第131話 刀八毘沙門、紺地日の丸

 天文24年7月19日


 長尾景虎たちは、犀川に沿って並んでいた。


静かな朝だ。犀川は清らかに流れ、日光が反射してキラキラしている。


景虎は、馬に乗っていた。


その隣には、『刀八毘沙門』(とばつびしゃもん)と書かれた長尾軍のシンボルの軍旗が掲げられている。


全長5メートル以上にもなる大きな軍旗である。


その横には、黒い生地で、真ん中に大きな赤い丸が描かれている『紺地日の丸』(こんじひのまる)という軍旗も掲げられている。


好花は、『紺地日の丸』を見て、


「いやー、戦で掲げられているのを見ると、興奮が止まらないね」


と言うと、


「後奈良天皇より、下賜(かし)された、 天賜の御旗(てんしのみはた)だからな」


と、景虎は自信ありげに話す。


「なんで、『刀八毘沙門』の旗を掲げてるんだっけ?」


「俺らが、天皇に仕える軍だからだ」


「ん? どゆこと?」


「古の京のみやこの御所の入り口、羅生門ってとこがあってな、そこに祀られている毘沙門天を兜ばつ毘沙門(とばつびしゃもん)って言ったんよ。


後に、この毘沙門天は、『兜ばつ』が『刀八』に変化し、一般に信仰されるようになったんだな。


で、古来より、天皇の命を受けた朝廷軍は、毘沙門天像を奉戴(ほうたい)して、行軍するという慣例があるんやな。


だから、朝廷軍だそ! 正式に天皇から任されてんだぞ! おまえたちは、朝廷に敵対する賊軍だぞ! っていうことをアピールするために、この旗は必要なんだ」



「なるほどね〜」



好花は、川中島の戦いをこれから体感できることにかなり興奮しているようだった。


景虎は、まっすぐ犀川の向こうを見ている。


その目線の先には、武田信玄がいた。


お互い、睨み合うこと数ヶ月。


ついに、戦いの火蓋がきられようとしていた。

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