第94話 出発

「好花。可愛い顔して、はんぱねぇな」


景虎は、苦笑いしながら言う。


「いやー、好花ちゃんナイスすぎ!」


「姫様、私は驚いていますぞ」


弥太郎、実乃も続けて言う。


「好花様、あの時は死んだかと思いました」


「朝信っ! 勝手に殺さないでよね!」


好花がそう言うと一同は皆笑った。



「ひとまず、ここは危ない。


どこかに逃げましょう」


「そうだな。馬に乗るぞ」


景虎の馬に好花も乗った。


好花は、景虎の後ろに乗り、馬から落ちないようにぎゅっと景虎に抱きついた。


「好花、怖かったな。良く頑張ったぞ」


「うん」


好花の目から涙が溢れ、


濡れた長いまつ毛は細かく震えていた。


好花は、今まで平然を装っていた分、大好きな景虎を肌で感じて緊張が少し取れて、泣いてしまったのだった。



まだ夜も明けない中、景虎一行は、真っ暗闇へ駆け出した。



真夜中の風が好花の柔らかな髪を揺らしていた。



馬が力強く地面を蹴って、走る音だけが辺りに響いた。

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