第163話 魅了案はブームらしい
コン、珍しくアリスが入れてくれた紅茶の入ったティーカップを置く。
美味しいと思いつつもきっと何かお願いされるんだろうなぁとは思ってる。
食事の時間以外にこうして用意してくれるのは何かある前兆だ。
「実は私も考えてみたんだよね。魅了案」
「訳が分からないよ」
「だってさー。マナちゃんやナナミンのはやってる訳でしょ? このブームに乗らないのは幼馴染としてどうかなーって思ってさ」
「幼馴染なら何もせずに慰めるもんじゃなの?」
「慰めて欲しいの? 甘えん坊さんだね〜」
イラッ。紅茶を一口飲み落ち着く。
静かに睨みつけると笑い流される。
まぁ言いたい事は分かったさ。
「嫌だね」
「それでこれが案ね」
二枚の紙を机に置いてスライドさせる。
中身を確認する前に手に取り、破ろうともう片方の手を持って来る。
「ちなみに一枚はサナの魅了案だからね。友達の考えた案を破り捨てる非道なマネ、キリヤはするのかなぁ」
ニンマリとしたいたずらっ子の笑みを浮かべる。
まさかアリスがこんな手を使うとは思いもしなかった。
結論から言えば破れない。
友達が考えた案を破り捨てる事なんて、俺にはできない。
ただでさえ少ない友達なのに、そんな事したくないんだ。
それを利用する方法は外道と言えると思うんだ。
「それで、どっちがサナエさんのかな?」
「あれぇどっちかなぁ?」
下唇に人差し指を当てて首を傾げる。分からないなぁと言うアピールをわざとらしくする。
「アリスの方は?」
「分かんない」
てへっ、みたいに拳を軽く頭に当てる。
「そうかそうか⋯⋯」
だが残念だったな。
運命の魔眼を利用すればどっちがお前のか見抜けるはずだ。
そうだなぁ。どう言う運命を視れば解決するんだろう。
アリスが書いた方の確率!
『0%』
二つとも同じテロップが出現する。
「⋯⋯えっ」
「あっれぇもしかして運命の魔眼で確認でもしたのかなぁ?」
「どう言う事だ」
「マナちゃんにパソコンで打ってもらって、印刷したんだよ。念の為にね」
ほほーう。そうか。
ならば、どっちが考えたのか視れば解決だな!
「ちなみに考えた方だけど、二人で考えて別々の案を出したから、多分無意味だよ」
「行動の先読みしないで」
アリスが俺の目を深く覗いて来る。
「どうするキリヤ? 友情を捨てて魅了しない選択を選ぶか、友情を選んで魅了するか?」
アリスの案を破棄してもこの関係は壊れない自信はある。でも、サナエさんとはしばらく気まづくなりそう。
それに影響されるかのように他の人達も⋯⋯友達が全員アリスと友達。しかもアリス寄り。
アリスの案が分からない以上二つやるか、二つ捨てるしかない状況。
または、二部一に賭けるか。
まだ他にあるはずだ。
「サナエさんの決めた方の確率⋯⋯」
「私も含まれると思うよ。いくつかの案を出して採用した形だから。二人で考え、二人で決めた」
うん。ダメだった。
俺よりもアリスの方がこの魔眼上手く使えるんじゃね?
『何この会話面白いんだけど。勝ち目無いね!』
ツキリはどっちの味方なの?!
『面白い方に進む。それが我が人生!』
なんて奴だ。
「それで、どうするの?」
「連日精神的苦痛を受ける魅了をしたばかりなので、すぐには難しいかと思われまして」
「分かった。じゃあ二日後ね」
「⋯⋯はい」
温かい紅茶を飲み、落ち着かない心のまま月の都へと向かった。
ユリの病室へと入ると、レイがちょうどお見舞いに来ていた。
「主様!」
なんだろう。
長年会っていなかった親に会ったかのような感動っぷりを見せるユリ。
近くに寄ると、ギュッと俺を抱きしめる。
「怖かったです」
「レイ何をした!」
「え、ワタクシを悪だと決めつけるの?」
「それ以外にユリが震える理由が分からん」
足の骨は治ったのか、痛みは感じて無さそうだ。
今はリハビリ段階なのかな?
「ブー。ちょっとテンションの上がったユリちゃんに興奮した事をオブラートに包んで言葉に出しただけよ」
「うわぁー」
ユリが可哀想だったので、俺も包み込むようにギュッとする。
翼も動かしてレイとユリを隔絶する。
「さすがのワタクシもそこまでされると濡れちゃうわよ」
「何が」
「ぱ、ん⋯⋯」
「口を閉じてくれ」
魅了していた二日間、ユリは身の危険を感じていたんだろうな。
もう大丈夫だよ。よーしよし。
「無茶しないように看病したワタクシにも何かあって良いと思うのだけれど?」
「ありがとう」
「冷たくない? 都を渡した月の魔王であるワタクシに冷たくない? 一応貴方の祖先よ?」
「何か欲しいモノでもあるんですか?」
「え、子供」
真顔で何言ってるんだろこのサキュバス。
「あーんそんな引かないでよ。冗談よ冗談」
冗談に聞こえない冗談はマジなんよ。だから怖いんよ。
ユリが落ち着いたので再びベッドに横にさせて、会話をする事に。
「リハビリしてる?」
「はい。都の外周を走ろうとしたらローズに止められました」
「そっか」
落ち込んでいるユリには悪いが、これはローズが正しい。
無茶しないようにいるレイの正しさも見えて来て嫌だな。
「なんでワタクシに嫌な顔を向けるのよ」
「それでユリ、他には?」
「無視ー」
「アイリスに素振りを止められました」
きっと刀よりも重い物で普段のように素振りをしようとしたんだな。
コレもアイリスが正しい。
「止められてばっかりなので、魔石の使い方を考えていたんです」
「何か見えたか?」
「はい。少しだけ光明は刺したと思います」
「そっか。良かったな」
聞きたいと顔に出していると、ユリがクスッと微笑み語り出す。
「薄ら見えただけで具体案は無いですよ。それとレイ様と話し合って私が魔力を持たない進化をした理由を出したんです」
お、気になる話だな。
「私は主様の剣に憧れてその強さを目指したんです。それで進化をした。その憧れに魔法は無く魔力なんてのは使っていなかった。剣技に関して能力を一切使っていなかった」
確かに、ユリの進化した頃は飛ぶ事にも不慣れだったからな。
その状態を目指したせいで能力や魔力を不要だと感じてしまったのか。
必要ないモノは進化の過程で削ぎ落とす。自然の摂理だ。
「強くなる事を渇望していた私は一番強い主様を追いかけた」
「その強さは未完成だった、と」
飛行能力を使えなかったあの頃は人間の時よりも弱いと自分でも思う。
未完成の強さに憧れて進化した結果、未完成の進化になってしまった訳か。
「でも今は違います。主様の強さを半分くらいは理解したと思います。だから憧れは剣だけじゃない。その全てです」
「ユリならきっと、俺と一緒に戦ってくれると信じてる。そう言う運命も視える。だから自分の思い描く己へと進化しなさい」
「はいっ」
実際魔眼は何も示していない。
コレはユリの思考などに作用されるからだろう。
魔石の使い方次第でユリの運命は左右される。考えを読み取る事はこの魔眼にはできない。
でもきっと、ユリならば最高の形で成し遂げるだろう。
「魔石の魔力を自分のモノにする。そのためには魔力を蓄える部分である魔石が必要。魔石を取り込もうとすれば身が滅ぶ。難しいところだな」
「はい。でもやり遂げます。主様が信じてくださるのですから」
「ああ。ちゃんと見てるからな、ユリ」
「嬉しいです」
レイならば人工的な魔石の作り方を知っていそうだ。
でも、きっとその魔石ではあのドラゴンの魔力には耐えられないだろう。
アイツクラスの化け物が万全の状態で現れた時、俺は勝てるのだろうか?
怪しいところだ。
「魔法と一体化する技術、それを高めないとな」
ユリのお見舞いはこの辺で良いかな。
「レイ。そろそろ聞きたい。アナタの過去について」
「ワタクシを空気のように扱っていたのに急に来たわね。⋯⋯そうね。そろそろ良いかもしれないわね」
『それはアーシも気になるなぁ。内容によってはレイにゃの目的が明確になるかも』
ツキリ、変な事しないでね。
『しいなわよ失礼しちゃうわね! ⋯⋯何もしないわよ本当に』
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます
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