第85話 景虎と三好長慶

 近衛晴嗣が示してくれた屋敷に着いた。


屋敷というよりも、こじんまりとした隠れ家のような建物だった。


堺の賑やかな場所とは離れ、静かにたたずんでいる。


「よし、入るぞ」


「うん」


2人は意を決して入った。


入ると、1人の男が出迎えた。 


その男は、にこやかにほほえんでいる。


「わざわざ遠いところを来てくださりありがとうございます。


私が三好長慶でございます」


「あなた様が三好殿ですね。


此度はお招きいただき、ありがとうございます。


長尾景虎にございます。


隣にいるのが、私のお世話係、好花と申します」


好花は、景虎の隣でぺこっと頭を下げた。


「会ったこともないのに、招いてしまって申し訳ありません。


なんせな、ここまで聞こえてくる軍神ですから。


京にくるなら是非会いたいと思ったんです。


会えて光栄です」


「こちらこそ、会えてよかったです」


「旅もおつかれのことでしょう。


お茶でもどうですか?」


「それはありがたい。


いただきます」


こうして、三好の隠れ家に2人は入った。



三好は茶をたてはじめた。


かしゃかしゃかしゃとたてる音が部屋に響く。



「どうぞ」


「いただきます」


景虎は、茶をぐいっと飲んだ。


「堺は、人の多さで疲れたでしょう」


「いやー。本当にその通りで。


こんなに人がたくさんいるのを見たことがありませんでした。


みんなせわしなく働いておった」


「堺は、いろんな国との交流が盛んですからな。


いろんなものが飛び交い、売れるんですわ」


三好は、好花にも茶をいれてくれた。


抹茶の良い香りが好花を包む。









「聞くところによると、長尾殿は、足利義藤様と親しく関わっていると。


それなのに、足利殿と敵対する私の招きに応じて来られた。


しかも、家来はなしで。


何かあってもおかしくはないと思いましたよね?


それでも堂々と私のたてた茶を飲んでくださった。


景虎殿、敬服いたします」


「いや、めっそうもない。


会いたかったから会いにいった。


ただ、それだけのことです」

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