第14話 恥ずかしいモンは恥ずかしいんだよ(泣)

 意識を切り替えて、翌日俺はギルドにやって来ていた。


 まだゴブリン達の全滅の光景は瞼の裏に張り付いており、目を瞑れば鮮明に思い出せる。


 その時に感じた無力感、苦しさ、後悔、様々な感情を思い出す。


 武器を買うにしても金が無い。


 だから一体一体のゴブリンを強化する事に決めた。


 まずは戦力増加のためにも魅了して行く必要がある。


 「ステータスカードの提示をお願いします」


 受付を通して、武具を貰う。


 俺は防具や武器を装備して、ダンジョンの中に入る。


 入ると、背後にスライムとはぐれ者のゴブリンが現れる。


 「スライムとかゴブリンだと少し味気ないか。死なせない、その決意のためにも名前が欲しいかな」


 彼らに名前に対する価値観はないようなので、俺がつける事にした。


 俺にネーミングセンスなんてのは存在しないので、単純な名前になる。


 スライムはライムにした。


 ゴブリンは⋯⋯メスなのでパッと出てきたユリと言う名前をつけた。


 「ライム、ユリ、よろしくな」


 拳を出すと、ユリは合わせてくれて、ライムもちょこんと身体を伸ばしてくっつけた。


 軽く笑みを作り、歩み出す。


 動画をやれる気分かと言われたら正直、難しい。


 だけど、俺を支えてくれている視聴者は多い⋯⋯休み続けるのは良くない。


 元々毎日配信を考えていたくらいなのに、一日休んでいるんだ。


 心機一転、頑張るとする。


 「それじゃあ、始めるか」


 帰る時間も考えれば二時間程しか探索できないから、スピーディにやろう。


 ユリを抱っこして、ライムを頭に乗せて俺は飛んだ。まずは二層に最速で行く。


 “大丈夫か?”

 “そんな訳ない”

 “でも頑張らんとな。憧れは止められん”

 “成功よりも失敗の方が学ぶべき事は多いんだ”


 “反省しないのは良くないぞ”

 “武器が木の剣のままなのは金がないからかな?”

 “さて、エロを求めて良い雰囲気か?”

 “辛い時って変に慰められるよりもいつも通りの方が良くね?”


 “気を使われると余計に縮こまっちゃうからな!”

 “そっか。ならいつも通りな!”

 “ならば脱げ”

 “いつも通り脱げ”


 「いつも脱いでいるように言わないでくれませんかね!」


 しかしやっぱり安心感と言うか、ほっとするな。


 二層に最速で到着した。ユリ達を下ろす。


 「ユリ、今から俺が剣の基礎を移動しながら教える。基礎から自己流に昇華させるんだ。俺はなにかの流派を覚えている訳じゃないからね」


 基礎を伸ばして、伸ばして、他で補って戦うのだ。


 なにかの流派を学んでいる訳じゃないからこそ、変な癖と言うのが無いと思っている。


 反対に、どの技も基礎なので見破れやすくて安直であり単純な技ばかりだ。


 しかし、俺はそれが長所だと思って、あえて流派を学んでない。


 基礎を極限まで伸ばした先に技はある。


 クジョウさんの場合は突きに特化した流派なのだろう。そうじゃなきゃあの突きは生み出せない。


 広い空間に出たので、ユリに三十分間だけ稽古をつけた。


 その後はゴブリンで実践する。


 魅了した仲間が死ぬのは嫌だ。だけどその前のモンスターは普通に倒せるし罪悪感が無い。


 変わった心だ。


 ユリが二体のゴブリンと戦っている。


 同時に攻められているせいで、上手く攻撃に転じる事ができない。


 雑に振るって牽制しかできてない。


 「足を使うんだ! 手でも構わない! 剣以外を使って一体の体勢を崩せ!」


 俺がそう言うと、ステップで突き出しを避けてその腕を掴み、膝で折った。


 軽めの体術だが、俺は教えてない。


 「ずっと見てたもんな。見よう見まねができるのは良い事だ!」


 鍛治や料理など、どの職人にも言える事だが、技は見て盗めと言う。


 見よう見真似で続け、それが己の技となる。


 良い兆候だ。


 「ユリ、いけるぞ!」


 一体のゴブリンの腹を深く斬り裂いた。そいつを放置してもう一体に迫る。


 ゴブリンは攻撃のために剣を横薙ぎで振るうが、それを待っていたかのようにユリの身体が後ろにブレた。


 あからさまな誘いだったが、素人で知性の無いゴブリンだから成功したと言える。


 「ユリもゴブリン⋯⋯魅了すると知能も上がるのかな?」


 そう考えているところだった。


 振り終わりの隙だらけの身体にユリが垂直に真っ直ぐ腹を掻っ捌く。


 それでは終わらない。


 強く踏み込んで接近し、心臓目掛けて剣を突き刺した。


 抜くと蛇口のように血が流れ、ゴブリンは倒れる。


 起き上がった残りのゴブリンも満身創痍、簡単に倒された。


 「ユリの勝ちだ」


 ユリは終わった事を証明するように剣を上げて、俺に背中を見せてくれる。


 俺は少しだけ笑って、それにお返しした。


 まるで、『自分が守ってやる』とでも言いたげだ。


 “あらやだイケメン”

 “サキュ兄曰くメスらしいけどな”

 “ずっと背中を追いかけてたもんな⋯⋯魅了されてたのに”

 “最初から他のゴブリンとは違ってた。今回もか”


 その後、俺もゴブリンを倒してユリとの連携を伸ばした。


 俺も最初から戦い、連携力を高めれば群れ相手でも戦える。


 前の戦いで足りないのはゴブリン一体ごとの技術力など、つまりは戦闘力だ。


 そして連携力。互いが互いを補うのは当たり前だが、戦術がなかった。


 ある程度やったところで、一体のゴブリンを発見した。


 「魅了するか」


 “来ました!”

 “脱ぎますか”

 “今回もするか、視聴者会議”

 “もう今の彼には羞恥心は無いはずだ。さぁ、脱げ!”


 俺のミスで死なせたゴブリン達の代わり、そう言ったら酷いがそれ以外に言葉が見当たらない。


 完璧な代わりではないがな。アイツらはアイツらだけだ。


 責任はしっかり取るつもりだ。


 死なせてしまった彼らのためにも、踏み出さないと。


 「⋯⋯ダメだ。やっぱり恥ずかしい」


 “赤面した!”

 “悲しい顔をして心に傷を負っても、恥の心はあるのか”

 “サキュ兄の魅力だよな”

 “これだけで俺は魅了される”


 視聴者会議を終えて、俺は羞恥心を持ったまま、ゴブリンの前に出た。


 ユリとライムが応援してくれている。ライムの動きが可愛いっ!


 ゴブリンが俺を攻撃しに来そうだったが、それよりも前にエム字開脚をして、生足をゆっくりと見せていく。


 視聴者曰く、この工程がゆっくりなほど興奮を呼ぶとか呼ばないとか。


 俺はめくる度に恥ずかしさのボルテージがぐんぐん上がる。


 魅了は成功した。サキュバスの初期服、ほぼ下着は絶対に視聴者に見られたくない。


 危なかった。


 他に三体のゴブリンを魅了した。


 名前は今はつけないでおく。思いつかんのと時間がない。


 「三層に行く。ウルフは君達が束になって一体を倒せる強さだ」


 少しだけ過剰に教えておく。それで少しでも慎重になってくれると嬉しい。


 「二体以上の場合は速攻で逃げる。一体の場合は戦う」


 三層でさっそくウルフを発見したので、俺が倒し方をまずは見せた。


 それから一体相手にどう戦うかを教えて、それを実践する。


 ウルフをユリが正面から相手取る。間合い管理はまだ難しいのか、余裕を持って攻撃を避ける。


 その隙に他のゴブリンが背後などに移動して四方を囲む。


 それから一斉に攻撃をしかける事はなく、冷静に相手の攻撃を観察。


 ウルフはユリに攻撃をしかけた。それを躱す。


 瞬時に他のゴブリンがウルフの身体を突き刺す。ユリが弱ったウルフにトドメを刺して終わりだ。


 やっぱり一体ならどうにかなる。


 「っ!」


 曲がり角の影からウルフが一体飛び出して来た。


 フラッシュバックする蹂躙されたゴブリン達。


 身体が素早く反応していた。


 「ぐっ」


 腕を噛ませて、頭を抑えて力を加え、動きを止める。


 すごく痛い。でも我慢。逃がさない。


 「倒せ! 早く!」


 俺が叫ぶ。攻撃を受けたせいか、ゴブリン達がタジタジだ。


 だが、それでもユリは動いてウルフの脳天に剣を突き刺した。吹き出る血。


 倒せるまで、押し込んだ。


 「もう死なせないから。大丈夫だ」




◆あとがき◆

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