第41話 不穏な噂
結局勝負はつく事無く、時間切れのじゃんけんで俺は負けた。
眼の力はふざけているのか、『グー出す30%』『パー出す30%』『チョキ出す30%』と三つのテロップを出して来たのだ。
じゃんけんに対して全くの役立たずの力。
時間は過ぎ去り、家に帰るためには必ず通る校門へと向かった。
奇跡的と言うか、タイミングが悪いと言うべきか、アリスとシオトメ先輩に遭遇してしまった。
気配を殺したが時すでに遅し、気づかれ振り向かれてしまった。
「ッ」
上がっている。
二人から伸びるテロップ『アリス不幸になる50%』が出ている。
前は30だったのが50になっている。半分の確率だ。
上がっているのなら、アリスが不幸になる日が近いって事なのか?
分からない。具体的な情報が無いせいで上がった理由が分からん。
⋯⋯でも、俺はどうしたら良いのか分からなかった。
ただ立ち尽くし、声をかけれずに拳を強く握り締めた。
「ふんっ!」
プイッと顔を背けたアリスに対してシオトメ先輩は少しだけ口角を上げた気がした。
俺の視力が低下してなければ、確実に笑っていただろう。
それは怒っているアリスに対してなのか、喧嘩のように見えているこの関係にか。はたまた他の何かか。
とにかくシオトメ先輩は笑っていたのだ。
「どうしたのナグモさん。喧嘩でもしたの?」
「知りませんっ! 行きましょシオトメ先輩」
チラリと俺の方を一瞥してから、アリスは校門を通り抜けた。
その後をシオトメ先輩がゆっくりと追いかける。
その後はアリスは俺へと振り返る事無く、逆にシオトメは俺の方へと振り返った。
「だっさぁ」
クスクスと笑いながら、とても小さな呟きを吐き捨てた。
鍛えた聴力はその声をしっかりと聞き取った。
アリスの言っていた『噂』とやらの話を思い出した。
意味があるか分からないが、ヤマモト達に聞いてみる事にしよう。
翌日、いつものように集まったタイミングで俺は話を切り出した。
「なぁ二人とも。テニス部のシオトメ先輩の噂ってのを知らないか?」
「またそれか?」
「どうやら死にたいようだな」
「何かあったのか?」
真剣に問い返すと、ため息混じりに話してくれる。
「まず、テニス部のシオトメと言えばスクールカーストのてっぺんだ。眉目秀麗、文武両道など、とにかくモテる要素が多い」
「凄くどうでも良い」
「シオトメ狙いでテニス部マネジャーを志望する女子が多いため、容姿が優れている順に採用しているらしい。優れてない奴はそれだけで不採用だとか」
「とても興味が無い」
ヤマモトとサトウの話に率直な感想を漏らすと、鬼の気迫と共に人差し指をグリグリと押し付けられる。
「質問したのはお前だよな?」
「すまない」
謝罪を終えて、仕切り直し。
再び二人がシオトメ先輩の話をしだす。
俺はそれが『噂』に繋がるのだと信じて黙って聞き耳を立てる事にした。
「当選そんなイケメンハイスペックはモテる訳だ。どう言う訳か、探索者で活躍している俺達よりも、モテている」
考えずとも、すぐにその理由なんて出て来るだろう。
出てきそうになった言葉を必死に呑み込み、口から出さないようにする。
お口チャックだ。
「モテる男は当然、告白される。俺達は告白している立場にも関わらず」
それでも尚、俺らとご飯しているって事は成功例は無しと見て間違いないだろう。
彼女ができたとして、もう片方に必死に妨害されそうだけどな。俺も俺で巻き込まれそうだ。
「そんでこっからが本題だがな。シオトメって奴は女好きとしても有名なんだよ」
ようやく、俺の求めていた話になった。
「彼女を取っかえ引っ変え、一ヶ月続いた彼女はいない程だ」
「そうなんだ」
コイツらはこう言う話を良く知っていそうだ。
嫉妬が膨れ上がってそう。
「だけど、付き合った彼女の中にはこの学校の不登校者もいるとかいないとか」
「ああ。それだけじゃない。他校にも手を伸ばしているらしいぜ。何をされたか知らんが、付き合った八割の女はシオトメと恋仲になり数週間で姿を忽然と消したらしい」
「シオトメが監禁しているとか、そんな噂がある訳だな」
本題までが随分と長かったが、良くない噂があるのは確からしい。
だけどアリスはそれを信じてないのだろう。
いやまぁ、俺もコイツらからしか聞いてないし、それだけで確定する訳にもいかないか。
眼の力で嘘をついている確率が見れたら最高なのだが、そこまで万能では無いのだろう。
「そうか。ありがとう」
これを含めて、俺はあの視える運命の確率に不安をさらに高める。
せめて、アリスとシオトメの距離を引き剥がせないモノか。
「情報は提供したんだ。当然見返りが必要だよな」
「何かを得るには対価を支払わないといけない。それは自然の摂理なんだよ分かるよなヤジマ少年」
「学食のオレンジジュースで良いか?」
ここの学食は色々と売っている。
その中で一番人気なのは果汁100パーセントのジュースらしい。
お値段は四百円であり、ゴブリンの魔石四個分、つまりはゴブリン四体分だ。
ただのモンスターなら俺はなんとも思わないが、仲間のゴブリンの価値も同等と言われたらキレる自信がある。
とても身勝手だな。
「いや。そんな金を払えば買える様な物に興味は無い」
「俺らが、否我々が欲しているのはただ一つ」
「何億何兆と積み上げても、決して手に入れる事のできないモノ」
「そ、それは一体⋯⋯」
探索者をしているコイツらは普通の高校生バイトよりも稼ぎは良いだろう。
だと言うのに手が出せないだと?
それどころか、何億何兆と積んでも手に入らないモノか。
一体何を要求して来るんだ?
ま、まさか。
俺の種族がバレてそれを見せろとでも言うのか?
最悪なのはサキュバスの身体を⋯⋯これ以上は考えたくない。死ねる。
そう警戒心フルマックスで睨んでいると、奴らは予想外の言葉を口にした。
「「クジョウさんの連絡先をください!」」
「⋯⋯普通に知らない」
「くっそ! 役に立たねぇ野郎だな! なぁ、サトウ!」
「そうだな! 情報を教えた時間が無駄だ無駄! なぁヤマモト!」
結局ジュースを奢って理不尽な怒りを沈めてもらい、俺は考え事をしながら授業を終えた。
授業が身にならんな。
「クジョウさんにも相談してみようかな」
「私がどうかしたの?」
「ッ!」
気配を消して背後に立たれていた事に驚いて、飛び跳ねてしまった。
臨戦態勢に入ってしまったので、警戒を解く。
「君なら私の気配に気づいているでしょ。なんでそんなに驚いているの?」
「かいかぶりすぎだよ」
「私はそうは思わないな」
もしもそうなら、精神的な問題かもな。
クジョウさんに俺はアリスとギクシャクしている事を話した。
眼の力を話しても良いのか怪しかったので、そこは控えておいた。
「私も友達と言えるのがヤジマくんとアリスしかいないから、良く分からないな」
友達判定は受けているのか。ちょっぴり嬉しい。
無表情ながらしっかり考えてくれているのか、声は唸っていた。
「シオトメ先輩か。あまり良い印象は持たないね」
「そうなの?」
「うん。何回かご飯に誘われた事ある。あの人嫌な気配がするから、全部断ってるけど。そもそもそんな時間あるならダンジョン行きたい」
「めっちゃ分かる」
こんな事を話していると、変人扱いされて友達ってできないんだよね。
考えが似ている人がいると安心感があるな。
「言い方は良く無かったかもね。今度しっかりと話し合ったら良いんじゃないかな? できなさそうなら、私が場を用意するよ」
「ありがとう。その時はぜひともお願いするよ」
クジョウさんと約束を取り付けてから、俺達は家に一旦帰った。
その後は互いにダンジョンへと行く事になるだろう。
俺達はそう言う奴らだ。
◆あとがき◆
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