけない。


 ナナミ、君の気持ちを一番理解できるのは俺かもしれない。


 アリスは友達が多い、サナエさんは俺よりも友達ってのに疎い。


 カナエちゃんは論外だ。年下だから意見するのは難しい。


 友がいなかった、支えとなる人がいなかった、世界線の俺がナナミなんだ。


 「ナナミ、皆居ない。周りにも人の気配は無い。弱音を吐いて構わないよ。俺達はそう言う関係のはずだ」


 俺がナナミの心の支えになる。一緒に友達ってのを理解しよう。


 踏み込むのは怖いだろう。自分の都合で周りを動かすのは怖いだろう。


 自己中って思われるんじゃないか、次は誘ってくれないんじゃないか。


 でもその怖さは一歩踏み出せば実にくだらない事だって気づけるんだ。


 人は自分の心をそのままに言語化するのが苦手だ。察して欲しいと常に願っている。


 でも現実問題それは難しい。


 だから言ってくれナナミ。今は俺しかない。


 合宿の夜、互いに吐き出した弱音を思い出してくれ。


 親友ができて、友達ができたナナミの今の心境でできた新しい弱音を。


 「今日、ずっと楽しみにしてたんだ。不思議だよ。遊ぶ事なんてくだらない、剣を振るう事ばかり考えていた私が祭りを楽しみに待つなんてさ」


 一緒だ。俺もそれは一緒だ。


 「始まってからワクワクが止まらなかった。こんな世界があるんなんて知らなかった。かき氷、焼きそば、色々美味しかった。色々な遊びの屋台もあって面白かった」


 「ああ。そうだな」


 「ずっと楽しかった。皆笑ってた。私も、少し笑ってた」


 「ああ」


 ナナミが空を見上げだしたので、頭に手を伸ばす。


 今は上を向く時じゃない。


 「呑み込む必要は無い。全て吐き出して。スッキリするんだ。俺には見えないから」


 頭を下に向けさせると、目の位置から雫が零れ落ちて地面に吸われて行く。


 ⋯⋯今のナナミは人生で一番心の弱い時じゃないだろうか?


 「足の痛みを感じ始めたのは皆で移動を初めてからすぐだった」


 時系列を思い出すかのようにゆっくりと喋り始める。


 最初から痛かったのか。それを誤魔化していた。


 気づかなかった。相手の動きを観察して対応する俺が。


 不甲斐ない。


 浮かれていたんだな。俺も。


 「最初は言おうと思った。でも、皆が何をするか喋り出すと自然と口を閉ざしてた。空気を壊すのが、怖かった」


 楽しい空気、今から始まろうとする楽しい時間。


 その直前で休みたいと言う、行動を止める言葉を出すのは難しいだろう。


 「でも結局は転びそうになって、気まづい空気にしてしまった。ねぇキリヤ、私って一緒に来てよかったのかな?」





◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます

★、♡、とても励みになります。ありがとうございます


あれ⋯⋯サブタイくん?

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