第166話 謎の人物

「私がいると話しづらいこともあるでしょうから、私はこれは失礼します」


京成は、部屋から出て行き、謎の人間と景虎と好花の3人になった。


「立ち話もなんですから、お座りになってください」


「あ、そうですね。


では、失礼します」


謎の人間の前に、景虎と好花は座った。



「あなたが景虎様ですか?」


「はい。よく俺の名前をご存知で」


「旦那からよく聞いていますから」


「俺のことを?」


「はい。旦那は、こう言ってましたよ。


景虎様は、戦の神だって。軍神とか言ってました」


「はぁ。ということは、貴方は女性なんですね。


高野山には、女性は入ってはいけないはずですが。


なぜ、貴方はここに?」


「もちろん、そのことは承知しています。


ですから、このように、男に変装しているわけです。


私はあることが理由で高野山にきました。


女人堂で、お参りをしていたんですが、いろいろあって、京成さんと親しくなって、それで、景虎様の隣にいる好花さんのことを聞いたんです」


「あなたは、未来から来たんですか?」


「んー。未来からきた未来人というわけではありません。


端的に言うと、生まれは今の戦国時代。


で、ある怪我をして目が覚めたら未来に行ってた。


で、また目が覚めたら、この戦国の世に戻ってきたというわけです」


「なるほど。


あなたは、タイムスリップして、帰ってきたんですね」


「そうそう」


「貴方には聞きたいことがたくさんある。


貴方は、何者なんです?


旦那って誰なんだ?」



「何者だなんて。


ただの大したことない人間です。


旦那は……。


ここで話したことは誰にも話さないって約束できますか?」


「もちろんだ。


な? 好花」


「は、はい! もちろんです」


「景虎様の言うことなら、嘘はないでしょうね。


私の旦那は……」


景虎と好花は、息を飲んだ。


部屋がしーんと静まり、息をするのが苦しくなる。


謎の女は、2人を真っ直ぐに見つめている。


その目は、ぱっちり開いていて、きれいな瞳は、思わず見とれてしまうほど。


その瞳は、2人を釘付けにした。


端正で整った顔。かわいさはもちろんのこと、どこか儚げで、守りたくなるような。


それと同時に、その人が放つオーラは、独特な雰囲気を持っていた。


ただのお姫様じゃない、見かけによらず、いろんな苦労を乗り越えてきたような。


闇が少し垣間見えるような。


その女は、静かに口を開いた。






「私の旦那は、武田信玄です」


「えええ!!!???」


景虎と好花は、思わずでかい声を上げた。


驚きのあまり、目は見開いて、口は開いたまま、塞がっていない。


謎の女は、にこっと微笑んだ。

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