第158話 長尾政景現れる

 景虎と好花は、静かに静まりかえっている中、祈祷をしていた。


虫の音だけが、境内の外から響き渡り、趣を感じさせる。


祈祷が終わり、休憩していると、1人の男の姿が見えた。


長尾政景だった。


「え!? 政景さん!?


なんでここに!?」


好花は、目を丸くして政景に言った。


「春日山城から高野山までの道のりを馬で駆けていたんよ。


んで、通りがかる人に、2人組の見たことない人通りませんでしたか?


って聞きまくって。


そしたら、見たって人がいたから来てみたっていう流れです」


「それは苦労かけたな」


景虎は、政景にそう声をかけた。


「景虎さん!


逃げたい気持ちもよく分かります。


あんないざこざあったら、誰だって嫌になりますよね。


景虎さん、最強に強いし頼りになるから、みんなが頼ってきちゃうけど、景虎さんが受けるストレスは計り知れないですよね。


上に立つ者だからこそ感じるストレスって、本当に辛いですよね。


やっぱり、1番の問題は、上野VS下平の争いですか?」


「そうだな。あいつらのいるところって、気候の変化で土地の境目が変わっちゃうんよな。


雨が降りすぎると、千曲川が氾濫して、田んぼや畑が埋まったり、家が流されたりするしな。


で、その氾濫のせいで俺の土地の境目はあそこまであった!とか、いやいやそこは俺の土地だ!とか。


氾濫がよくあるから、その度に争って、んでもって、毎日のように俺のところに言いつけにくるんよな。


そろそろ、自分たちで解決しろよ!って、イライラしちゃってな」


好花はこう思った。


あー、小学生が先生のところに言いにくるやつみたいだと。


先生ー。〇〇さんに△△されましたー。

僕だって、□□さんに◎◎されましたー。


っていう流れを毎日毎日されたら、


自分たちで解決しろよ!


って思っちゃうな。


と好花は思っていた。


「たしかにそれはイラつきますな。


実乃さんは反省しているようで、早急に解決しようとしているので、


その問題に関しては、実乃さんがどうにかしてくれると思います」


「実乃さんがなんとかしてくれるのか。


まぁ、それはそれでよかった。


でもな、政景さんに謝らなければいけないことがある」


「なんですか?」


「実は、出家しようとは思ってないんだ」


「え???」


「実はな、目的が二つあるんだ。


一つ目は、家臣たちがまとまってほしいからだ。


さっきも言ったけど、最近、仲が悪いところがある。


そうであっては、武田との争いに勝てん。


だから、出家騒動と偽ることによって、家臣たちの団結を仰ぎ、


団結しますから、景虎さん戻ってきてください!


と家臣たちの口から聞きたかったからだ。


二つ目は、好花のことだ。


高野山から、好花と同じように未来から来たらしき人物が現れたという連絡があった。


その人物に会いたいから高野山に向かうということだ」



「は、はぁ。


俺たちは見事に騙されたというわけですね」


「ごめんごめん。


家臣たちのいざこざなんて、大したことない。


たしかに、イライラはするが、出家して越後を捨てるほどではない。


だから、政景さん、俺たちは高野山へ行く。


家臣たちには今のことは黙っておいてほしいが、団結をするよう、計らってくれないか?」


「ったく。しょうがないですね。景虎さんは。


分かりましたよ。そのお願い、承ります」


「ありがとう」

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