第132話 言争

 景虎のすぐ横には、甲冑を着ている好花が馬に乗っている。


好花は、ショートだし、頭巾をかぶっているから、近くまでいかないと女ということは分からない。


近くまでいっても、小柄な美少年として見られて終わりかもしれない。


その2人の両端には、


冷静な判断ができる軍師『宇佐美定満』、


でかい体と体力自慢の『鬼小島弥太郎』、


優しさと親しみやすさが持ち前の『本庄実乃』


ムラムラと燃え上がる熱い情熱を持つ『柿崎景家』


冷徹だが、頭脳明細、刀を自由自在に操る景虎の片腕『齋藤朝信』



という、長尾家重臣が並んでいる。


その姿は、堂々としていて、目を見張るほどの輝かしいオーラがある。




その7人の周りには、5000人を超える兵士たちが立っている。


諸将は、隊旗である『毘』の旗を持って立っているが、その数はおびただしい。


一目で、長尾軍とわかる。





犀川を挟んで長尾軍と反対側には、もちろん、武田軍がいた。


武田信玄を総大将に長尾軍に負けじと兵の数はかなり多い。





景虎が息を吸った。


「武田信玄!


我らは、朝廷の意を承って、この川中島へきた!


北信濃の人々を苦しめるのはもうやめよ!


朝廷は、北信濃を侵略すべきではないと仰せられている!


早くここから立ちされい!」


景虎は、武田信玄にも聞こえるでかい声で言った。


辺りは静かなので、景虎の声が響き、少しこだましている。




「あぁ!?


朝廷、朝廷、うるせぇな!


朝廷がなんだ!?


いまは、下剋上の時代!


そんなの関係ねぇ!


ってか、おまえ、朝廷の意とか言ってるけど、それを良いように利用してるだけだろ!?」



武田信玄も、負けじと、でかい声をはっている。


「俺は、北信濃の人々を守るためにきたのだ!


侵略しているわけではない!」


「はいはい。


偽善者ぶってんじゃねぇよ!


人助けなんてな、くだらねぇんだよ!」



景虎、信玄により、言争(ことばたたかい)が行われた。


自軍の正当性を主張し合う、士気にかかわる大事な儀式である。

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