第139話 帰郷

 2列で行儀良く並んで歩いている長尾勢の軍勢が200日ぶりに越後の地を踏んだ。


越後の人々は、長尾勢を出迎えようと集まっていた。


「ただいま帰ったぞ!」


景虎がそう言い放つと「おかえりなさい!」とあちらこちらから喜びの声が聞こえてきた。


旦那の帰りを待っていた女は、旦那を見るたび抱きつきにきたり、


父親の帰りを待っていた子どもは、笑顔いっぱいにして、父親に飛びついていたり


と歓喜の声が溢れかえっていた。


そして、景虎ファンの人たちも景虎の周りに集まった。


「景虎様っ!


おかえりなさい!


待ってました!」


「私たち、景虎様がいないから、寂しかったんですよ。


けど、その寂しさをバネにして、稲作、農作頑張りました!」


女たちは口々に言うと景虎もそれに答えた。


「俺らの留守を守ってくれてありがとうな!


お主らの頑張りのおかげで、越後も廃らずに生きることができた!


感謝する!」



「きゃーっ!


景虎様から褒められた」


1人の女は嬉しさのあまりその場でふらふらっとし、倒れそうになったところを他の女が抱えた。



「皆に褒美として何か渡したいが、何がいいかな?」


「褒美なんてとんでもないです!


でも、強いて言うなら……


女たちは恥ずかしそうに、もじもじしている。



「なんだ?」


「あの……私たち……握手してほしいですっ!」


景虎は、ぽかーんと口を開けている。


「え!? 握手? 俺の握手がほしいの?


俺のでいいなら、いいけど??」


「いいんですか!?」


「おぅ」


こうして、道端で突然、『景虎様と握手会』が開催され、長蛇の列となった。



その光景を見て、好花は苦笑いをするしかなかった。



景虎は戦の疲れもあるだろうが、希望者全員の握手を最後までやり終えた。

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