第214話 トドメのやり方

 茶色のオーラを報酬する申の英雄は結果内にある空気に触れる。


 「【変換】」


 触れた空気と英雄が所持しているトラップが入れ替わる。


 筒型の形状をしており、先端には銃口のような穴が空いている。


 間髪入れずにそこから銛の様な物が放出される。


 ローズは回避ができるが、あえてそれを手に刺してみた。


 アイリスの嫌がる行為だとは理解しても、自分の今を調べるにはこれが一番手っ取り早いのである。


 「うっし」


 英雄は何を勘違いしてか、トラップが命中した事に喜びの表情を浮かべる。


 だが油断せずに次の攻撃をしかける。


 「ほらよ!」


 それはアイリスを電気で包んだ時に使用したパチコン球の様な物だった。


 「せっかくだ」


 手に刺さった銛を事も無しげに抜いて、球体に向かってそれを投げた。それで弾くらしい。


 先端には細長い糸のようにした血が繋がっており、細かい操作を可能にする。


 「クソっ」


 「ふーん。再生阻害の道具だったか」


 銛の刺さった痕が手に残っており、自然再生が遅いためそのような効果があると予測できる。


 焦るアイリスだったが、ローズの警戒心が一レベルも上がってない事を察すると落ち着いた。


 「ま。集中すれば再生は可能か」


 他の所の血液を一時的に集中させる事で再生を早める事ができる。


 阻害能力をゴリ押しで解決したのだ。


 他のやり方を挙げるとすれば、能力の影響下にある部分を切り離して再生する方法もある。


 「ワイの引き出しは無限なんだ!」


 導線部分が短いダイナマイトを取り出し、服に擦らせる。


 特殊加工された服の材質によって導線に火が付き、二秒後には爆発するだろう。


 「【爆発強化】【火力増強】【範囲拡大】」


 一秒間で魔法を付与して英雄としての最低限の腕力を使ってぶん投げる。


 ローズの目の前に来たダイナマイトは激しく強く爆発した。


 「くっ」


 その爆発は近くで休んでいたアイリスにまで届いた。


 土煙が消え去ると、そこにはローズの姿は無かった。


 「⋯⋯どこだ!」


 あれだけでやったとは思えないのか、英雄はローズの場所を探すべくあちこちに目をやる。


 しかし、全方位確認してもローズの姿は確認できなかった。


 「ここ」


 「え?」


 真上。英雄の頭上にローズは飛んでいた。


 英雄が声に釣られて見上げる前に顔面を蹴り抜いた。


 「ごはっ」


 「ショートパンツなんだ。下から見たら下着が見えるだろ。デリカシーの無い奴め」


 「ローズ、それは理不尽ってやつだ」


 「自分達の世界が崩壊するから他のところに移住、先住民が邪魔だから殺そう、⋯⋯相手の方がよっぽどの理不尽でしょ?」


 「うーん。確かに?」


 顔にジンジン来る痛みを堪えて立ち上がる英雄。


 すぐに違和感に気づく。


 左側の視界がやけに暗かったのだ。


 原因が分からず、本能的に左目の方を触る。


 「あっ」


 消え入る声。短く小さく呟いた。


 理解した。


 蹴れたと同時に自分の左目が斬られたのだと。


 「強い⋯⋯あんな奴とは比べ物にならないくらいに⋯⋯パワーバランスどうなってんな」


 アイリスと比べるとローズは比較できない程の強者である。


 英雄もそれを身に染みて理解した。


 「ローズ、終わりなら終わらせてやるのが良いと思うんだが?」


 「断る。アイツはお前を沢山いじめた。だからその分を返す。殺るも殺らないも判断するのは自分だ」


 「分かった」


 アイリスとローズの間で交わされた会話。


 内容的に英雄は自分はいつでも殺されると理解する。


 しかしまだどのような方法で殺されるのか予想がついていない。


 「でも、アイツを倒せば一気に敵戦力は大幅ダウンだな」


 英雄が次に取り出したのは、同じようなダイナマイトだった。ただし導線が長い。


 導線に火を付け魔法を乗せ、地面にぶん投げる。


 地面と接触した瞬間後ろ側から炎を噴射して加速。ローズの目の前で大きな爆発を起こす。


 ⋯⋯が、英雄の予想と反して爆発は起こらなかった。


 アイリスにまで危害の出る攻撃は許容できない。


 「ふぅ」


 「火を消したな」


 血を操って導線をギリギリのところで切る事に成功した。


 タイミングを測って完璧な調節だったが、その正確さを利用して頃合を測ったローズ。


 しかし、英雄の真の狙いはここからだった。


 「【召喚】」


 英雄は大砲を数台召喚した。


 「【発射】」


 一つの大砲が火を吹いて、ガラス玉を飛ばす。


 「え?」


 その狙いはローズではなくアイリスだった。休んでいたアイリスに向かって放たれたガラス玉が大きく光る。


 魔法を封じ込めたガラス玉だったらしい。


 「はい。バーン!」


 指パッチンと同時にガラス玉は割れ爆発。


 英雄の魔法によりローズ達のいた場所を無差別に火柱が襲う。


 二つのコンボならさすがにダメージを与えているだろう。


 だが甘い。プリンよりも甘い。


 「狙いが単調だな」


 「だよな」


 アイリスを抱っこして回避してみせた。


 大砲は休む事をしないで全ての砲口から発射される。


 魔法が入ったガラス玉以外にも、超速度の砲弾や巨大は砲弾まで、色々な砲弾が用意されていた。


 「くだらない」


 片手を掲げ、大量の血を放出する。


 ただの血の津波に見えるが、実は振動している刃の塊なのである。


 魔法も、砲弾も、全てを切り裂いてしまう。


 「しょうもない」


 物を斬るに至るまでの振動を自力の操作だけで行ってみせた。


 血の操る力も上がっているのだろう。


 「さて、まずは一発目!」


 ローズは踏み込む事もしないで英雄に肉薄する。


 「せい」


 相手の腹に拳を叩き込む。


 「ぐはっ」


 吹き飛ばないように角度を工夫している。そうして吹き飛ばすように蹴りを決める。


 「がはっ」


 吹き飛んでようが関係なく、一瞬で接近してぶん殴る。


 この移動方法はダイヤがやっていたのと近い。


 ここに着いてからローズは自身の血を月面に広げていた。


 自分を一時的に粒子レベルに分解して、血を泳いで目的地に行く。


 これにより、どこでもローズは出現可能になっている。


 もちろん攻撃だけではなく回避にも使えたりする。


 「ならこれで!」


 砂塵を広げる英雄に対してローズは血液を広げる。


 発火、爆発、そんなの知った事では無い。全部等しく無に帰せば良い。


 砂塵を血が絡め取り地面に落ちる。


 「自分もやろうかな?」


 ローズは血飛沫を撒いた。


 それは速度を上げて全てが英雄に命中し、小さくないダメージを与える。


 血を拡大して確認すれば、きっと握り拳の形が見れる事だろう。


 「はぁ。はぁ」


 「せっかく強化能力を使ったのに、やる事は変わらないんだね」


 ローズは冷たく言い放った。まるで感情を感じさせない。


 恐怖心を煽るようにゆっくりと歩み寄る。


 「ッ!」


 英雄の感じているのは恐怖による圧迫感。


 あるで海の底にいるのではないか、そう感じる程のプレッシャー。


 一歩も動けない。指先一つ動かない。


 「まだ、やれるな!」


 気合い、全ての気力を振り絞り口の中に仕込んである物を噛み砕く。


 アイリスに向かっては火だった。次は何が出るか。


 「フッ」


 肉眼で捉えるのは厳しい細長い針を脅威の肺活量で吹き出した。


 その針は加速する程にサイズを大きくしていき、ローズを覆う程の大きさになった。


 「はぁ」


 ため息、最期まで同じような事の繰り返し。


 大きな針を血の刀で真っ二つにすると、目の前に英雄が現れた。


 爪先から刃を出した靴。上段蹴りを放つ。


 刺さっても再生可能、死ぬ事は無いだろう。


 だが、これ以上敢えて攻撃を受ける理由も無い。わざと刺させるマネをすれば悲しむ男もいる。


 故に、ローズは最低限の動きで回避して相手の足を掴んだ。


 「まずっ」


 「遅いね」


 力を込めると、ぐしゃりと肉が潰れ切れる音を響かせて足を破壊した。


 ローズの手からは無数の刃が伸びており、それを利用して破壊したらしい。


 「まだ、ワイには⋯⋯」


 「もう良いよ、十分」


 「がはっ」


 地面から血の刃が伸びて残った足を切断した。


 ローズに騎士道精神は無い。


 やられた事をやり返す、当然数億倍にして。


 簡単に殺す事はしなかった。


 無情だと思われても構わない。外道だと罵られても構わない。


 ただ、己の中にある怒りをぶつけている。


 動きを封じ、地面を転がる英雄の元には血でできた魔法陣が現れる。


 「こうだっけ? はい、バーン」


 血が高熱になり爆発した。爆発と同時に弾けるのは血の中に仕込んだいた血の刃達。


 爆破と刃をゼロ距離で受けた英雄は満身創痍だった。


 「てっ、た、かはっ!」


 「逃げようとした?」


 何かしらの方法で帰還が可能だったのか、英雄に怪しい動きが出た。


 だから速やかに入れていた毒を遠隔操作してキャンセルさせる。


 一太刀を受けた瞬間に勝敗は決まっていた。


 英雄はただ、負け試合に挑んでいただけなのだ。


 「最期はこれで終わらせてあげる」


 地面を転がるのはパチコン球。電気を出す物である。


 英雄の懐から略奪していたのだ。


 魔力を込めて衝撃を与えれば発動し、球を点にして電気の線で繋がる。中心にいる対象に高圧電気を流す。


 丸焦げになった英雄はギリギリ息がある。


 「これ、返すよ」


 最後に投げたのは、アイリスにトドメを刺そうとした火炎瓶だった。


 燃え上がる炎。断末魔を掻き消すパチッと言う火の粉が弾ける音が静かに響いた。




◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます

★、♡、とても励みになります。ありがとうございます


次回からサキュ兄視点に戻ります

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