越後の龍上杉謙信と戦国時代をこよなく愛する女の物語

第161話 大熊朝秀の思い

ここは、越中の大熊朝秀の陣地。

「越中まで追ってきますかね？

長尾勢」

「んー。恐らく追ってくるだろうな。

そうなったら、戦うつもりだ。

なんせ、長年の恨みを晴らさなきゃいけんからな」

「そうですね。

朝秀様の父上の仇、必ず討ち取りましょう！」

第一次川中島の戦いが勃発したとき、大熊朝秀の父親である大熊政秀はこの戦いで戦死していたのだった。

「川中島の戦いってさ、俺らにとったら本当に意味ないよな。

こっちは、勝ってもなにも知行もらえねぇ。

なのに、被害だけは出るんだ。

戦ってのは、勝って、知行もらえるのが普通だよな？」

朝秀は、家臣たちに同意を求め、家臣たちもうなづく。

景虎は、義の武将であり、他の武将から助けを求められたらその求めに応じて戦を行う。

基本的に戦国時代の戦というのは、武功に応じて新たな知行を獲得できる。

知行を獲得ということは、新しい土地が獲得できるということですね。

しかし、景虎の戦い方は、求めてきた豪族の旧領を回復させるための戦。

要するに動員された家中の武将には新たな知行を与えられないのである。

「まじで、ただ働きだよな。川中島の戦いは。

しかもさ、俺と本庄実乃は敵対してるやん？

で、景虎は、実乃さんと仲良しだからさ、

なんか嫌な感じだよな？

結局、俺は、景虎様の1番にはなれねぇってことだな」

「朝秀様は、景虎様のこと、尊敬してましたもんね」

「あたりまえよ。

でも、向こうは俺のことなんとも思っちゃいねぇ」

「あれ？　嫉妬ってやつですか？」

「うるせぇ」

筆者の戯言

景虎と朝秀と実乃の関係。

大好きな相手には、自分のことを1番好きって言ってもらいたいですよね。

そんな感情が、朝秀さんにもあったのかもしれません。

父がなくなった悲しみ、自分を実乃よりもそばにおいてくれないもどかしさ。

そんな、複雑な感情が入り混じっていたのかもですね。