第30話 2人の夜

「居城を取り戻してほしいんです」


上杉憲政が、謙信にそう言った時、謙信は何を考えていたのだろうか。



謙信は、



「あいわかった」


と言って、応諾したのだった。






その日の夜のこと。


謙信と好花は同じ布団に入っていた。


「景虎様。


平井城を取り返すって話、承諾してよかったん?」



「いやいや。さすがにほんとは承諾したくなかったよ。


越後だけでも統治するの大変なのに、関東という大きい地域まで、統治できる自信ない。



でもさ、上杉憲政は、


いくら、権力が弱くなってきたとはいえ、関東管領という権威の高い職じゃん?


だから、今俺がそいつを助ければ、いずれその権威の高い職が手に入りそうだし。


そうしたら、その権威を盾にして、天下も夢じゃないなーって」


「うわ、さすが景虎。そこまで考えてたか。


悪い男だなぁ」


好花は、景虎を見ながらニヤニヤしている。



「ま、あいつ、へなちょこだもんな。


すぐに権威譲ってもらって天下とろぉー!」


好花は、ガッツポーズをした。


「あいつとかゆーな」


景虎は笑いながら、好花のほっぺをつんつんした。



「なにすんだよー!」



好花も負けじと景虎のほっぺたをつんつんした。



景虎の手が好花の腰に触れる。



好花は、じーっと景虎の目を見つめる。



「きれいな目だね。景虎」


「好花には負けるわ」


2人は、薄明かりの中、体を絡め合った。




「痛かったら言ってね」


好花に優しくとろけるような声をかけてくれる景虎。




優しいふんわりとした白い体と、太くて頑丈な力強いこんがりとした体が交わる。




声を殺そうとしても、殺し切れずに漏れてしまう声が部屋中に静かに響く。


2人の息遣いがどんどん激しくなっていく。



好花は、たくましい体にうっとりしていた。



目がとろんとなってきて、全てを景虎に預ける。



「景虎、好きだよ」


「俺も好き」




2人は、舌を絡め、何度も何度も口づけした。



まるで、頭の中がとろけてしまいそうな、もうどうなってもいいような、そんな感情が2人にできる。



バターが熱いトーストの上で溶けるように、この感情も2人の体に溶け込んで、それがその体の糧になる。









長い夜はまだ始まったばかりだ。



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