第152話 アイロズVS久遠 前編

 「空気感染は望み薄だ。直接入れる。量は短剣サイズくらいと予測」


 「行けるかローズ」


 「愚問だね」


 ローズは血のクナイを片手に三本形成して、反対の手に血の刀を形成する。


 「吸血鬼⋯⋯」


 「どうだろうね」


 ローズはただの吸血鬼ではなく、ゾンビのウイルスも馴染ませた特別性の血を操れるヴァンパイアである。


 ローズの作り出すウイルスを知るのは仲間達だけである。


 つまり、それ以外の敵には未知の毒となる。


 (自分の血を奴に直接流し込む、勝ち筋はそれのみ)


 ローズの毒は犯した敵の再生能力を妨害して腐らせる力がある。


 再生能力の高い吸血鬼の種族だろうが例外では無い。


 キリヤとカンザキが戦った際にカンザキを追い込んだ方法は再生できないくらい魔力を消費させる事。


 この戦いではそれは難しく、吸血鬼に特攻のあるアイテムを使うにしても対策されている可能性は極めて高いと言える。


 「おらああああ!」


 先に飛び出したのはアイリスである。


 戦斧を上段から振り下ろす。


 空気を揺らす腕力で振るわれた斧を敵は片手で受け止めた。


 「何っ!」


 自慢の力で振るわれた斧を止めた事実にアイリスは驚愕が隠せない。


 力が通用しないのかと落ち込みそうになる。


 「血で防いでいるんだ。良く見ろ!」


 ローズの言葉に気づく。


 斧と手の間に赤い物体があり、それが血だと言う事は火を見るより明らか。


 片手が塞がった瞬間にローズが懐に入り込み、血の刀を振るう。


 「はっ!」


 スピードを重視した一刀は真っ赤な軌跡を描き、同じような血の刃で防がれる。


 翼を広げてローズは上に、アイリスはステップで後ろに離れる。


 「やはり簡単じゃない」


 クナイを投げ飛ばすが軽く弾かる。同じタイミングでローズとアイリスが肉薄していた。


 息の合った同時攻撃。


 「「はっ!」」


 ローズは足を狙い、アイリスは胴体を狙った。


 振り終わりと言う隙を突いた攻撃だった。


 「⋯⋯」


 「くっ」


 「ダメか」


 アイリスの攻撃は空いている手で、ローズの攻撃は足から出て来る血の刃で防いだ。


 (ならばここから血を入れ⋯⋯)


 刃は肉体を離れて飛来し、ローズの首を狙う。


 「あぶねっ」


 アイリスがローズよりも早くに対応して、ローズを突き飛ばした。


 頬を掠めた刃に眉間にシワを寄せる。


 「ぐっ。ああっ」


 「ローズ!」


 切り傷から血管が浮かび上がるように広がる。


 (血を流し込まれたか)


 ローズは自分の中に巡る血を操り不純物を外に吐き出す。


 同時に自分に害を与えない程度の血を回収している。


 「大丈夫か!」


 「問題ない」


 再び連携で相手取るが全ていなされる。


 「少し増やすか」


 今はまだ手札を確認し合う時間。しかし、一向に戦局は動かない。


 なのでローズが一番最初に手札を切る事になった。


 「突き刺され!」


 血の刃を空気中に数十本形成して飛ばす。


 細長い糸のような血で刃と身体を繋いでいるため自由に操る事ができる。


 敵の四方八方から攻撃する。


 「⋯⋯」


 相手は自分を取り囲むように血の壁を作り出して防衛する。


 「『鬼化』」


 紋様が浮かび上がったアイリスが力いっぱいに斧を振り下ろす。


 防壁を破壊して本体を叩く予定だったが⋯⋯奴は血の壁の中にはいなかった。


 「どこ?」


 ローズが反射的に疑問を呟いた。


 敵は⋯⋯ローズの背後に居た。


 「⋯⋯」


 「うし⋯⋯がはっ」


 翼を切られて床に叩き落とされる。


 血を吐きながらも再生させるローズ。


 「クソっ!」


 アイリスがジャンプして向かう。


 「⋯⋯」


 飛行能力を持たぬアイリスでは空中戦で圧倒的不利であり、あっさりと蹴り落とされる。


 防御はしたのですぐに立ち直る。震える腕を気合いで抑える。


 「うん。連携良い。信頼しあってる証拠だ」


 あまり喋らなかった敵が声を出した事に二人は警戒を強める。


 ローズは身体を完全に再生されるために時間をくれるならと、耳を傾ける。


 「信頼関係。仲間意識。何はともあれ、あまり言葉を交わさずに良い連携をする」


 それを単純な褒め言葉と受け取るべきかどうか、ローズは考える。


 「敵に褒められても嬉しくねぇ」


 「⋯⋯バカが」


 アイリスはそのままの意味で受け止めたらしく、ローズは軽く罵倒した。


 「でも弱いな。男の方は力任せの攻撃ばかり。女の方は血を入れたいと狙いが分かりやすい」


 「「⋯⋯ッ!」」


 短時間の戦闘の中で狙いや戦闘スタイルと言うのが見抜かれた。


 そこに内心驚きつつも表面には出さないように気をつける。


 「でも弱い。パワーに自信があっても防がれてしまうレベル。狙いが分かってしまえば対処しやすいレベル」


 「それはアドバイスか何かか?」


 「いきなり話す内容か?」


 再生の終わったローズはペアスライムを利用して密かに会話をする。


 「アイリス。狙いはバレたが作戦は変えられない」


 「分かってる。吸血鬼の再生能力を抑えない限りはどうしようもない」


 「ワイヤーを使う」


 「分かった」


 ローズのペアスライムがそこら中にワイヤーを張り巡らせる。


 まるで蜘蛛の巣のように。


 「⋯⋯」


 敵は冷静に待ち伏せて、アイリスは突っ込む。


 ワイヤーに突っ込むが止められる事はなく、突き抜けて進める。


 ペアスライムのワイヤーだからこそできる乱暴な方法。


 ローズは翼をしまってワイヤーを足場として近づいて行く。まるで忍者のように。


 「そう言えば名前⋯⋯」


 「久遠くおんだろ。知ってる」


 血のクナイを飛ばして防御を誘発するが、ノールックで躱される。


 続いてアイリスの攻撃を回避して腹を蹴り飛ばす。


 「ぐっ。なんつー力だ」


 「そろそろ終わらさないとね」


 クオンが踏み込み宙を滑るアイリスに近づき、赤き閃光を走らせる。


 「ぐぅ」


 袈裟斬りがアイリスを襲う。


 鮮血が舞いながらも致命傷には至っていない。


 「ちぃ」


 ローズが攻撃すべくワイヤーを踏み、弾性を利用して加速する。


 血の刀を両手に持って高速で振るう。


 「⋯⋯」


 ひゅんひゅん、と空気を斬る事しかできない刀。


 「がはっ」


 合間を縫いローズの腹を蹴り飛ばす。


 足の裏から伸びた刃がローズの肉を深く抉っている。


 「ごはっ」


 傷だけならローズの方が致命的だが再生能力などがあり、血を流し込まれたアイリスの方が重症だった。


 「苦しいか。すぐに楽にしてやる。男の方が辛いだろ。退け」


 「来るな!」


 ローズば刃を飛ばして牽制し、アイリスに近づいた。


 傷口に口を近づけて、着ける。


 「ジュルル」


 アイリスの傷口に入れられたクオンの血を吸い出す。


 「すまん」


 「すぐ立て」


 アイリスはローズを抱きながらバックステップを踏み、クオンから離れる。


 「な、なんで自分ごと!」


 「その方が速いだろ」


 「そうだが⋯⋯一応抗体となる自分の血を流しておいた。どれ程効果があるか分からないけど」


 「助かるぜ」


 気休め程度、と付け足して再び構える。


 「男はタフでもある。女は再生能力は高いがやはり脆いか」


 アイリスに足りないモノ、ローズに足りないモノ、それを兼ね備えたのがクオンである。


 彼の強さを前に敗北を認める選択肢は存在しないが、それでも難しい戦いなのは間違いない。


 底の見てない敵。


 「行くぜローズ」


 「いつでも」


 行くタイミングは決めてないが、息の合った動きで接近する。


 視線を交わす事も無く、クオンを左右から攻撃するように挟み込む。


 (勝機を掴むには毒を入れなくてはならない。そのためにどうするか)


 ローズは考えながらもアイリスと一緒に攻撃をしかける。


 当然、先程と変わらぬ攻撃なために対処されてしまう。


 アイリスは僅かに取った回避行動のおかげで致命傷を避けつつダメージを受ける。


 ローズは回避せずに攻撃を受けて、下半身と離れつつ吹き飛ぶ。


 「ちょいちょい」


 アイリスが回収しつつ何度目かの距離を取る。


 「少しは回避しろ!」


 「魔力ある限り死にはせん。回避に脳のリソースを使う余裕はない」


 「それでもしてくれ。傷つくのは見たくないんだよ」


 「⋯⋯甘いな」


 離れた身体を血で繋げてくっつけ、再生させる。


 「傷を見たくないのは自分も一緒だ」


 「す、すまん」


 ゆっくりと歩いて来るクオンを睨むローズ。


 「でもよ。ノーダメで勝てる相手じゃないだろ」


 「そうだな。簡単な相手じゃない」


 「良い信頼関係」


 「先程から自分らを評価した発言ばかりだな。何がしたい」


 「破壊。秩序無き破壊」




◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます

★、♡、とても励みになります。ありがとうございます


アイリスとローズ合わせてアイロズと言う略し方がちょっと気に入っている作者です

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