第117話 二人の夜

 春日山城に戻ったその日の夜のこと。


「景虎っ、久々に2人で夜を過ごすね」


「たしかにな。


長旅お疲れ様」


「そっちこそ、お疲れ様。


天皇に謁見したり、将軍に会ったりして気遣いもしたよね?


それを平然とこなしちゃうんだから、ほんと凄い」


「いやー、さすがに天皇に謁見した時は、緊張したな。


でも、1番緊張したのは、奇襲された時。


好花が殺されると思ったから。


俺の不甲斐なさを感じた。


怖い思いさせてごめんな」



「ううん。


大丈夫だよ。ちょっと怖かったけどね」


「ちょっとじゃないだろ。泣いてたくせに」


景虎がニヤッとして、好花をいたずらの少年のような目で見る


「んもうっ、景虎ってば! いじわるだなぁ」


好花がいじけて、景虎に背を向けて体育座りをする。


それを見た景虎は、そんな好花に後ろから抱きしめた。


そして、好花の耳元で


「ごめんね、好花」


と、ささやいた。


「うん。いいよ」


好花がそういうと、


華奢な骨格を確かめるように、景虎は好花の身体を強く抱きしめる。


柔らかなショートヘアに顔を埋めるようにして、好花の甘い香りを嗅いだ。



甘い香りを感じながら、景虎は、着物の胸元に手を伸ばす。



「んっ……。景虎……、だめっ」


「え? だめなの?」


「久々だから、そ、その、恥ずかしい」 


「そっか、じゃあ、やめる?」


景虎の手が止まり、好花を見つめる。


「か、景虎のいじわるっ」 



「ほんと、かわいいな、好花は。


なんで、こんなにかわいいの?


目もさ、綺麗な目だし、


もうね、俺のタイプの中のタイプなんだわ」


「えー、そんなに褒められると照れちゃう」


好花は、ちらりと景虎を見ると、気恥ずかしそうに笑った。

 

好花は、景虎の方を向き、2人は向かい合った。



好花の大きくて、透き通るくらい綺麗な目が熱っぽく景虎を見つめる。


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