第150話 ユリVS立花 前編

 私の影に複数のホブゴブリンの気配がするけど、出す訳にはいかない。


 木の根が張り巡らされた部屋ではどこから攻撃が来るか分かったもんじゃない。


 「僕の相手は君か。どれどれ、弱点は?」


 魔眼を使うタチバナ。


 「ふむ。まぁ当然か」


 「魔眼を使うまでも無い。私の弱点は主様、そして主様は私よりもお前よりも強い」


 弱点はあって無いようなモノなんだ。


 これ以上の会話は必要ないと思い、踏み込む。


 タチバナがどんな目的を持ってこの組織に加担して、主様を敵に回したのか。


 興味は無い。


 ただ、妹様や友を巻き込み陥れたコイツは倒さなくてはならない。


 主様の怒りを二割背負わせていただいたのだから。


 「ふーん」


 私の踏み込みに対して隆起する床の根。


 足を取られる前に跳躍すると、天井からも伸びて来る。


 「はっ!」


 主様程のキレはないけど、木の根くらいなら切断は可能だ。


 「どーん」


 「ぐはっ」


 強風が刃のように鋭く、私の腹を裂いた。


 風の魔法を使えるようだ。


 ペアスライムの防具を貫通する威力なのは、少々厄介だな。


 「君は魔力を持たない。不完全なモンスターなんだね。出来損ないなんだね」


 「⋯⋯出来損ない、か。だからどうしたと言うのか。それは特別な証拠」


 奴の魔眼は看破の魔眼。相手の弱点を見抜く力を持っている。


 私の弱点は魔力が無い事、モンスターとして不完全な事。


 そうなのか。でも納得はできる。


 「⋯⋯と言うか、僕に勝てると思うの? ここは僕の安全地帯。君にとっては地獄だよ」


 「あいにくと地獄を知らなくてね」


 全面を警戒しながら再び踏み込む。私にはこれしか無いのだから。


 「はっ!」


 「言ったろ? ここは安全地帯なんだ」


 奴の身体から現れた盾が私の攻撃を防ぎ、四本の剣が背後から迫って来る。


 複数の根を同時に操り、隠してある武器を扱う。


 本当に厄介だ。


 四本の根を切り飛ばしたが、背中は斬られた。


 致命傷では無いし、動きに支障はないが小さなダメージが蓄積するのはまずい。


 懐に隠してあるポーション飴を食べながら次の攻撃を警戒する。


 「毒対策⋯⋯やっぱり同じ種族が敵にいると厄介だな」


 毒の問題は無い。再び攻める。


 「直線ばっかりだね!」


 進行方向を狙って六本の刀が迫る。


 先程の攻防で私が無傷で対処できるのはせいぜい二本、三本以上はダメージを覚悟する必要がある。


 しかし、それだとコイツに勝つ事はできないだろう。


 「落ち着け。集中しろ」


 数は多いがその攻撃は単調である。


 先程から突きの攻撃になっているからだ。


 ならば、まずは右側から迫る根へと接近し斬り飛ばし、回転して反対側の根も斬る。


 丁寧に優先順位を定めて対処すれば問題は無い。


 「⋯⋯その程度で満足されちゃ困るなぁ」


 パン!


 「くっ」


 乾いた発砲音が響いたと同時に私の太ももが銃槍に貫かれる。


 閃光の走った方向から銃の位置は把握したが、当然他の場所からも撃たれる。


 「はっ!」


 「一度受けたら防げるんだ」


 三方向から迫る銃弾を弾き、四方向から迫る刀を回避する。


 「くっ」


 すると、足元が疎かになりコケる。


 「ちっ」


 コケた瞬間を狙うように根がドーム状にのしかかって来る。


 「邪魔だ!」


 力を振り絞って切り裂き、拘束からは逃れる。


 「おーすごいすごい」


 木の手でトントンと拍手される。嬉しくない。


 アイツは一歩も動いてない。なのに私の体力はかなり減らされている。


 この陰湿なジメッとする空間も要因の一つ。


 湿っているせいで根が柔らかく、少しだけ斬りにくさを感じていた。


 「ねぇ。君さ僕の配下にならないか?」


 「何を世迷言を。私が仕えるのは主様ただ一人、過去にも未来にも」


 「うんうん。でもそんなのは賢くないよね? 強い方の味方をする。生きる上では必要な技術だよ」


 生きる上?


 はっ。バカじゃないか。


 「主様の方が強いのだから味方をする、それがお前の考えただと言える。だけど違う。私が主様の仲間でいられるから、生きているのだ。強さは関係ない。」


 主様がいない世界だったら私は生きていない。最悪生まれてない。


 私はギアを上げて加速する。


 愚直に刀を振るう事しか私にはできない。


 パワーはアイリスに劣り、テクニックではローズに劣る。


 魔力は私にだけ無く、中途半端な存在だ。


 だけど、アイリスもローズも私の事を強いと言ってくれた。


 その期待に添えない統率者はカスだ。


 「はっ!」


 「君は死ぬのが怖くないのかな?」


 私の渾身の一撃が、二本の刀で防がれる。


 追撃が他の方向から迫って来る。


 「鬱陶しい」


 いっそ全て燃やしてやりたい。


 回避しながらも奴から視線を外さない。


 「死ぬのが怖くない訳ないだろ。だけど、主様の役に立てない方が恐ろしいのだ」


 「理解できないなぁ。なんで誰かの役に立とうとか思う訳? 意味わかんないよ」


 「分からないだろうな。自分の身も心も捧げる相手に出逢えない限りは!」


 徐々に攻撃に慣れた私は数々の攻撃を掻い潜り、本体へと刀を振るう。


 だが、それもまた床から出て来た武器に防がれる。


 遠距離攻撃用の武器は壁際に隠さるている。


 床のあちこちに隠されているのが近接武器。


 そして自分の近く及び身体に隠してある武具は防御か。


 きちんとした役割分割をして扱っているらしい。


 防御に使っている武器は牽制はして来ても攻撃に転ずる事は無い。


 根を斬られるのが嫌なのだろう。


 根を斬れば当然武器は落ちる。それを新たな根が回収する。


 何十回と斬ってその傾向を掴めた。


 私が奴を倒せる攻略法は二つ、武器を破壊して本体を叩くか根を斬り無防備な本体を叩く。


 「それは弱者の論理だよ。強者は仕えるべき主とか必要ないの。しょせんはモンスターか。君は中々に使えそうなのに」


 「お前は組織に属しているでは無いか。何が違うと言うのか」


 「違うさ。あくまで僕は僕自身のために協力しているに過ぎない。お前と違い配下などになった訳では無い」


 幹部と言われている時点でボスよりも一段階下だと思うのだが⋯⋯まぁ良いか。


 「お前は安全を求めているのだな。そして自分は正しい賢いと思っている」


 ある程度見えて来た。


 「当然だよ。僕は死にたくない。だから支配者になりたいんだよ。バカを支配して上に立てば僕は安全だ。死ぬ事の無い未来が訪れる」


 「自分以外をバカとするか?」


 「違うよぉ。僕の考えを理解できないバカ共の事をバカと言っているんだ。君の主のようにね。君はまだ賢くなれる。僕のところに来い。さすれば安全と力を約束しよう。僕だって魔王後継者なんだから」


 何も言わずに地を蹴っていた。


 主をバカと言われて苛立たない私では無いんだ。


 「バカはどっちだ。お前は魔王後継者候補だろ!」


 私の連撃も虚しく防がれる。


 余裕が崩れない。


 「はぁ。愚かだ。すごく愚かだ」


 「愚かはどちらだ。自分の安全しか考えられない奴に、この先の未来があると思うな!」


 私は知っている。


 異世界からの侵略者の理不尽なまでの強さを。


 次元の違う力を。


 コイツも私もその化け物達の前では蟻に等しい。


 安全を求めて力を求めないコイツには無理だ。


 安全を得るために力を求めていると言われれば、言い返そう。


 ならばこの空間を捨てろ、と。


 自分の優位な空間を創り出し籠って安全地帯だと言う。


 そんな奴は強くなれない。自分の殻を破れない奴は強くなれない。


 「支配者にならば未来は安全だ」


 「支配者? 笑わせるな! お前のような雑魚が支配者などと思い上がるな!」


 「君の主はその器にふさわしいと?」


 攻撃を防ぎながら口論を続ける。


 全てを防ぎ切れずに多少のダメージはくらう。


 「違う。主様は支配者じゃない」


 私は怒りを込めて否定する。


 「だろうね。そんな⋯⋯」


 「主様が目指すは支配じゃない。平和だ。安息なんだ」


 「それだったら僕と一緒じゃないか?」


 「違う。安全と安息を一緒にするな。お前は危険のない支配者を見ている。主様は友と笑い合える日常を見ているんだ」


 ⋯⋯見ている場所か。自分で言った言葉に引っかかる。


 私の見ている所はなんだろうか。


 私は主様に憧れを抱いている。主様の隣⋯⋯なんだろうか。


 最初のきっかけはなんだったか、思い出した。


 剣だ。


 私は主様の剣に憧れて、魅入られて、強くなりたいと思ったんだ。


 主様の種族的力でもなく、魔法的力でもなく、剣だ。


 私は主様の剣になりたい。彼が安息を手にする手助けをしたい。


 したい、じゃない。するんだ。


 「主様の安息を脅かしたお前を私は斬ると約束した。倒すと誓った。だから私は負けない」


 「それで勝てるのは少年漫画だけなんだよ? 全く理解できない。僕の配下になるのが賢い判断なのに」



◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます

★、♡、とても励みになります。ありがとうございます


また、長くなりそうです(´・ω・`)

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