第142話 ツキリちゃんアドバイス

 スピードの上がったナナミの攻撃を防ぐので限界である。


 反撃にどう転じるか。


 「ヒットアンドアウェイだねぇ」


 「間合いを詰めると君の方が有利だからね」


 一撃を加えたらすぐに距離を離される。


 ナナミに追いつくのはかなり難しいし、僅かな失敗が負けに直結するこの闘いに下手なマネはできない。


 高速の刺突での連撃、ナナミの脅威とも言えるその技は使って来ない。


 代わりにダッシュの勢いを乗せた鋭い突きが迫って来るのだ。


 回避しにくい身体の中心に。


 首などなら僅かにズレるだけで回避は可能だが、胴体となると全身を動かさなくてはならない。


 大きな行動を続けているナナミ、体力の大きな消耗を期待したくなる。


 これまでの闘いの中で疲れを全く感じさせない。それどころか加速している。


 まだ余力は残しているだろう。


 「怖いけど、やらないと何も変わらないか」


 こちらから攻めなければ一方的な攻防は終わりを迎えない。


 タイミングは相手が加速する予備動作をした直後⋯⋯ッ。


 「あっぶね」


 「残念」


 予備動作を見てから対応しようとした直後、意表を突く速度でナナミが正面に来たのだ。


 カンっと木の剣同士が強く衝突した。


 僅かに屈んでいたところを見るに、先程よりも速度を上げた攻撃だった。


 ギリキリで防御が間に合ったと言える。


 「キリヤ、さっき予備動作を見ようとしたでしょ」


 「どうして分かったのかな?」


 「直感。私も君を見てたから、なんとなく分かった」


 「そっか」


 目の動きかなんかでバレたか? そんなミスしてないと思ったが慢心か。


 ナナミの攻撃に合わせようにもスピードが足りない。


 このままじゃ押し切られるな。


 「キリヤ、ちょっと待って」


 「え?」


 ナナミが突然外野の方へと歩いて行き、部長に色々と話している。


 木の剣二本と木刀、合計三本を持って俺の方にやって来る。


 「はい。本気の君と闘いたいから」


 「え、いやでもまだ⋯⋯」


 わざわざ二本持って来る必要は無い。


 「私も君も酷使しすぎた。ボロボロ」


 ナナミは自分の木の剣と俺の使っている剣を合わせて、力を込めると折れる。


 「ね?」


 「分かった。ありがとう」


 折れた木の剣を返して、ナナミから二本の剣を受け取る。


 もしも空中戦ならば、先生から教わった技が使えるだろう。


 「でもなんで二刀流が本気だと思ったんだ?」


 「それも直感、って言いたいけど違う。剣を持たない手を使うのに不慣れそうだったから。コレで正真正銘の全力のバトルだ」


 「それでナナミは刀?」


 「私の流派は古くてね。元が刀だったんだよ。だからこっちの方が使いやすい」


 なるほどな。


 仕切り直して、再びナナミが距離を詰めて来る。


 速いのはもはや言うまでもないだろう。


 「二刀流にさせた事後悔しなよ!」


 「全力で闘える、それだけで後悔は無い!」


 今回も突きである。


 左の剣で防ぎつつ右の剣で反撃、同時にそれを行う。


 「シッ」


 息をか細く素早く吐き出し、反撃の刃を回避される。


 刀の刃が俺の方へと切り替わり、振り上がる。


 「おっと」


 攻撃の切り返しも速くなってる。


 片手で勢いもあまり乗ってないが脅威なのは間違いないので、ワンステップで回避する。


 ようやくナナミのバランスを崩す事に成功した。


 このまま畳み掛け俺の有利な状況を作り出す。


 「狙いは分かるよ」


 今度はナナミが踏み込んで来ず、俺を迎え撃つ体勢へと入った。


 二本の剣で繰り出す斬撃の雨を一本の刀で捌かれる。


 剣速はナナミの方が僅かに速く、切り返しが異様に速い。


 しかも力を受けるだけではなく逸らす事も同時にしている。


 足捌きと重心操作など、全身を使って俺の攻撃を捌いていると分かった。


 相手の上半身、特に最初に動く瞳や肩だけに集中するのは良くない。


 それを示すかのように、ジリジリと詰めていた距離から蹴りが飛ぶ。


 細めの木ならばへし折る事も可能だろう鋭く強烈なキック。


 「対応するか」


 「警戒してたからね」


 ギリギリで回避し、距離を離す。


 予備動作を見てから対応、なんて悠長な事はできないってのは理解した。


 だから、距離を取った瞬間に仕掛ける。


 「飛んどけ!」


 俺は右の剣を垂直に投擲した。


 「武器を放すのか」


 投擲を避ける事はしないよな。


 避ける動作をしたら俺の追撃を迎え撃つための理想の体勢を崩さなくてはならない。


 そのため、俺の投擲した剣は上へ弾かれ刃の向きはすぐに切り替わる。


 同時に俺の間合いへとナナミは入る。


 「オラッ!」


 多少の痛みは覚悟しつつ、振るう剣と刀が強く衝突する。


 握りを弱くした左手から剣が吹き飛ぶ。


 「ムッ」


 「全力で闘いたいんだろ?」


 コンマ一秒も無駄にできない。


 弾かれるタイミングよりも少し速く右手を伸ばしていた。


 ナナミがどう動いて俺の攻撃を迎え撃つのか、それを予測しての行動。


 予測はドンピシャで当たり、ナナミの腕を掴んだ。


 「しまっ」


 「せいや!」


 投げ技で地面にナナミを叩き落とそうとする。


 ナナミは動く視界の中でも冷静に思考をした。


 俺の掴んだ腕は刀を待っている手。


 ナナミは刀を手放して腕を掴み、投げられる中で力を込める。


 脱出準備はそれだけで十分なのか、空中に投げられている時に旋回する。


 「クソっ」


 「びっくりした」


 俺の背を蹴って地面に着地と同時に踏み込み、捨てた刀を掴む。


 体勢は悪いが武器を待たぬ俺への有効打点を当てるチャンス。


 ナナミは迷いなく切り出す。


 ⋯⋯それも含めて予測済みだ。


 ナナミが簡単に負けるなんてのはこちとら一度も考えた事は無い。


 ナナミが刀を掴むタイミング、俺も落下した剣を掴んでいる。


 振り上げる刃の軌道に先回りして剣を間に挟む。


 「くっ」


 「体勢が悪いぜ」


 踏ん張りも効かない状態。近いのでキックやパンチなんて方法は俺も取れないけど。


 しかし、剣ならば問題ない。


 「オラッ!」


 剣に全ての力を乗せてナナミを飛ばす。


 「ふうっ」


 「おいおいまじかよ」


 あの状態で吹き飛ばされる力を利用して高くジャンプし、綺麗に着地しやがったよ。


 ほんと、どんな人体構造してたらあんな動きができるんだよ。


 先人達が磨き上げた技術の高めている結果だろうか。


 俺の基本だけの剣とは違う。


 おかげで色々な応用は使えるけど、それじゃナナミには届かない。


 ナナミは強い。⋯⋯だからこそ倒したい。


 「スゥゥ」


 中腰になり突きの構えを取る。切っ先で捉えるのは俺のどの部分だろうか。彼女の瞳からは予測できない。


 『同じ身体の同居人ツキリちゃんからのアドバイス。⋯⋯なんで君が固定概念に囚われているのかなぁ? 無理とか不可能とか、クソ喰らえよ』


 ⋯⋯先生から教わった技は空中戦での基本の技。


 翼がなければ飛べなければ扱えない剣技。


 二刀流用の技でもある。もう片方の剣も回収している。


 「剣はある」


 あと必要なのは何か。


 固定概念、無理、不可能。


 「スっ!」


 ナナミが加速して迫って来る。


 「探索者は未知を開拓する者だ」


 俺はジャンプして、回転した。


 「なっ」


 一撃目でナナミの突きを弱め、二撃目で弾く。


 さすがのナナミも深追いはできないのかワンステップで距離を離す。


 「やれる。やってやる。翼が無いからなんだ。飛んで無いからなんだ。そんなんで諦めたら探索者名乗れねぇよな!」


 「⋯⋯フフ、楽しいねぇキリヤ!」


 ここ一番の楽しそうでありながらも狂気じみた笑みを浮かべ、目を大きく開けるナナミ。


 俺は遠回りするようにナナミに接近し、高く跳ぶ。


 翼が無いからジャンプタイミングに合わせて身体を捻っておく必要がある。


 問題ない。


 応用は得意なんだよ。


 二本を並行になるように構え回転を乗せて切り出す。


 獲物を狙う鳥の爪のように。


 首と胴体を狙った同時攻撃。


 真剣ならば相手の肉を深く抉る剣をナナミは刀を縦にして防ぐ。


 「ぐっ」


 しかし、落下と回転の勢いを乗せた二重の攻撃は重く吹き飛ぶ。


 踏ん張っていたようだが、受け止めれないと判断した瞬間に足を離したらしい。


 力を僅かにだが流されていたし、ずば抜けた反射神経である。


 「やはり、良い。キリヤ、君は私に色々な発見をくれる」


 「ありがとう」


 「努力と鍛錬を重ねて磨いた剣、私は君の剣が好きだ。だからこそ打ち破る」


 「世代を超え継がれた技を高める剣、俺も君の剣が好きだ。だから攻略してみせる」


 ナナミが突きの構えを取る。連撃の構えだ。


 「行くよ」


 「来い」




◆あとがき◆

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