第205話 関東守護職?

春日山城から景虎一向が出て、歩いていると、村の者たちが顔を出してきた。


「景虎様!


いってらっしゃい!


気をつけてね」


女たちは、かごを片手に景虎へ手を振っている。


かごの中は、美味しそうな夏野菜でいっぱいだ。


なす、きゅうり、ピーマン、トマトなどが光に反射して、キラキラ光っている。


その女たちに向けて、景虎は笑顔で手を振った。


いまだと、ファンサービスというのだろうか。


「ほんと、モテるなぁ。景虎は」


好花はその様子を見ながらニヤニヤしていた。


川中島へ向かう途中、好花は景虎に聞いた。


「景虎ってさ、今はもう関東守護職なん?」


「いや、実は関東守護職ではない。


関東守護職の代役なんよな」


「ほぅ。代役なんだ。


上杉さんから、譲る〜! って言われたから、もうすでに関東守護職についているのかと思った」


「んー、関東守護職は、天皇から任命されないといけないんよな。


んで、俺はまだ任命式受けてないやん?


だから、山内上杉家の代役ということになってるんよ」


「なるほどなぁ」


好花は、理解したようで、頷いている。


「武田信玄は、甲斐守護職という正当な公権力をもっているよな?


だけど俺は、関東守護職の代役程度の身分なんさ。


越後を実効支配しているだけの私権力……。


ま、この権力の格差を埋めるために俺は、普遍的な善悪を持ち出して武田家に対抗しようとしているわけよ。


例えば、信濃の民が侵略されてかわいそう、みたいにな」


「そんなことまで考えていたんか。


さすがっすね」



義の意識が景虎に芽生えたのも、こんな心情があったのかもしれない。

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