第94話 想定を超えた結果

 「お前がボスだな」


 むしろそれ以外だったら恥ずかしいので止めて欲しいところだ。


 「来たな。魔王の因子を持つモノよ」


 “魔王の因子?”

 “魔族だからかな?”

 “色々と分からんがワクテカ”

 “魅了するって言うパターンありますか?”


 角のある兜を被った、少しだけ肌黒いオークが杖を持って立ち上がる。


 身長は四メートルはありそうだ。腕なんてまるで丸太。


 警戒しつつ、相手の出方を伺っていると杖を突き出した。


 「【炎弾】」


 炎の球体が飛来して来たので、回避しながら相手の背中に回った。


 “速っ!”

 “俺の知っているサキュバスが出せる動きじゃないわ。⋯⋯戦っているサキュバス、サキュ兄しか知らないけど”

 “カイザーだけどかなり弱くね?”

 “まだ最初だから決めつけは良くない”


 背後に回った瞬間に剣を抜き、袈裟斬りを落とす。


 「ぐぬ。中々に速い。だがこれしき【大地変動】」


 地面が剣のように尖って伸びて来る。


 ん〜魔法の発動までのタイムラグがあるせいで回避が簡単だ。


 もしろここまで避けやすいと何かの罠だと勘ぐってしまう。


 しかし俺の本能が危険なアラームを鳴らして来ない。それがまた怖い。


 このオーク、進化系だからと強く警戒し過ぎたのかもしれない。


 これならカンザキさんの方が強い。


 「早期決着と行くか」


 俺はギアを上げて攻撃の回転を早めた。


 相手が魔法の準備をする頃には二撃の攻撃を与えられている。


 「ちょこまかと!」


 杖に反対の手を伸ばし、引いた。


 “それって剣だったんだ”

 “脱いで魅了しよう”

 “あんまし強くない”

 “進化はオリジナルに負けるのかな”


 刃となった杖が俺に伸びる⋯⋯それもまた遅い。


 「でも肉厚なせいで、深く斬れないな」


 相手の攻撃を躱す事もなく、ただスピードで圧倒して行った。


 「ぐっ。これ程までに強いのか」


 後ろに二歩三歩と動いて、血を吐き出した。


 そろそろ俺も魔法を使って行こうかな、とか考えているとオークカイザーの見た目が少しだけ変わった。


 瞳が無くなり、身体が一回り大きくなる。


 纏う気配の圧が上昇した。


 「うおおおおおおおお!」


 「ここからが本番って感じ?」


 剣に魔法を纏わせて、迫って来る。


 肌を逆撫でするような威圧感。


 だけど恐怖よりも先に高揚感が現れる。


 「ならば俺も相応の力でお相手しようか」


 ライムに二本目の剣になってもらいつつ、天井に剣先を向けた。


 「紅き月よ、顕現せよ。【紅き月ムーンフォース】」


 魔法で顕現させた紅の月が俺の身体能力を底上げする。


 「【火炎車】」


 剣を振ると共に円の形をした斬撃が真っ直ぐ俺に向かって来る。


 対する俺の出した選択肢は魔法である。


 「【数多な月光ルミナスレイ】」


 光の光線が五つ伸びて斬撃と衝突する。


 数では勝っていたが魔法の質はかなり負けていたのか、それで相殺となる。


 爆風に煽られ、灼熱感に包まれる。


 間髪入れずに加速したオークが炎を宿した剣を叩き落として来る。


 「せいっ!」


 二本の剣を交差させて防御するが、全身に加わる重みは相当なモノだった。


 体格差が違う。


 “わざと受けたな”

 “舐めプか?”

 “誰もいないからやりたい放題だな”

 “頑張れサキュ兄!”


 力任せに弾く事はできない⋯⋯ならば。


 俺がしたのは受け流しだ。


 横側に剣が落ちるように調整しつつ、自身の武器を扱って受け流した。


 乱暴に斬り上げて来るので、天井まで飛んで回避する。


 「蹴りの力と飛ぶ力、その二つが一つの方向に力を加える。落下も合わせる俺の最速」


 天井に強く脚の力を込めて、蹴り飛ばす。


 自分の出せる最速で奴の頭に向かってクロス斬りを放った。


 パキンっと甲高い音と共に、兜がぱっくり割れた。


 同時にオークの頭から血が流れ出す。


 「さすがにその一撃では倒れないか」


 兜ごと頭を斬ろうとしたがさすがにそこまで簡単では無いらしい。


 一撃の重みは相手の方が上、後は魔法も。


 だけどそれ以外では負けてない。


 「おおおおおおおお!」


 オークの咆哮と共に、壁を破壊してハイオーク達が群がって来る。


 「まだいたのか!」


 壁の向こう側に居れば気配は感知しにくい。それを分かっているらしいな。


 数が多いのは俺的には不利、か。


 「面白い」


 オークカイザーはハイオークを俺にけしかけて、自分は逃げようと踵を返した。


 仲間を置いて逃げた日の光景が蘇る。


 「お前のスピードで俺から逃げられると思うなよ」


 オークカイザーに向かって直線で飛行する。


 当然、それを止めようとハイオーク達が肉壁となるべく前に出るが数のうちに入らない。


 回転を加えて深く首を切断し、一撃で倒す。


 「逃げるな!」


 ライムを弓の姿にして、弦に剣を番える。


 引っ張りながら、狙いがブレないように頬に刀身を少し当てる。


 ハイオークが邪魔にならないように高く飛び、即座に狙いを合わせる。


 「行けっ!」


 “弓矢も使えんの! 矢は剣だけど”

 “普通に飛行した方が速いとか考えてしまった”

 “さすがに矢の方が速い⋯⋯よな?”

 “魔法は?”


 俺の放った剣は結局ハイオークの脳天に突き刺さって止まってしまった。


 だけどまだだ。


 まだ完璧に逃げられた訳じゃない。


 即座に追いかける。


 数を集めて自分の逃げる壁としたハイオークだったが、数が多過ぎたのか自分が進むのも少しだけ妨害していた。


 剣を回収して肉薄する。


 「【炎のつるぎ】」


 「【月魔剣ムーンセイバー】」


 炎を纏った剣と月光を濃縮して纏った剣が衝突する。


 力押しでは俺の方が弱い。そして周りには他のハイオーク達もいる。


 「ちっ!」


 深追いは禁物。すぐさま後ろに飛んだ。


 同時にオークカイザーとの間に入るハイオーク、刹那のタイミングで額を光が貫き穴を空ける。


 原因はオークの目の前にいる俺。


 「買ってて正解だな」


 じゃらりと左手を動かす。握っているのはパチコン球のような鉄の球体だ。


 ライムの体内に収納しており、いつでも簡単に取り出せる仕組み。


 “え、指弾?”

 “それでハイオークの頭貫くの戦闘のプロやん。サキュバスだからちょっとエロくても良いんだよ?”

 “そこはπに挟もうよ”

 “やっぱ普通のハイオークよりかはちょっと弱い? こいつらも進化した感じか”


 倒したオークを足で押しながら直進して行き、ハイオークを巻き込んで行く。


 重くなったと感じたらそいつらを踏み台にしてオークカイザーへと再び接近。


 「鬼ごっこは終わりだ」


 指弾の構えを取る。狙いは完璧。


 鉄の球を用意した真の理由がコレだ。


 「【月光弾ムーンバレット】」


 魔法を纏った球は月光を散らし、オークカイザーの護る鎧を無くした頭を貫いた。


 狙いにブレは無く、綺麗に中心を貫いた。


 “魔法の威力を上げつつ狙いを定めるための道具だったのね”

 “純粋な魔法をちゃんと扱うの諦めたん?”

 “いや、【数多な月光】を五つ狙いを同じ場所にできてたし、ちゃんと成長してる”

 “ユリちゃんもこの技能覚えて欲しい。スーパーボールでスカートめくり”


 前のめりに倒れたオーク。最期に掠れる声で呟いたのを鍛えた聴力が拾った。


 「化け物め」


 そう言っていた。


 「その評価を俺に下す程に、お前は強くない」


 世の中強い奴は沢山いるんだ。その評価まだ、相応しくない。


 後は雑魚狩りだな⋯⋯そろそろ皆も終わった頃だろう。


 「最後の殲滅戦だ。皆で暴れようぜ」


 俺がそう言うと、ゾロゾロと影から仲間が現れる。


 コボルトが進化している気がする⋯⋯後ローズも。ユリはなんか、痛そうだ。


 数分もかからずに殲滅は終わり、魔石回収に入った。


 結果発表!


 「ハイオークの魔石、6個?」


 「進化に耐えきれずに内部で魔石が砕けたのかもな。元来のハイオーク共かな?」


 配信は終えたので、カンザキさんが呑気にそう呟いた。


 冗談じゃない。


 「進化すると元々の性能から落ちる理由は、器の大きさなのかもな」


 アイリスの言葉は的確だと思う。


 個々の器があるとしよう。


 例えばオークだとSサイズ、ハイオークだとLサイズ。進化してもその器は変わらないとする。


 『強さ』と言う液体量の限界がある。


 進化したら生まれつきよりも弱い理由がソレ。これがアイリスの言った器だろう。


 「カンザキさん、換金お願いします。さすがに俺が直接出す訳にはいかないので」


 「分かった。金は後日直接渡すわ」


 「いえ、ローズに取り行かせます。頼めるか?」


 「⋯⋯もちろんです」


 一瞬嫌そうな顔をした。


 うん。頼りになるから頼ってしまったが間違ったな。すまん。


 ⋯⋯てか、なんでローズはずっと目を閉じてるんだ?




◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます

諸事情によりこの時間に投稿しました。


次回、オークの魅了

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