第39話 長尾晴景 病の床

「景虎様。お話があります」


宇佐美が深刻そうな顔をしている。



「晴景様が……」


景虎の兄、晴景が病の床についているという。


医者の話ではもう長くは持たないらしい。


「こんなときに憲政さんがくるなんて。


好花。とりあえず、兄さんのところに行こう」


お忍びで行くので、二人は変装していく。


宇佐美もお供する。







晴景宅にて。


「兄さん! 大丈夫か!?」


「晴景様。春日山城の人たちがきてくれましたよ」



「おぉ、景虎、好花ちゃん。


きてくれたんだね、




ありがとう。ゴホゴホ」

 

そう言いながらも、晴景は咳をする。


かなり辛そうな咳だ。




「もっと遊びたかったなぁ」


「晴景様! 何を言っているんですかこんな時に」


「もっと鼓を打ちたかったなぁ」


「じゃあ、棺の中に鼓入れておきますから!」


「ちょい! なんてことを言ってるんだ!」


みんなは、晴景とそのお世話係のやりとりを聞いて、笑っていた。



しかし、


そんな楽しく過ごすのもつかの間。



どんどん、晴景は、喋らなくなっていき、目を閉じ始めた。





医者が「脈が弱くなってきました」という。



「兄上! 俺はもっと兄上と話したかったよ。


歌や鼓の話、聞きたかった」


「景虎。小さい頃はよく遊んでたよな。


それが大きくなると戦やら家督やらで、なかなか遊べなくなったよな」


「たしかにな。


でも、この間、好花と一緒に来た時、いろんな話できて、楽しかった」



「私もです! 晴景様と話すとフランクな気持ちで話せるというか。


自然体で会話できました。


楽しかった」



「好花ちゃん。


景虎をよろしくね。



こんなクールに見えて、本当は寂しがりやなところもあるから。


支えてあげてね」



「はい。かしこまりました」



晴景の周りにいる人たちは涙を流している。



「兄上! 時世の句は……?」


「文に書いといたから、死んだら見てな」




「みんな、


ありがとう」



晴景は目を閉じた。



天文22年2月



長尾晴景は、



人生に終わりを告げた。



人から愛される存在。



そんな人物であった。

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