第95話 オークの魅了、屈辱経験

 「六層が行ける様になりましたので、自由に潜ってください。でも、命は大切に扱ってくださいね」


 「もちろんです」


 受付嬢のヤエガシさんから許可が降りたので、心置きなく六層へと潜る事ができる。


 でも、異変解決に手を出しのは俺らなので、実力的に余裕なのは分かっている。


 だからと言って油断しているとさらなる災いに巻き込まれそうではある。


 六層の攻略は前の一回でお腹一杯。なので七層へと進もうと思うのだ。


 「なので⋯⋯皆で無言の圧止めない?」


 ユリがスマホを持ち、ローズがドローンカメラを持って、皆が動く気のないように座り込む。


 まるで駄々をこねる子供のようだが、あちらは叫んだり暴れたりする。


 しかし俺の仲間達はただ黙って座っているのだ。


 まるで戦地の状況を把握して覚悟を決めた戦士の風格をしている。


 「ね。だいぶ仲間も増えたしもう魅了は良いと思うんだ。仲間を増やしすぎても俺が管理できないかもしれないしっ!」


 何よりそろそろ本気で先生からの苦情が来そうなのである。


 ま、あの人もきっと「面白そう」とか言う理由で俺に訓練している事を黙っているだろうから罪悪感は無いけどね!


 違ったら謝る。


 「ご安心ください主様。主様の配下を統括する者として、仲間の管理は怠りません!」


 ユリの熱意が凄いっ! いつも通りだけどっ!


 「オークの進化系の強さは身に染みて知っています。仲間にするべきだと思うんです!」


 どうしようか。


 この場に味方はいない。逃げ場が⋯⋯無い。


 「⋯⋯一体魅了したら数が平等になるまでやらせるよね?」


 「もちろんです」


 なんでここまでニコニコ笑顔で返答できるのか、ユリの頭の中を覗きたいところだ。


 俺は諦めて配信を始める事にした。


 「サキュ乙! 今日はオークの魅了やってくよ!」


 “お、早速か”

 “やる気があるようで何よりです”

 “涙拭けよ。白い液体を吸収したティッシュだけど、使ってくれ”

 “ローズなんか成長してね?”


 “ローズちゃんの角が怖い⋯⋯目瞑ってね?”

 “なんで目閉じてんの?”

 “それよか魅了”

 “ようやくエロが見えるんですね”


 “可愛いサキュ兄が観たい”

 “¥50000スパチャが解禁されてたから試しにしてみたよ”

 “コボルトもなんか色合い変わったな。顔もキリッとしてやがる”

 “裏で進化している子多すぎっ! 推しのローズちゃんの進化は観たかった”


 配信を始めるとすぐに沢山のコメント、ありがたい事に投げ銭もあった。


 広告の収益化だけで満足していた俺だったが、好きな配信者は全員やっていたので俺もマネしている。


 俺自身がコメントを読めないが、仲間が読んでくれる。


 「ダイヤ。精神統一するから運んでくれ」


 「はっ!」


 ダイヤの背中でうつ伏せになり、動物感溢れる体毛を感じながら六層へと移動する。胸が大きいので少し苦しい。


 その間でも会議がきちんと行われ、コボルト達も進化した事によりアララトも喋って、沢山の声が飛び交っていた。


 当の本人である俺は蚊帳の外で、声が聞こえないように耳をライムに塞いでもらっていた。


 ライムのノイズキャンセリングは完璧に外の音を遮断してくれる。


 おかげで俺は無音の世界で目を瞑り、現実逃避ができる訳だ。


 目的地に到着及び会議の終了を告げるよにライムが俺の耳から離れた。


 別に離れる必要は無かったのに、だ。


 「皆楽しそうっすね」


 ユリから魅了内容を聞いて、ライムと共に準備を始める。


 ローズがオークを発見して案内してくれる。


 「なんでローズはずっと目を瞑ってるの?」


 “サキュ兄も知らんのかい”


 「え、あ、えっと⋯⋯その。ひ、秘密です」


 口ごもったローズの答えは黙秘だった。


 めっちゃ気になる秘密がローズにできた。ちなみにその秘密はアイリスやユリですら知らないらしい。


 オークの目の前に俺は出る。


 “うーん良き”

 “最高”

 “何百万積めば雇えるのだろうか”

 “何億だろ”


 「クソっ。色々と屈辱だ」


 俺の今の服装は俗に言うメイド服だ。


 白いワンピースにフリルの着いた黒いエプロン、スカートはできる限り短くされて少しでも捲れたら下着が見える。


 その理由はガーターベルトを付けたストッキングが良く見えるため⋯⋯らしい。


 なんでこの格好でオークの前に出なきゃならんのだ。武器すら没収されたぞ。


 「頑張ってください主様」


 「主人の勇姿、この目で見届けます」


 「⋯⋯うっすら開けてるのか? 頑張れ姫様」


 皆の応援が逆に辛い。


 恥ずかしさのあまり頭に血が上って、真っ白になりそうだ。


 “究極の攻め”

 “良いな良いな”

 “メイド服最高!!”

 “頑張れあとちょっとだぞサキュ兄!”


 “君ならできる!”

 “あと少しで見え⋯⋯見え⋯⋯”

 “雇いたい”

 “可愛い。戦っている姿が全く思い出せない”


 露出させた胸上に右手を軽く添え、下着が見えないようにスカートを下に引っ張る。


 少し首は倒して下から斜めの目線、声音は素を希望された。


 「わ、わたくし、に」


 一人称設定は『わたくし』にされている。


 「ご、ご主人様の」


 “あとちょっと”

 “背徳感やべぇ”

 “最高でぇす”

 “クソあんまりエロくないと思ったのに! ティッシュの準備がっ!”


 「ご、ごひょうしをさせて、いただけましぇんか」


 “ブッフォ!”

 “良く言えましたサキュ兄!”

 “めっちゃ照れてるの可愛い〜ツンデレ路線も良かったかも”

 “むしろサキュ兄の奴隷になりたい(真剣)”


 くっそ。恥ずかしいのはもちろんだが屈辱感がすごくある。


 毎度の事だが、どうしてこんな事をしているのだろうと自問自答を繰り返す。


 鼻息荒くしたオークが俺に迫って来る。


 いつもならユリが教育を行うのだが、今は鼻血を止めているらしい。


 俺の前に迫ったオーク⋯⋯咄嗟に退けたくても下手に動くとスカートが⋯⋯。


 「あわわわ」


 ど、どうすれば⋯⋯。


 そんなバカな事を考えて焦っていると目の前でオークが土下座した。


 鳴き声を出しながら俺に何かを言っているようである。


 オークの仲間は初めてなので、上手く言語化できない。


 『踏まれて罵倒される方が好きなので、ご主人様の下僕にしてくださいって言ってるよ』


 ライムが通訳してくれた。ありがとうね。


 なるほど⋯⋯。


 「⋯⋯キッモ」


 割と素で言ってしまった気がした。


 俺の事を見上げるように撮影していたドローンカメラ。一体俺はどんな風に写っているだろうか。


 “あ、ヤバ”

 “切り抜き班、頑張ってくれ。ちょっとトイレ”

 “ティッシュの在庫切れ案件”

 “え、何この最高のサービス”


 “ボクちゃんオークに共感”

 “羨ましいなオーク”

 “吾輩が豚になりたい”

 “リアルデブならサキュ兄の下僕になれますか”


 精神回復していると、ユリが視聴者の疑問を口にする。


 「赤色のコメントから『サキュ兄って歌上手い』と質問来てます」


 「え?」


 おいおい。俺の歌を聴いた人が皆口を揃えてなんて言うか、知ってるかユリ?


 主に家族とアリスだけど。


 「主人額から血が」


 「すまんね」


 精神回復の副作用をローズが拭いてくれるので、俺はユリに真剣な顔で言う。


 「俺の歌を聴いた人は大抵こう言うんだ。大きな声だね、と」


 「さすがは主様です!」


 だろ?


 “⋯⋯ん”

 “どうしようか”

 “素直に言うべきか、乗るべきか”

 “それって下手って事やん”


 “ちょっと聞いてみたい”

 “サキュ兄に歌ってもらおう”

 “今後の魅了のためにっ!”

 “魅了しなくても良い日を一日プレゼントで食いつく”


 “歌でバフを与える人だっているからね”

 “歌は力を増強させるんだよ”

 “歌ってほら”

 “サキュ兄! サキュ兄!”


 視聴者からの要望が多かったので、俺の歌声を披露する事にした。


 人気な曲とか知らないので、卒業生に送った歌でも歌おうと思う。


 練習中の先生の目は今でも忘れられない。


 俺は歌った。


 “普通に上手いやんけ”

 “バリ上手いな”

 “アカペラで音程全然外してないどころか感情とか込めてるの凄いやん”

 “え、なんで?”


 “びっくりしたんだけど”

 “どゆこと?”

 “まさか最初のは演技だったのか?”

 “うそん”


 いつもなら歌うと喉が痛くなるのだが、今回はそれがない。


 「サキュバスだから理想的な声が出せた、だったりして⋯⋯」


 セイレーンじゃないしそれは無いか。


 “それだ!”


 家に帰り、マナに歌を歌って欲しいと頼まれた。この子絶対にライブ観てたよ。メイド観られたよ。死にたい。


 気分を晴らすためにも歌った。


 「うん。いつも通りのお兄ちゃんだ」


 「どうしてライムのヘッドホンをしているのかな」


 「サキュバスの状態で歌って。お願い!」


 妹の頼みを聞き入れた。


 「⋯⋯めっちゃ綺麗な声。お兄ちゃんこれから歌う時はそっちの方が絶対に良いよ。今度皆でカラオケ行こ」


 「やじゃ」



◆あとがき◆

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作者はロングスカート派です

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