第87話 染織物

 景虎と好花は、三好の屋敷を後にし、本庄たちが待っているところへと向かった。


「最後、ちょっとぴりついちゃったね。


よく三好長慶相手に堂々といられるよね。


すごすぎる」


「斬りつけられなくて良かったな」


「え、斬りつけられてたかもしれないってこと?」


「そーだよ。


三好の胸元が少し膨れていた。


あれは、短剣が入っていたのだろう。


ま、襲われても俺が斬りつけていたが」



「余裕かよ。


うちは少し怖かったよ」


「ごめんな。


怖い思いさせて」



「大丈夫」



「少し、堺の市場見ていくか」


「うん!」


 市場には、染織物が並んでいた。


建物の壁沿いには、染めた織物が干されている。


「その染織物きれい」


「ほんとだな。


ここは、染織物職人がいるんだな」




「あそこの店、他の店よりもかなりでかくね?」


「たしかに。絹布が店頭に並んでいるから呉服屋か。


儲かってるんだな。


裕福な呉服屋と思われる1軒の建物は、瓦で屋根を覆っている、瓦葺き(かわらぶき)だった。



それ以外の店は板葺きなのに。




「金持ちは瓦葺き。ということか」


好花はぼそっと言った。



「この染織物きれい。


うち、こういうの好き」


好花が指をさしていた染織物は、淡い青を基調として、藤の花が生き生きと描かれている。


蝶々のような形の花びら。その薄い紫色の花が大きな房になって、見事に咲き誇っている。


高貴で色っぽい、美しい染織物に仕上がっていた。

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