第69話 今日から君はキュラだ

 妹を仲間外れにしている、その事実が心に刺さる事になり、俺は妹に種族を明かした。


 その後調べられてサキュ兄もバレた。


 嘘はいずれバレて、兄妹の仲を壊していたかもしれない。


 そう考えれば、このタイミングで打ち明けれたとも言える。


 有名になればなるほど、妹にバレるのを恐れる気がする。


 翌日、俺は学校が終わったすぐにダンジョンへと駆け込む。


 「今日もお気をつけてくださいね」


 「はい」


 ヤエガシさんのいつもの言葉にいつも通りに返事をし、ダンジョンに入れるのを待つ。


 今回はAの入口から入れるらしく、呼ばれるのを待っている。


 同じダンジョンだけど入口は複数用意されており、探索者の密集を避けるための措置だ。


 入れる順番となったので、入口を通る。


 「ご主人様、今日もバシバシ頑張りましょう!」


 「そうだな」


 最近は見た目通りの元気を持っているユリ。頭を撫でながら周りを見渡す。少し違和感がある。


 魅了して間も無いゴブリンとウルフが進化している事に気づいた。


 「一度進化すると、その後のメンバーの進化も早いのかな?」


 てか、いつ進化したの?


 カードの中で眠っているはずだし、進化できる要素はないと思うんだけどな。


 てか、いきなり進化してもしっかりと名前が出てくるのは良いね。ちゃんと区別できてる。


 「さて。いつも通り五層で訓練と採集を⋯⋯」


 「仲間を増やすべきですっ!」


 「ユリ、落ち着いて聞いてくれ」


 俺はユリと同じ目線になり、優しく囁く。


 「そんなに短い感覚でやると、俺は死んでしまうんだ」


 「それはダメです」


 「ああ。だから今日は休み。カメラに向かってこの事を喋ったらダメだよ? 視聴者に相談するのも、当然ダメだ」


 そしたらこれがデマだと言うのがバレてしまう。


 俺に都合の良い情報だけを与えておくのだ。それが心のためになる。


 「って事で、五層行きますか」


 すると、珍しくライムが抵抗して来た。


 腕の中にいるライムが身体を伸ばして、矢印を形成している。


 「あっちの方向に行って欲しいんだな」


 特に何も無いと思うが、ライムの動きが可愛かったので向かう事にした。


 「姉御、ライムって優遇されてない?」


 「主人の意に従え、アイリス。そしてライム様だ」


 「だけど抱っこ羨ましいだろ! ローズだって思ってるくせに。それに他のみんなも!」


 二人の会話。


 ウルフ達とは時々遊んでいるので、ウルフ以外の皆は同意した。


 「ライムは一番最初の仲間ですからね。しかたないんですよ」


 ユリも諦めたように呟いた。


 確かにそれもあるが、ライムのぷにぷにとした感触ってクセになるんだよね。


 だからずっと抱っこしている。


 ライムが示した方向に進んでいると、珍しい色をしたスライムを発見した。


 俺の記憶の中に一層であのような赤と銀のスライムは無い。


 イレギュラー⋯⋯それとも誰にも発見されてない程の激レアのモンスターか?


 いや、それはそれでイレギュラーか。


 何はともあれ、警戒はしておくか。


 「え、警戒する必要は無いの?」


 警戒している俺に気づき、ライムが必死に抵抗して来る。


 ライムを信じて、警戒心を解くと、安堵したように震えた。


 腕の中から飛び出し、新種のスライムの方向にライムが進んで行く。


 「いったいなんなんだ?」


 早足で追いかける。


 ライムはそのスライムの目の前で止まり、互いに震えている。


 もしかして会話しているのかな? 可愛いな。


 「ムー」


 「姉御の嫉⋯⋯ぐべっ」


 ユリに殴り飛ばされたアイリスが気なりつつも、目の前のスライムに集中する。


 どことなくライムに似ている?


 「あれ? モンスターなのに、普通のモンスターとは何かが違う気がする」


 野良のスライムとは違う。ライムに近い何かを感じる。


 『吾輩、ライムの分裂体でございます、主様』


 「え、どこから声が?」


 耳に響いた感じがしない。


 一定の音量で脳の中で響いたような、そんな声。


 この不思議な感覚⋯⋯知識では知っている。


 【念話】と言う魔法に類似している。


 「もしかして⋯⋯お前が?」


 目を向けると、『そうだよ』と言わんばかりに身体で円を作る。


 ライムそっくり。


 「でもどうなってるんだ? 普通は俺が出たタイミングでライムの身体に戻って、カード化するんじゃ?」


 『理由は分かりませんが留まり、自我が芽生えております』


 「それは構わないが⋯⋯魔法を覚えている事に一番驚いた」


 『教わりました』


 誰に?


 ライムに食べたスライムの細胞を与えたいのだが⋯⋯このまま合体しても大丈夫なのかな?


 「お前はライムに吸収されたら消えるのか?」


 『⋯⋯分かりません』


 ライムが抵抗するように、そして自我の芽生えたスライムを守るように立ち塞がる。


 「他の分裂体は?」


 『数が増えるのはこの階層の生態系の崩壊、それらは吾輩が吸収しており、自我のあるスライムは吾輩だけです』


 「そうか」


 俺はライムに目を向ける。


 「ライムは、このままコイツとお別れは嫌なんだろ?」


 当たり前と言わんばかりに、身体を上下に揺らす。


 会話した奴が消えるのは俺も嫌だ。


 「食べた分の細胞をライムに渡す事は?」


 『当然可能です』


 ライムに食べたスライムの細胞を分け与える。かなりの量になるかと思ったが⋯⋯見た目に変化は無かった。


 『圧縮の能力を会得しているので、見た目は変わりませんぞ』


 「なるほど。これからもこの仕事を頼めるか? 辛い様なら、他の分裂体を用意するが?」


 『いえ。吾輩は己の使命を果たそうと思います。ですが、名前があると嬉しいんだぞ』


 そうだな。


 スライムを吸収するスライムだから⋯⋯キュラなんてどうだろうか?


 「キュラ⋯⋯なんてどうかな?」


 『ありがたき。これからも、本体⋯⋯いや、ライムと主様のために頑張らせていただきます』


 「寂しいと思うが、頼むぞ」


 キュラを撫でると、『定期的にコレがあれば、問題ないですぞ』と言ってくれた。


 まさかの出来事に未だに驚きは抱いているが、これは新たな可能性の火種でもある。


 キュラの持つ情報がライムへと渡したスライム細胞と共に流れ込んでいるはずだ。


 つまり⋯⋯。


 『ご主人とお話できる〜!』


 「やっぱりか⋯⋯これってどのくらいの距離まで行ける?」


 『基本は対面した時くらいの距離です。魔法の熟練度が足りませんぞ⋯⋯ですが、とある条件を満たすと距離は関係ないですぞ』


 距離関係無く【念話】を使えるレベルは高い。40層越えを探索する人達が使う。


 条件ありとは言えど、そのレベルに到達できるのか?


 「その、条件って?」


 『同じDNAを持つ事ですぞ』


 なるほど。


 ライムに【念話】を使って俺達をここまで誘導するように頼んだのだろう。


 元はライムだから、同じDNAなのは突然。その知識をどうやって得たのか気になるところだ。


 「ライム、今はどのくらい分裂できる?」


 確認すると、かなりの数できる事が分かった。


 「これは⋯⋯そうだな」


 この力を利用しない手はないだろう。


 「その魔法は⋯⋯」


 『電話の代わりになりますぞ』


 俺が言うよりも早く聞きたい答えをくれた。


 それが分かったのならやる事は決まりだな。


 だいたい三体分を圧縮したのを一つとして、鬼人キッズ、リーダー格に渡す。自我が芽生える前提なので名前も一緒に与える。


 名前はその人の名前とスライムを合わせた感じにして、ペアスライムと呼ぶ事にする。


 他メンバーはだいたい一体分。


 数が増えれば皆の圧縮したスライム数を増やせるだろう。


 「【念話】を利用して仲間同士で遠距離会話が可能になる」


 さらにスライム同士は自分達の場所が分かるらしい。


 ウルフ達の能力で物を運ぶのも問題ない。


 予想外の事だったが、これを有効に使わない手は無い。


 ついに踏み込む時が来たのだ。皆はしっかり強くなっている。


 イレギュラー遭遇を恐れていたが、ライム達がいれば⋯⋯。


 ユリ、ローズ、アイリスをリーダーに添えた三つの班を構成する。


 ユリにはウルフのリーダーを、ローズにはゾンビのリーダーを、アイリスにはコボルトのリーダーをそれぞれ任せて、他の数を平等にする。


 「サイクルは⋯⋯」


 「魅了班、討伐班、訓練班の三つに分けるべきです!」


 「魅了は⋯⋯いるのかユリよ?」


 「皆が成りたいところですよ。これは平等です」


 そ、ソダネ。




◆あとがき◆

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