第193話 どんな事があろうとも結論は一緒
世界断絶を行うために必要なのは大量の魔力を得る必要がある。そのために全生物魅了計画を進める必要がある。
今は雷の龍との戦いで世界的注目を集めているため、配信をやるならばチャンスである。
ただ、今全生物魅了したところで魔力を受け止める器が無いため、先に進化を目指す必要がある。
進化に必要な条件は具体的に分かってないが、ツキリ的には勇者の力を完璧に引き出した状態の進化形態が望ましいらしい。
まだ具体的な進行はできないし、行うにしてもレイの協力は必要不可欠になってくるだろう。
「ダンジョン行って来る」
「行ってらっしゃい」
テレビを見ているマナ。そのテレビには新人モデルが出ていた。
まるで作られたかのような人形のように綺麗なルックスやスタイルを持ったモデルだ。
「もうテレビに出る程か」
「兄さん何か言った?」
「いや何も」
「⋯⋯そう言えば、このモデルさんなんかサキュ兄の方に似てない?」
「気のせいだろ」
改めてダンジョンへとやって来た。
最近ではモンスターと戦う事は滅多にない俺だが、やはりダンジョンの空気と言うのがある。
決して美味しいと思える訳では無いが、ダンジョンの空気と言うのを感じるだけでも幸福感を感じる。
色々な事を知ってしまった今でも、ダンジョンに来れる喜びは変わらない。
「それでは、配信始めましょう」
ウキウキのユリ。
結構前に配信してからあまりしてなかったもんな。色々とあったから。
主に雷の龍のせいだとは言うまでもない。
「⋯⋯そう言えばローズは?」
「修行に出かけて当分は帰って来ないと」
「え、家出?」
俺何かしたかな?
何したか自覚が無いのは一番危険だ。色んな人に頼って情報を集めて誠心誠意謝罪をしなければ。
「いえ修行です。なので焦らなくて大丈夫ですよ。主君の事を嫌いになる事も離れる事もありませんから」
「ほ、本当か? と言うか良く焦っているって分かったな」
「ものすごく真顔になってましたよ」
ユリに俺の変化が見抜かれるようになったか。
配信を始めると、SNSで予告していたのもあってか、同接の数はみるみる増えて行く。
「サキュ乙! それでは今日は十層を目指して行きましょうか!」
“よろしやす”
“ローズは?”
“サキュドル魅了はまだですか”
“ひっさしぶりだな”
“ドラゴンとの戦いは大丈夫だったか?”
“本格的に特定されそうだけど無事かね?”
“サキュ兄! サキュ兄!”
“デュフフ”
“今回はパンチラを魅せてくれ。パンチラだよな? バンチラで良いよな?”
“最近はエロが多めだったからな。今日はエッチな路線で行こう”
“ユリちゃんがせっかく進化したんだし相乗効果を狙いたい”
“二人してくっころしてもらうか?”
雷の龍に触れてくるコメントもかなりの数はあった。
しかし、流石はサキュ兄の視聴者達と言うべきか。
魅了の話が一度出れば火事のように広がって行く。
「主君主君」
子犬のように歩み寄って来るユリ。何かあるんだろうなと脳内アラームが警告音を響かせる。
「メスガキ魅了しましょう」
「俺はちっさくないしガキじゃないしメスじゃないから却下」
「その辺はライムで上手くやりましょうよ」
「ライムは色々な物に変化できるけど、万能じゃないのよ。できる訳無いじゃない」
ユリは魔法制御の練習も兼ねてか現れるモンスターを次々灰燼に変える。
あまりの熱量に魔石さえもドロッドロに溶かしてしまい、収益が入らなくなっている。
まぁでも、彼ら勝手にダンジョンに行って訓練ついでに稼いでくれているから問題ないんだけどね。
問題は無いのだが、探索者としての楽しみとか全てを奪われている気がしてならん。
「ん〜手応えが無さすぎますね。もう少し強くて良いのに」
「今のユリを満足させる様なモンスターがこんな上層にいたら初心者全員入れなくなるわ」
“それはそう”
“いつの間にか俺の実力も越えられたからな。俺探索者じゃないけど”
“ユリちゃんの実力も知りたいし模擬戦して欲しいな”
“サキュ兄の好きそうな事やんね”
模擬戦か⋯⋯今のユリと闘うのはありかもしれない。
今ならば対等な勝負、あるいは俺が負ける事だってありえる。
そのレベルに強くなっている。
⋯⋯しかし、飛躍的に上昇した力に振り回されなければ良いが。
ユリならば安心、と言う信頼がある反面ユリだから身を削ってさらに力を得ようとするんじゃないかと言う不安がある。
ウキウキでモンスターを炎で焼き尽くしている子供っぽい姿からは想像できないが、彼女は彼女で力を求めていたのだ。
「今更気づいたんだが、魔剣は使わなくて良いのか?」
俺のあげた刀を装備している事が気になったので質問する。
刃こぼれしてもおかしくないが、きちんと手入れがされて綺麗な状態。
「主君から与えられた武器で戦いたいのです。⋯⋯しかし、壊したくないので真に必要な時はあやつを使います⋯⋯」
嫌そうな顔をしてる。何かあったのだろう。
表情から滲み出る嫌な感じがヒシヒシと伝わって来る。
「戦う度にああしろ、こうしろってやかましいんですよ。的確なアドバイスなのは分かってますが、真剣勝負にいちいち口出されると嫌気がさします」
「く、苦労してんだな」
魔剣カッコイイ羨ましい! とか思ってたけど、それを聞いたら悩みどころだ。
スライムって言うモンスターが剣になってくれるから、実質魔剣のようなモノか。
十層に到着した。
ハーピーと言うモンスターがメインで出現する。
鳥のような足と両腕が鳥のような翼になっているのが特徴だ。
人型のモンスターなのだが、口から出される超音波的な声の攻撃が強烈。耐性か対策してないと鼓膜が破らる程の声量があるとか。
しかも音攻撃だからか範囲は広い。
それだけではなく、歌による仲間や自分に与えるバフや敵に与えるデバフまである。
基本的に空を飛んでいるのが厄介な敵。
早速現れると、アイリスが前に出た。
他の連れて来た仲間達も戦いたくてうずうずしているのだろう。
戦闘狂が多い事だ。
『⋯⋯』
ツキリが何か言いたそうな目をしているが、触れないでおいた。
「姫様、ユリ様、見ててくれよ!」
アイリスが斧を大きく振りかざすと、空を舞うハーピーからの音攻撃が飛んで来る。
一応みんな耳栓をペアスライムでしているので問題ないだろう。
スライムの特徴をフル活用して完全に音を遮断できる。
音攻撃を受ける前にアイリスは斧を真っ直ぐに力強く振るった。
その力は尋常じゃ無く、放たれる風圧は風の斬撃となってバーピーを縦に切り裂いた。
有り余るパワーをフル活用した中距離攻撃だろうか。
風圧を飛ばすと同時に魔力を纏わせるのが見えた。斬撃の形状をキープするために使ったのだろう。
「衝撃波を攻撃に使うのか⋯⋯形を保って攻撃するために使う魔力は最小限に抑えられる」
これは実用的では無いだろうか?
まぁ、結局は風圧になるので火力は気になる所だが。
さて、アイリスの見せ場的な展開が来たので今度は俺の見せ場だな。
⋯⋯始まったのは魅了会議だった。
知ってたよ。知ってましたよ!
べーつに、俺も視聴者に向かって魔法を纏う移動方法を見せてカッコつけようとか、思ってないし?
だから、悲しくないもんね!
あ、いや。魅了が始まるのは悲しいわ。こんな魅せ所はいらん。
魅了会議が終わり俺は早速、言われた通りの事をした。
まさかな。あれが伏線になるとか思わんて。
俺の視界は変わらない。だが、下を見れば自分の頭が見える。
何を言っているか分からないって? 俺も分からない。
説明しよう。ライムを装備している。以上だ。
詳しく語るならば、無駄な部分は覆い隠して風景に同化、身長の小さなサキュ兄をスライムの特性をフル活用して作成した。
今回の魅了はズバリ、メスガキ魅了である。
これだったらライム一人で良いじゃんってなる。俺もそう思っている。
しかし、それは視聴者と仲間達が許さなかった。
ライムが上手く自分の身体を扱うため、俺はVRゴーグルでも嵌めているかのような感覚でメスガキサキュ兄を操作する。
長い髪の毛を両手で掴んでツインテールを作り出す。
深呼吸して、今すぐにでも叫び出しそうなハーピーに向かってセリフを吐く。
「そこのおねしゃーん、サキュぅ歩き疲れたからぁ家まで運んで欲しいなぁ」
ウインクしながら子供のような声⋯⋯意識したら出せるサキュバスの力。
生意気な雰囲気を出しながらも可愛さを全面に押し出す。ライムがね。
魅了が成功してしまうんだからおかしいよね。
⋯⋯だがな、終わりじゃないんだよ。面白くないよな。
「なーにエッロな目で見てるのぉ? おにキモイんだけどぉ?」
凹んだ様子のハーピーに後で誠心誠意謝ろう。
それと俺、一切噛まずに言えた事を悔いよう。
「ちくしょう。俺はなんで、こんな事をしなならんのだ」
あーもう全てを投げ出して寝たい。虚無感だけがそこに残った。
“凹んでる!”
“羞恥よりも絶望が勝ったのかな?”
“サキュ兄、特技死んだ魚の目”
“初見です。一言、なにこれ?”
“ドラゴンと戦ってたサキュバスはどこですか”
“踏まれてぇ”
“てぇてぇ”
“その姿で口汚く罵られたい。してください”
“やはりライムで覆ってしまうと羞恥は半減するか”
“リスナーのための魅了だったな”
“ユリちゃんの興奮度上昇測定不可能”
“立派なメスガキ”
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます
★、♡、とても励みになります。ありがとうございます
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