第167話 女の正体

なんとも言えない威厳のような、尊いオーラは、戦国武将の妻だからこそ、出せていたものらしい。


もちろん、本人は出そうと思って出しているわけではない。


隠そうと思っても、オーラというものは出てしまうものである。



「武田信玄って……あの甲斐の国の!?


川中島の戦いをしていた!?


あの有名な武田信玄様ですか!?」


好花は、思わず、身を乗り出し、女に迫る。


「そうです。


まぁ、一応旦那です」


「一応って……。


なんで、信玄の奥さんがここにいるんですか!?」


「まぁね、いろいろあってね。


信玄の1番の女ではないんですよ私は。


2番目なんです」


「正室ではなく、側室だと?」


「そういうことです」


女は、舌をぺろっと出して、いたずらな目で2人を見た。


「話しにくい話もありますので、もしよろしければ、お酒でも飲んで話しません?


甲斐のお酒です」


女の片手にはいつのまにか、酒の入った盃があった。



「是非」


酒好きの景虎は、目を輝かせている。


「ったく。景虎は。お酒に目がないんだから」


好花は、深いため息をついて、苦笑いをした。



「やったぁ。


お酒を飲む相手がいなくて、寂しいなぁって思っていたんです」


女も嬉しそうにしている。


「あのぉ、お酒を飲む前に一つ聞いていいですか?」


「どうぞ。好花さん」


「側室ってことは、もしかして、あなたは……諏訪姫ですか?」


「わぉ。すごい。正解です!


良く分かりましたね!


さすが、未来人!」


「やっぱり。


だって、こんなに美人で可愛い方、生で初めて見ましたもん」


「あら。未来では、そんなふうに思われているの?


嬉しいこと言ってくれますね」


「こんなに美しかったら、後世にも残りますよ噂は」


目を見張るほどに美しい、その女性は、


甲斐の国の武将、武田信玄の側室であり、絶世の美女と言われていた、諏訪姫であった。





筆者の戯言


諏訪姫は、実名が不詳なんです。


戦国の世では、男の実名は、史料に出ていても女の実名は、なかなか出てこない。


ちなみに、史料上においては諏訪御料人(御寮人)・諏訪御前(いずれも貴人の女性を指す尊敬語)と記されています。


『甲陽軍鑑』では、


諏訪御料人を「かくれなきびじん」と記しています。


甲陽軍鑑では、諏訪姫の容貌を讃えているんですね。


よっぽどの美女だったに違いない!


と思ってしまいます。




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