第234話 最終戦開幕
各々散開して、三体の龍の中で一番魔力量が多く中心に飛んでいた奴の前に行く。
きっとこいつが龍を束ねるボスなのだろう。
「もはやこうする事になろうとはな」
「⋯⋯最初からお前が来ていたら、俺達は負けていたな」
目の前の灰色の龍が襲って来たならば、俺達は全滅を免れなかっただろう。
そのくらい、絶望的なまでの強さを秘めている。
「世界を守護する使命のある我が世界を置いて行けると思うか」
「今はどうなんだよ」
「今は時空の狭間だ。こちらの世界やお主の世界とも繋がっている」
どちらの世界にも繋がっている。繋がっている事に意味があるのか?
それは星に魂をリンクさせた魔王達と同じ原理なのかもしれない。
この龍は世界と自分の魂を繋がる事によって絶対的な力を手に入れたのだ。
だからこそ、自分で侵略はしなかった。できなかった。
そう考える方がしっくり来る。
わざわざ世界との繋がりがある場所に俺を引きずり込んた理由も納得行く。
「それじゃ、最終戦と洒落こもうか」
「一方的な攻防になると思うがな」
「言ってくれる」
俺らはレイ達から龍の情報についてきちんと聞いている。
奴らのトップ、そして俺が戦う龍。
「行くぜ、逆創の龍」
「滅び行け」
灰色のブレスが俺目掛けて放たれるが、即座に回避して肉薄する。
力を抜いて俺は奴の腹に二刀流の剣技を叩き込む。
力を弱めているため、それは鱗に弾かれてしまった。
「へぇ」
「お遊びか?」
龍の身体を中心に爆ぜるので、緊急回避。
「速いっ」
奴は回避した場所に瞬時に接近して来た。
振り向く素振りすら見えなかった。それくらいのスピードだ。
巨大な身体に似合わないスピードである。空気が無いし空気抵抗とかは気にする事無いのだろうか。
いや、空気はあるのかもしれない。この場所は色々と不安定で分かりにくい。
「砕け散れ」
全身を押し潰せるサイズの拳が眼前に迫る。
ギリギリまで引き付けて横に移動して躱す。
「ぐっ」
先程繰り出したはずの拳が俺を殴り飛ばした。
全身に響き渡る衝撃。
俺達の世界で誰よりも強い存在へと進化しても、同等以上の力を持っているらしい。
「自信なくすなぁ」
「攻撃はせんのか?」
「するさ」
まだ調べている段階。情報は貰ったがそれだけだ。
自分の身体で経験しない事には掴めるものも掴めない。
だからまだ魔法の行使はしないのだ。
「次は俺の番だな」
龍へと加速する。
「翼撃!」
「ッ!」
翼での攻撃。直接的攻撃の破壊力はもちろんだが、それによって起こされる風はまるで竜巻だ。
しかし、俺とてそれで引き下がる訳にはいかない。
月光その物になって最速の移動をする。
「肉体の粒子化か」
剣が届く距離になったら、今度は本気で振るった。
「がはっ」
奴に振るったはずの剣はなんと、俺の身体を袈裟斬りで裂いた。
すぐに距離を取り、身体の再生を行う。
「ゲホ。お前、力加減をちゃんと見抜けるんだな」
「我を狙う殺意の強弱ははっきりと分かる。言ったろう。一方的な攻防になると。お主が攻に回る事は無い」
弱い攻撃は反射してもダメージにはならないから無視したのだろう。
ならば。
俺は再度接近し、剣を構える。
攻撃が通じないと豪語しておきながらもしっかりと反撃はするらしい。
確かにカウンターの方が攻撃は当てやすいが。
尻尾での攻撃を回避すると、逆回転の攻撃を背中に受ける。
「本当に身軽だな」
「それだけだと思うか?」
「思わないね。どうやってるか知ってるから」
俺は奴に剣を振りかざす。
最初は弱めで攻撃を当てる時に力を込めて加速させる。
その攻撃も『斬った』事象だけ反射して俺に当たる。
「くっそ。厄介だな」
「我には如何なる攻撃も届かぬ」
「これが逆転させる力ね」
『俺が龍を攻撃した』と言う事実が『俺が俺を攻撃した』と言う虚構に置き換わる。
その時に発生する矛盾などは一切無くなり、俺が放った攻撃が完璧に返って来るのだ。
奴がこの能力を使えば攻撃は確かに通る事は無いだろう。全て跳ね返るのだから。
「そんじゃ、次は魔法だな!」
『よーやく出番ね! 行っくわよー! 【
月光の光線が龍に命中して、その攻撃が俺に返って来る。
魔法がそのまま逆向きに返って来るので、回避はできた。
攻撃の過程があればそれもしっかり返って来るらしい。
直接攻撃は過程を省略して結果だけを返す。
「まぁここまでは情報通りだな」
「あまり焦らないのは既に知っていたからか。ならばどうする? 諦めて世界を渡すか?」
「渡したら生かしてくれるのか?」
「どうだろうな。邪魔と判断したら処分するだろう。何より、我らの魔力が広がり耐性の低い者はそれだけで死ぬ。あるいは魔物へと姿を変える」
「そうか。じゃあやっぱできねぇや」
確実にこいつらをあの世界に居座らせる訳にはいかない。
大切な人達の命がかかってるんだ。
「行くぜ!」
俺は加速して奴の正面に移動し、剣を掲げる。
奴の視界に入った状態で剣を振り下ろし、当たる直前で背後に移動。
剣に乗せた力はそのままに直撃させる。
「ぐっ」
「直前で力を抜いたか。良い判断だ」
視界に入っている攻撃しか逆転できない、そんなあまっちょろい事は無かった。
だけど今ので攻略の糸口が見えたぜ。
「宣言してやるよ。次の攻撃はお前に届く。絶対にだ」
「戯言を。自分を大きく見せたいか」
「違うね。虚言じゃない。事実だ」
「ならばやってみるが良い」
龍に向けて剣を振るった。
その剣は逆転し、龍の鱗を斬り裂いた。
「何っ?!」
「驚いてくれてありがとう。お前の能力は俺には通じないらしいぞ」
「まぐれ⋯⋯いや。そんな偶然が起こりうるはずが無い」
「おいおい。今まで無かっただけだろ。イレギュラーは絶対に起こらないなんて言えんのかよ。随分と傲慢じゃないか」
イレギュラーは常日頃起こる可能性を秘めている。それにどう対応するかだ。
奴は今まで自分の身体に攻撃が当たった事は無かったのだろう。
「そんじゃ、次行くからな!」
俺は連撃で龍に攻撃を当てる。鱗に傷が入り、ヒビが入り、亀裂が広がり、砕けて行く。
しかし分厚い。中々肉に到達しない。
「さっさと臓腑をぶちまけろ!」
「調子に乗るな!」
鉤爪が目前に迫るが、回避できない速度では無い。
能力を使って一瞬で元の位置に戻して再び振るう。
戻す時間を完全にゼロにするから、次の攻撃へシフトするのが早い。
だが、知っていれば対応は簡単である。
「何回でも避ければ良い」
「『反転』」
空間にあるのは『無』だ。それを逆創の力を使って『有』に変える。
本来なかった名も無き物質となり俺を捕らえた。
「くたばるが良い」
「そんなんでくたばるかよ」
『【
魔法で亀裂を作り、力任せに破壊する。
ただの物質でもこれは能力で作られた物で魔力を帯びてる。それならば俺の能力で特攻を得られるので、少し脆くするだけで破壊は簡単に可能だ。
破壊と同時に飛び立ちパンチを回避し、再び攻撃を与える。
「おっと」
連撃の時に変な癖がついて間違った動きをしそうになった。
それが威力の低減に繋がり、今回の一撃の与えるダメージが少なくなった。
「能力使わなかったんだな」
「なぜ分かる。我が能力に予備動作は一切無かったはず」
「そうだな。でもな、俺には視えるんだよ」
攻撃をする度に視える。お前が能力を使う運命の確率が。
『能力発動80%』
「能力の発動タイミングが分かったとしても、どうやって反射から逃れると言うのだ」
「そんなのは簡単だよ。教えてやらんが」
わざわざ手札を見せる必要は無いだろう。
俺がやっているのは単純。
能力の発動タイミングに合わせて剣を引いているのだ。
こいつの能力は自分の望むままの事象に変える能力じゃない。あくまで事象を反転させる能力だ。
『引く』と言う事象を反転させ『押す』にする。
そうすれば、自動的に奴に刃が当たる。
運命の魔眼は地球の魔王が顕現させ所持していた力だ。初代魔王も持っていたかもしれんが。
それでも、奴がこの事実に気づくまでは結果は変わらないだろう。
気づいたとしても、どう対処するのか分からないが。
◆あとがき◆
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