第20話 辛い時は誰かに話して楽になれ
何を間違ったんだ。
油断してしまっていたのか?
「順調だったのに⋯⋯」
再び増えた仲間を俺の油断で全てを失ってしまったんだ。
ユリが特別な進化をして、有頂天になって。
「クソっ」
ダンジョンなんだから、仲間が死んでしまうのもしかたない事だ。
だけど、割り切れない。割り切れるはずがない。
「次は、次こそは⋯⋯次ってなんだよ」
それだとアイツらの代わりが沢山いるようじゃないか。
いや、俺もそう思っているのかもしれない。
サキュバス、淫魔系の種族になるなんて微塵も考えてなかった。
テイム系の能力が無ければ、ずっとその考えだった。
モンスターは区別無く、全部同じだと思っていた。
「はぁ。キツイな」
俺は手に入れた僅かな魔石を換金してから、外に向かって歩みを進める。
帰って寝たい。ゆっくりしたい。
「ヤジマくん」
焦っているのか、声音がいつもと違うクジョウさん。
そう言えば、一緒に来てたな。それすら忘れるくらいに余裕が無いのか。
「どうしたの?」
「えっと、その。なにかあったの?」
「何も無いよ」
クジョウさんに言う事じゃないし。
いつものように無表情な彼女だけど、喋り方などで焦っているのは分かる。
なんでそうなっているのか分からないけど、今は関わりたくない。
心に余裕が無いから。
「疲れたから、帰るね」
「あ、うん。また明日」
「ああ。また明日」
クジョウさんにぶっきらぼうな返事をしてから、俺は帰路に着いた。
街灯に照らされる夜道を歩きながら、ただ呆然と振り替えっていた。
いきなり現れたダークウルフによって全てを失ってしまった、先程の光景を。
あの状況で何をしたら切り抜けられたんだ?
「武器が弱い」
鉄の剣はまだ良い。問題は防具だ。
今の防具だとどうしても動きの邪魔になる。
男物用なのとサイズが合わないせいだ。
それとユリの武器も新しいのにしよう。ゴブリン時代の武器だといつ壊れるか分からない。
武器や防具、その他にもポーションも用意しないといけない。
生存確率を上げるためにも必要な事だ。
「金が足りない。何を買うにも金が必要だ」
生きるためにもダンジョンを探索するためにも金が必要になるな。
配信もしているけど、広告収入を得るには最低限の条件は満たさないといけない。
まだその条件を満たせている訳じゃないから、配信の収益はゼロだ。
「まずは全力で金を稼ぐか」
俺はスマホを開いて、SNSで配信をお休みする事を伝えた。
全力で強化に務める。
家に到着すると、妹がすぐに俺の異変に気づいたようだ。
「兄さん、なんかあったの?」
「何も無いよ」
俺がそう言って、荷物を置きに向かうとテレビのリモコンが投げられた。
キャッチできると思って、精密機械を投げて来やがった。
もちろんキャッチする。
「何かあるって分かるし。変な嘘言うな」
「何もないって、言ってるだろ」
「何かあったから、そう言うんでしょ。妹様を侮るな」
俺を逃がさないと言わんばかりの眼光。
彼女は俺が何も言わないと悟ると、机に置いてあったスマホを取り出して操作する。
「何を?」
「何も言わないならアリス
「兄に向かって脅迫とは良い度胸だな」
イタズラっぽい笑みを浮かべるが、妹の顔は険しいままだ。
ふざけて良い空気じゃないって訳ね。
「アリスや父さん達には言わないでくれよ」
「変化に気づかない程、浅い関係じゃないけどね。ほれ、話したまえ」
俺はソファーに座って、起こった事を話した。
誰かに話した事によって、少しだけ沈んだ心が軽くなった気がする。
「ふーん。そんだけ?」
「そんだけって⋯⋯」
「よー分からんが、結局は自分自身の心の問題でしょ?」
グサッと真実を言われた。
真実とは時にこんなにも鋭い刃になるのか。覚えておこう。
「まぁ何はともあれ」
「んっ?」
妹が包み込むようにハグして来る。
落ち着いた心臓の鼓動が一定間隔に刻まれている。
「辛い時は一人で抱え込むなって。昔に言ってた事じゃん。自分の言葉には責任を持とうや」
「⋯⋯ああ。ありがとっ」
「誰にも話さんし、広めん。ただな、苦しいなら楽になれば良い。その方が、モンスター達も喜ぶと思う」
「そうだな。その通りだ」
妹に励まされる日が来るとは夢にも思わなかった。
晩御飯の準備をしてから、明日の計画を練る事にした。
頭の中で道を映像として再生し、地図を完成させる。
どんなモンスター、どれくらいの数、どのタイミングだったのかをメモに取る。
そこから効率的に狩れる道を探る。
「金稼ぎは序盤の準備だ。時間をかけている暇は無い」
最短でどれだけの金が稼げるかが重要だ。
無駄は全て削ぎ落とす。
走るよりも飛んだ方が、スピードは僅かだが落ちるけど体力の消耗は抑えられる。
慣れたら飛ぶ方が速いかもしれない。
普段の移動は飛んで、倒す時はユリと一緒に一気に倒す。
解体も魔石だけを抜き取って死体は放置だ。ライムのご飯は当分抜きになるかもしれない。
ちょっと可哀想だけど、理解してもらえるかな?
翌日、アリスを叩き起して学校に向かう。
「痛い〜叩き起す必要ないでしょ」
「お前昨日夜更かししたろ? そのくらいしないと起きなかったんだよ」
背中をさすりながら隣を歩くアリスに愚痴る。
昨日はかなり心が荒んでいたけど、妹の励ましもあって普通に振る舞えている。
学校に着いたらクジョウさんに謝らないとな。
「ブー。全く。青春をダンジョンに捧げるバカにはアタシの崇高な人生は分からないのだよ」
「ん? むしろ青春じゃないか?」
「ダメだこの探索脳早く何とかしないと」
全く良く分からない事を言うものだ。
ダンジョン探索は人生の神秘だろ。それを高校生の時からやっている俺は人生をしっかり謳歌している。
青春って奴だ。
結構辛いけどな。
「まぁ良いけどね。でも、そのままだと彼女もできずに高校生活を終えそうだね」
「必要じゃないだろ?」
「これだから⋯⋯アンタは高校生ってのを分かってないんだよ」
バシバシと背中を叩かれながらそんな事を言われる。
俺は高校生なので、分かってないも何もないと思うんだけどね。
学校に到着する。
「⋯⋯何があったか分からんけど、元気出しなよ」
それだけ残してアリスは目の前を歩いていたテニス部の先輩、シオトメ先輩に挨拶しに行った。
めっちゃ笑顔やん。
「そんなに元気出てないように見えたかね?」
昼食の時間、アリスは部活のメンバーと食べるらしい。
俺はヤマモトとサトウのイツメンと一緒に食べている。
「聞いてくれ二人とも」
真剣な顔でヤマモトが言葉を出した。何か深刻な事でもあったのだろうか?
それなら励ましてやろう。
「モテん」
「それな」
「くだらな」
反射的に答えてしまった俺に二人の顔面が迫って来る。手でグイグイと押し返す。
「貴様! これがどれだけ由々しき事態か分かっていないようだな!」
「高校生にして探索者と言うステータスがあるにも関わらず、全く女が寄り付かん。これでは俺達がなんのために探索者をやっているのか、分からんでは無いか!」
「普通にダンジョンを探索したいとか、憧れの探索者に近づきたいとか、そんな理由じゃないのか?」
そう言うと、二人は大きなため息を吐いて、「これだからコイツは」みたいな顔をされた。
めっちゃ頭にキタ。良く分からんが腹が立った。
箸で少しだけ脅かしてやろうかと模索していると、背後からクジョウさんが接近して来ていた。
さっきまでなぜモテないのか論争をしていた二人が、姿勢と言葉を正した。
「今日も、良い天気だ⋯⋯ですね」
「そうだな⋯⋯ですわね」
朝は良かったけど、昼に連れて曇り始めている。帰りの時は雨だな。
言葉遣いを気にして内容が終わってる。
「えっと、ヤジマくん」
「ん?」
おっと二人の殺気が。
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます!
★、♡、ありがとうございます。とても励みになっています。
早いモノで二十話目に到達しました。これも応援してくださる読者様のお陰でございます。
改めてお礼申し上げます。┏○
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