第54話 魔法は無限の可能性を秘めている
「ご主人様!」
目が覚めると、心配した様子のユリが顔を覗かせた。
ライムの身体が俺を支えてくれたのか、痛みは無かった。
「ありがとうライム、それにユリや皆も」
ゾンビの魔石が四個増えているので、倒していたのだろう。
視聴者にも不安を与えてしまったので、安心させるために笑顔を見せる。
「何が、あったのですか?」
「魔法に覚醒した⋯⋯のかな?」
“こんな急に?”
“ふむふむ”
“確認させてよ”
“無事で何より”
頭の中に現れる魔法の使い方と種類⋯⋯チャンネル登録者数が増えると魔法の数も増えるのだろう。
そう分かるのだ。
今は九万人、それが信者として俺の力となる。
ズルい気がしなくもないが、ムーンレイさんがやってくれた事だ。
「使える魔法を全部試してから、終わりたいと思います」
この空間で試す事にした。
「【
「眩しいぜ姫様!」
この魔法は激しい光を込めた魔力の分だけ持続させて出す事ができる。
それだけである。
“使い方は目くらましと明かりかな?”
“シンプルな光魔法やな。初級か?”
“待てよ⋯⋯これはサキュ兄ならではの使い方ができるのでは?”
“はっ! この光を纏うだけで、服を着ていようともエロく見えるのでは?”
“上のコメントが適応される場合、サキュ兄が恥ずかしと思うのはセリフだけでは?”
“隠すか?”
“否! 俺達の叡智を持ってしたらこの魔法も無限の可能性を出せるぞ”
“少しだけ肌を露出させて光を少し出す⋯⋯それだけでも十分エロいっ!”
おかしい。
最初は突然魔法を覚えた事による考察や疑問のコメントばかりだったのに⋯⋯いつの間にか今後の魅了に使う事を考えてやがる。
「ごほん。次行きます!」
こうなったら俺が突き進めてこのコメント達を終わらせるしかない!
「【
光の弾丸を一発、高速で真っ直ぐに飛ばす魔法だ。
遠距離攻撃の魔法が使えるのは素直に嬉しい。これだけに絞って考えると、一日に30回は使えるな。
そのくらいの魔力はこの肉体に宿っていると直感で分かる。自然回復の量も考えると、回数はさらに増えるだろう。
真っ直ぐ飛ばすだけなので、これは視聴者でも悪用案は出ないだろう。
“それって指先からじゃないと出せない?”
「いえ。自分の手の届く範囲ならどこでも出せる感じですね」
例えば首後ろから真後ろに出す事ができる。
魔法を出せる範囲は手が届く範囲、射程はおおよそ十メートル。
“早業に使えるな”
“ズボンの所をチラッと見せるがそこで月光弾を使って見えないようにする⋯⋯アニメの規制のように!”
“光とサキュ兄の相性は抜群だね!”
“サキュ兄の運動神経なら色々と可能だし、ハートを撃ち抜く演出もできそうだ”
ダメだこいつら。なんでもやれそうだ。
「いーや。まだだ。俺にはまだ違う魔法がある!」
「頑張ってください主人!」
「応援ありがとうローズ!」
チャンネル登録者数五千人で手に入るレベルの魔法。俺は剣を抜いた。
「【
これは剣に月光を纏わせて、火力を上げる魔法だ。
魔法を顕現する魔力と維持する魔力の二つを要求される。維持する魔力はだいぶ少ないけど継続して消費される。
振りながら魔力を切り離すと、斬撃として放つ中距離攻撃が可能だ。試すと、射程は五メートルくらい。
“これはセリフ遊びに使えるな”
“アナタの輝きある棒はこれよりも太いか⋯⋯へへ”
“デュフフ”
“光る剣ってだけでアウトよなぁ”
直接的な言葉はダメなために出てこない。おかげでユリ達には言葉の意味が通じて無かった。
「次だ!」
チャンネル登録者数一万人で手に入る魔法で彼女の名前でもある魔法。
「【
直線的の光線を放つ魔法。その射程は二十メートルで火力も攻撃範囲も【月光弾】を超える。
光線は円柱型で、直径は一メートル。
その分魔力消費もえぐく、回復を考えずにこれしか使わないとなると、十回が限界だ。
“ふむ。これは威力が大きいな”
“射程を狭める事はできるのか?”
“魔法構築範囲は月光弾と同じ?”
“あ、これは逆光だ”
魔法を権限させる場所は【月光弾】と同じで手の届く範囲であり、射程は変えられない。
てか、なんか不穏な予感がするんだけど。
“逆光⋯⋯つまりはシルエットか”
“確かに。この魔法を背後で使えばサキュ兄は影に染まる”
“シルエットつまり、服の見た目が見えない”
“無限の可能性を広める訳か。『魅了』で考えるなら難しいかもだが、俺らの妄想には使えそうだな”
“暗くなったわがままボディに誘われたら誰でも行くだろ?”
“はっ! つまりその一瞬でベッド・インの展開まで可能と言う事か”
“後ろに光がある事で正面は暗がりに染まる。暗い空間と妖艶なサキュバス、ヤル事は一つだ”
“ふっ、最高な魔法だな”
「もうヤダこの人達!」
顔を染めて両手で覆い、項垂れる。
こんな時、誰かが傍で慰めてくれたらなぁ。チラッ。
「あの、それってどう言う意味なんですか?」
「意味を聞こうとするなユリいいいい!」
味方はいない。はっきり分かったね。
スマホを取り上げ、最後の魔法を試そうと思う。
チャンネル登録者数五万人レベルの魔法だ。
「【
俺の使える魔法では最大火力の魔法。
【月光線】を同時に五から十個を展開し放てる魔法である。サイズは最小直径四十センチ、最大は一メートル。
数の分消費魔力は増える。その総量から二割減る。つまりは、【月光線】を五回使うよりもお得に使えるって訳だ。
射程は変わらずの光線だが大きな違いがある。
それは⋯⋯屈折だ。
「曲がった!」
アイリスが驚くのも無理は無い。
展開量も屈折技能も後は俺の訓練次第で変わるだろう。
今は五個を出して一つを曲げる事しかできない。
技能の向上で性能が上がるのは、どの魔法にも言える事か。
“ふむ。胸と尻を同時に隠せる訳だな”
“曲がるってのもポイントか”
“他にも脇が行けるな”
“あー魅了観てぇ”
「いっそここまで来ると感心するよ」
「むー。私もこれ程までの発想力が欲しいです」
「ユリ、絶対にやめなさい。やめてくれ」
「えー」
頭をポンポンすると、ムスッとするユリ。お願いだから、視聴者に染まらないで。
ローズ、君がユリの暴走を止める⋯⋯むしろ増長させそうだな。何も考えなかった事にしよう。
さて、最後に近くに来ているらしい一体のゾンビに魔法をぶつけてから帰るか。
「【
俺の指先から放たれた月光の弾丸は見事にゾンビに飛来し、その肩をカスる事無く上を通過して天井に命中した。
十メートル以内には入っているため、既に相手にも気づかれている。
“使うには練習が必要だね”
“これじゃ思うがままに使えないや”
“頑張れサキュ兄。新たな可能性のために”
“応援してるよ”
「⋯⋯これなら当たるべ!」
俺は使わないだろうと予想していた魔法を使って、剣を強化してゾンビを斬り倒した。
「それじゃ帰りますっ! ご視聴ありがとうこざいました! チャンネル登録お願いしますっ! サキュ乙でした!」
“あ、実はその単語気に入っているな”
そこから先、冷静になった視聴者達は盛り上がりを見せて、魔族では目覚めないとされていた『光魔法』をサキュ兄が使ったと話題になる。
さらに『サキュ兄お疲れ様』の略語で『サキュ乙』が本人が気に入っていると言うのもあり、視聴者の間で流行った。
視聴者のファンの名称として『魅了されたガチ
ムーンレイに呼ばれ、十年後の未来を教えてもらい、もっと強くなれる力を貰えたこの日。
月の魔王が作り出した光魔法の亜種【月魔法】はこれから先も役に立つ。
ありがたい事に、今回のライブは気絶と言う驚きこそあったものの、成果が大きいがために拡散されるのが早かった。
よって、初めて配信してTSをさらけ出した以降のトレンド入りを果たすのだった。
その事は当然、ダンジョンから帰る俺は知らない。
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます
★、♡とても励みになります。ありがとうございます
投稿遅れてしまい、申し訳ございません
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