第233話 断絶の時
「ぐへぇ」
進化した瞬間に全力の一撃を放った事で魔力を空っぽにした。
その反動だろうか。動く気力も体力も無くなって意識が飛びそう。
進化したこの身体に慣れたら本格的に始めよう。世界の繋がりを断つのだ。
地球の皆から魔力を分け与えて貰うためにその瞬間は配信した方が良いだろうな。
「今は、寝たいや」
数日後、目覚めた俺は都での俺の部屋にいた。
右にはユリが腕にしがみつく形で寝ており、左ではナナミが足を絡めていた。
二人の力が強くて引き剥がせない。⋯⋯違うか。
俺が起こしたくないから動けないのだ。
「だいぶ寝込んでたな⋯⋯身体がだるい」
『そうね。こっちとしてはその間に魔力の制御練習できたから良いけど』
「俺は完全に意識飛んでたのに、相変わらずお前は元気だったんだな」
『うん。自由に飛んだりして中々に楽しかったわよ』
俺の意識が無い間にツキリが俺の身体を使って色々としていたらしい。
もしかしてだが、起きるのに数日も使ったのはそれが原因ではないだろうか。
『⋯⋯』
返事が無い。図星のようだ。
まぁ良いだろう。
ユリ達が起きたら身体の具合を俺自身が確かめるべきだろう。
いつ起きるのやら。
『さっき寝たばかりだから六時間以上は起きないんじゃない?』
「おーマジか」
『マジよ』
俺はただ、天井を眺めて虚無な時間を過ごした。
人間の姿に戻りたい気持ちもあったが、月の上なのでさすがに止めておく。
重力や空気も結界内には用意されているとはい言えど、人間の身体で耐えられる環境では無いのだ。
「⋯⋯あ。ご主人様、おはよう、ございましゅ」
「おはようユリ」
「寝起きそうそう間近にご主人様がいる。これは夢でしょうか。夢ならばまた寝て⋯⋯」
さらに力を込めて身体を擦り寄せる。
「バッチリお目覚めのようだから離してくれ」
「むにゃむにゃ」
自分の口でそれをやっても意味無いのよ。起きてるって言ってるもんなのよ。
次にナナミが身体を震わした。起きるようだ。
⋯⋯しかし、最初の動きから全く次の動作がない。目を開けてすらない。
「⋯⋯ナナミ、お前起きてるだろ」
「⋯⋯」
俺はナナミの耳から口をなるべく離して、大きな声で言う。
「ユリーソンナトコサワルナー」
「ッ!」
ナナミが飛び起きてベッド近くに置いてあった魔剣を構えた。
そして何も無い事実に気づいた後、再び俺の隣に来そうだったので、今度は俺が飛び起きた。
ユリの拘束からも外れる。
「ようやく身体が伸ばせる⋯⋯おはよう二人とも」
「「⋯⋯」」
ムスーっとした二人から返事は来なかった。
ま、良いか。
気にする事も無いと思い、俺は窓から出る事にした。
六枚の翼になったのだ。飛行速度や制御方法を確認しておきたい。
ツキリが勝手に使っていたらしいので、すぐに馴染むだろう。
「そう言えばレイ達を見かけないな」
こう言う時、真っ先に駆けつけてくれると思うんだけど。
訓練所の方から気配を感じるので、そちらに向かう事にした。
そこではレイと地球の魔王がアイリスとローズに訓練をしていた。
一段落したのか、地面に膝を着けるローズとアイリス。
「ほ、本当に力を失った状態なのかよ」
「つ、強い」
「これでも長年生きてるからね。素のステータスならアナタ達に分があるわ」
「なんとも自信を失う発言だな」
アイリスが苦笑する。
身体能力で勝っていても負けている事実。
二人が本気で戦えば互角以上の戦いはできただろうが、それはフェアじゃないんだろうな。
俺が降りると、四人とも気づいてくれる。
「気配を全く感じなかったわ」
「戦闘に集中してたんだろ。それよりレイ、俺にも一戦頼む」
身体を馴染ませるならその方が早いだろうからな。
「今のワタクシ達じゃ足元にも及ばないわよ?」
確かにそうかもしれない。
自慢とかそんなんではなく、客観的事実として。
彼らの持っていた力を俺に集約させたのだ。力の差は当然ある。
それでも闘いたいと思うのが俺である。
「まぁ良いわ。せっかくだしキリヤの全力を見せてもらおうかしら」
「ん〜全力を出せる程本調子では無いんだけどな」
「そう。後、そっちの四人も同時にね」
アイリスとローズ、後から来たユリとナナミ。
五人相手は流石に厳しいと思うが、やるだけやってみよう。
レイを除いた四人が本気モードになり、俺に接近して来る。
「さて、どこまでやれるかな」
俺はライムの剣化を拒否して素手で戦う事にした。
「【炎龍の息吹】」
「【三日月】」
手刀に魔法を乗せて剣にし、それを斬撃として放つ。
息吹を切り裂きユリに直撃した。
「オラッ!」
「そりゃ」
アイリスの攻撃を回避して胴体にドロップキックを食い込ませた。
手加減したつもりだったが、勢いが強かったのだろう。
骨の折れる音が聞こえた。
「ん〜飛行加速を乗せたキックは破壊力があるな」
ローズとナナミが対照的な位置から迫って来る。
枚数が増えた翼は純粋に羽ばたく力を大きく上げる。
なので、その場で強く速く動かしてソニックブームを意図的に起こす。
鼓膜を突き破らん勢いの轟音と共に辺りを吹き飛ばす衝撃波を生む。
「あら。一人でだいぶ強くなったのね」
「そりゃあ勇者と魔王の力が備わっているからね」
「まぁ、本家と比べると見劣り⋯⋯と言うか中途半端だけどね」
「それは仕方ない。⋯⋯でもレイ、君の知っている勇者と魔王、そして俺。誰が一番強い?」
「誰でしょうね」
俺はレイに加速して迫る。
自力で光の速度で到達できる俺の蹴りをレイはしっかりとブロックした。
だが、力任せに防御ごと蹴り抜く。
翼を使えば止まった状態からも力を乗せる事が可能だ。
「痛たいわ。やっぱりワタクシじゃもう勝てないわね」
「むしろ勝てたら凹むし、作戦成功が怪しくなるんですがそれは」
「ふふ。確かにそうね。【天満月】」
四人が月のような光に包まれる。支援系の魔法だろうか。
「ブラッドレイニー」
「ローズって血を使ってるから魔法じゃないし⋯⋯わざわざ言葉に出す必要って⋯⋯」
ただでさえ速かった血の雨の速度が上がった。
ローズの顔は見えないが、なぜか恥ずかしがっているように思える。
「行くぜ姫様」
血の雨が降る中、気にする素振りもなくアイリスが突っ込む。
アイリスだけではなく、ユリやナナミも接近して来た。
「良いね!」
それから数日後、ようやく万全の状態になった。
魔力が全回復するまでかなりの時間がかかった。
まぁ、訓練したりしてるのが良くないんだけどね。
全回復するのにそれくらいの時間がかかるくらいには魔力量があるのだろう。
「それじゃ、始めるか」
俺は侵略者がやって来る空間の目の前にやって来る。
目を凝らして魔眼を使えば、そこから何かが起こる事を示唆してくれる。
進化した今だからこそ分かる、空間にある僅かな歪みも感じ取れる。
これを切り取り断絶する事で世界同士の繋がりを切る。
それであっちの世界からは干渉できなくなるはずだ。
“ようやく始まるのか”
“結局俺らにできる事なんもない”
“頑張れ〜”
“応援してるよ”
“龍を倒してくれてありがとう”
“全てのテレビチャンネルで今サキュ兄が出てる”
“時の人やな”
“新たな偉人の誕生や”
俺はライムの剣を掲げる。
「魔力を分けてくれ!」
地球から数え切れない程の青白い魔力の光が伸びて来る。
その全てを俺に集める。
器を超える魔力量に焼けるような苦しさに襲われる。
「まだだ。まだ足りない」
本能的に分かる。まだ無理だ。世界を断つには、まだ力が足りない。
「ぐっ」
魔力に重みは無いのだろう。しかし、膨大な魔力はとても重い。
身体が潰れそうだ。
「ッ!」
俺の握る剣に二人の手が伸びる。
ナナミとユリの手だった。
「キリヤ、君の剣を支えるのは私達だけじゃない。他の皆もだ」
「ご主人様、大丈夫です」
「二人とも、ありがとう」
魔力が溜まった。
ビルを背負っているように重い。その剣を空間に向けて振り下ろす。
「これで、終わりだああああ!」
空間の歪みに切っ先が当たり、ジリジリと斬り裂いて行く。
「はあああああ!」
『行っけえええ!』
全員の声とツキリの声が重なった。
あと少しで終わる⋯⋯そんなタイミングだった。
空間を突き破り手が出て来て、俺を掴み引き入れた。
「キリヤ!」「ご主人様!」
「⋯⋯どこだ、ここは」
世界では無い何か、言うならば空間の狭間だろうか。
「正真正銘のラストバトル⋯⋯本当は望んで無かったんだがな」
俺の正面に三体の龍が飛んでいた。
龍の破った狭間の入口から、ユリ、ナナミ、ローズ、アイリスがやって来る。
「ここで終わらせる。全てだ。覚悟は良いか」
皆の答えは一つだった。
『もちろん』
◆あとがき◆
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