第207話 戦の終わり

「信玄もこの戦、あまり前に出る気がないのかもしれませんな」


宇佐美定満がそういうのも無理はない。


この戦、主力の衝突が全然ないのである。


前線部隊の局地的な小競り合い程度で、おさまっていた。


「景虎様っ!


武田の軍勢がひいていきますぞ!」


実乃が声を上げると、皆が一斉に武田の陣を見た。


軍勢が長尾軍に背を向けて、ゾロゾロ帰っていくのである。


「景虎様、追いますか?」


「いや。無駄な死は避けるべきだ。


やめておこう。


信濃の民をこれで守れたことだし、


よし、俺らも帰るぞ」


そう言って、景虎たちも軍をひいたのだった。


双方に甚大な被害はなかった戦となった。





越後へ帰る途中、好花は景虎に耳打ちした。


「ねーね。


今回の戦さ、信玄さんもともと戦う気なかったんじゃないかな?」


「どういうことだ?」


「だからさ、


愛だよ」


「へ?」


「諏訪姫に会いたかったから川中島仕掛けたんじゃない?


ほら、川中島の戦いがないと、正妻じゃない諏訪姫さんに会いに行けないじゃん」


「あ、たしかに」


二人は、お互いに目を見つめて、ニヤッとした。


信玄と諏訪姫の仲良くしている様子が目に浮かぶ。

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