第139話 守る対象
「コレです」
カナエちゃんから手紙を受け取ったアリスはカバンからノートを取り出す。
昨日の今日で連絡をくれて、こうして俺も同伴で会っている。
影に護衛及び監視役を忍ばせていたが、誰かが接触して来る様子はなかった。
それに呪いのようなモノも発動してないし、オオクニヌシが彼女に深く関わってないのは確かかもしれない。
だけど利用されているのは間違いない。
「⋯⋯アタシの目だけど、やっぱり筆跡が違うよね」
サナエさんの文字で書かれたノートの文字と手紙の文字を交互に見やる。
使ったペンが違うのはもちろんだが、それでも異なる点はある。
全く一緒だとは思えない。
あくまで肉眼なので、精密な検査をしたらまた違う結果が出るかもしれない。
少なくとも、俺達二人が見た限りでは違う人物が書いた文字だ。
そこから考えられるのは、オオクニヌシがカナエちゃんを利用するために姉との繋がりを持たせていた事だろうか?
何を考えているのか⋯⋯オオクニヌシだと一目で分からない方が適している場合もあるのか?
「何か知らないか。君に俺の情報を提供した人の事とか」
「す、すみません。あの時は気が動転して⋯⋯あまり記憶が無いんです」
「無理も無いか。すまない」
月一の手紙だけのやり取り、それでも家族を失った彼女にとってはどれだけ嬉しいモノだっただろうか。
それが偽物だと発覚してしまった時、彼女はどうしてしまうだろうか。
結局は手付かず、再び行き詰まりの状態になってしまった。
「あの、姉ちゃんの事について、聞いても良いでしょうか。気になるんです。どんな人だったのか」
「それはアタシから話そうかな。そうだね、面白い子だったよ。ゲーセンで音ゲーしてたらね、酔っちゃうくらいに面白い子」
そこからアリスは楽しそうに、そして自慢するかのようにサナエさんの話をした。
話が続くにつれて、声は震えだして途切れ途切れになる。
机にポツっと音を立てて落ちる水。
「すっごくね、楽しかったよ。それに約束、してたんだ。また遊ぼって」
「アリス⋯⋯」
「サナはアタシにとって親友なんだよ。それは、今でも変わらない」
数十分の話、それだけでも十分伝わるモノはあったのだろう。
震えるアリスの肩を抱きしめた。落ち着かせるように。
『アリスちゃん⋯⋯』
「ありがと、キリヤ」
俺はカナエちゃんを見る。
「サナエさんが亡くなった理由はオオクニヌシって奴らが原因だ。君に接触して来た人も十中八九その関係者」
「そう、なんですか」
「信じてなくて良いよ。疑っていても構わない。結果的に彼女の死に俺は関わっている。無関係じゃ無い。憎む対象が欲しいなら俺にしてくれ。俺だけにしてくれ」
「そんな、事は⋯⋯」
言葉に詰まるのはしかたない。
結局、人から聞いた内容で振り回されているだけだからな。最初に聞いた方を信じてしまうのもしかたない。
「もしかしたらまた君に接触して来るかもしれない。その時は君を利用するのではなく、処分するために来るかもしれない」
「処分⋯⋯て」
「君は俺に銃口を向けた。それだけで意味は分かるよね?」
「ッ!」
「大丈夫、護衛は用意する。だけど常に警戒した方が良いのは確かだ」
むしろ俺的に来てくれた方が⋯⋯なんて考えちゃいけないか。
もしもサナエさんの妹でなくとも、関わったからには守る。
俺を憎んでいようが恨んでいようが関係ない。オオクニヌシと関わって奴らの仲間じゃないなら守る。
そして奴らの仲間は全員⋯⋯。
「まだ安息とはいかない。でも必ず、奴らの手が届かないようにするから。一応ここでの話は頭の中に入れて置いて」
「ど、どうやって⋯⋯」
「聞かない方が良い」
少しだけ言葉を強めて言った。
泣き止まないアリスを宥めながら俺は家に帰った。
◆
「なんだ呼び出しとは」
地球の魔王ガイアラッドは月の魔王ムーンレイに呼び出されていた。
「お礼がしたくてね。ありがとうねキリヤくんのライブを生で見れたわ」
「別に構わん。⋯⋯ただ、ズルしてまで最前列の方に行くとは思わなかった」
「ズルとは心外ね。ちょっと譲って貰っただけよ」
まずユリ達経由で確実に一人分のチケットを獲得する。
すると一人分のスペースは確保できている状態。
後は最前列、つまりは協力者の誰かを魅了して交換して貰えば良いのである。
それは申し訳ないと感じたレイは観客全員を魅了して、記憶の操作を施した。
自分は最前列に行きつつ、協力者は前の方に居られる様に調節したのだ。
ラッドが用意した肉体でもレイの力があれば可能なレベル。
「あまりよろしくは無いがな」
「良いじゃ無い。世界そのものがそれを拒絶してなかったって事は、セーフラインって事よ」
魔王は本来違う惑星への干渉ができない。それがルールなのだ。
しかし、多少の能力使用はできるらしい。
地球の魔王が用意した身体を使ったから、と言うのも理由の一つだろう。
魔王としての力ではなく、サキュバスとしての力しか使っていない。
「と言うかね、ワタクシに肩入れとか言っていた割に君もキリヤくんに肩入れしてないかしら?」
「そ、それは⋯⋯」
口ごもった。そのちょっと可愛らしい反応にレイがいたずらっぽくニンマリ笑う。
腹をツンツンしながら煽るように喋る。
「え〜なになに、ついにキリヤくんに期待する様になっちゃった訳〜?」
「そ、そうだ。実際問題。魔王種への進化をしたのは彼(?)が初めてだ。時間ないのも事実。賭けるしかない。他の後継者候補も進化してくれるなら話は別だ」
「基本エゴイストだからね。キリヤくんの周りは家族を大切にしているからこそ、人間である事を捨てられる訳が無い」
「⋯⋯ただ、あの男(?)は本当に魔王種への進化をしているか謎だ」
「限りなくそれに近いけど完璧では無いって状況よ。勇者の力が覚醒して誤魔化されているだけに過ぎないわ。つまり、これからもっと強くなれるって事ね」
「お前は、なぜそこまで詳しいんだ」
魔王へと限りなく近い種族へと進化している。魔王と誤認してしまう力量をキリヤは持っている。
「勇者の力が覚醒したから、魔王と勇者の力が中途半端に目覚めたとワタクシは考えているわ。まぁもしも、このバランスが保たれてなければあの龍に勝てたか怪しいけれど」
ラッドもレイの視線に釣られる様に巨大な剣へと顔を向ける。
最初の侵略者、予定よりも早く到来した化け物が使った剣。
「お前の背を焼いた剣か」
「そうね。⋯⋯あまり嬉しくない覚え方ね」
「それくらいしか印象にない」
ムスッとなるレイ。
自分の嫌な部分で覚えられているのは気に食わないらしい。
「でもなぜ、予定よりも早く来たんだ。魔眼だって⋯⋯」
「魔王の魔眼だろうと理屈は後継者達の持っている魔眼とさほど変わらない。計算できない何かがあったって事よ」
「それは⋯⋯クソっ」
「考えたくないのなら考える必要は無いわ。こうなってしまったら魔王であるワタクシ達に手出しはできない。もっと早くに気づいていたら、対処は可能だったわね」
「いっつも手遅れだ。クソが」
どうして予定よりも世界の壁を越えてやって来れたのか。
その理由を二人は気づいた。だけど気づいたからと言って、何かができる訳では無い。
自分の領域でなければ魔王としての力は使えないのだから。
「それで、ワタクシとの利害一致で成り立った実験成果はどうかしら?」
「完璧、とは言い難いな。ある程度の誓約を立てた」
「それはしかたないわね。それでも、きっと喜ぶわよ。⋯⋯ラッド、ありがとうね」
「お前が奴に覚悟を決めさせるための手助けをした。あの龍討伐の恩義もあるし、返したい。何よりも味方にいて欲しいからな。この程度は造作もない」
レイは密かに笑った。
相変わらず優しいね、と。
◆あとがき◆
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