第194話 春日山城にて

 葛山城で籠城戦をしている頃、春日山城では、吹雪で少し先でさえ、見えなくなっていた、



「何この雪!


もう雪嫌いっ!」


好花は、外に向かって叫んでいた。


景虎も渋い顔をして、腕組みをしている。


「ほんと、ひどい雪だな」



好花が叫んだからなのか、ずーっと吹雪でひどい天気だったのに、吹雪が止み、お日様が雲から出てきた。



「ねぇ!


景虎っ!


止んだよっ!」


「まじやん。


よし、出るか!


定満さん、皆に伝えてくれ。


戦に向かうと」


「承知しました」


定満は、忍者のように素早く廊下を走っていった。


「落合さんと梓さん、助けに行かなきゃ」


好花は、以前葛山城で梓がくれた、ビードロを握りしめた。


まるで、星空をきゅって集めたみたいに、青や水色を基調とした中に、小さな粒が散らばっていて、宇宙を想像させるビードロだ。


「馬と食料は、雪が少なくなった地域で調達しよう。


金だけ、めちゃ持っていくか」


「そうだね。


できるだけ、身軽がいいよね」


景虎と好花は、甲冑を着て(もちろん、好花は男装をして、景虎の側近として)皆の前に現れる。


好花は、男装をしてもその容姿端麗は隠さずに、みんなを圧倒させていた。


みんなは、景虎様の隣の美少年が気になり、つい、見とれていた。


そんなみんなの目線をするどく察知した景虎は、バカにでかい声で話し始めた。


「今回は、雪が多くて道を歩くだけでも、かなり苦労するだろう。


大変な道のりになると思うが、仲間のために助けに行こうではないか!」


「おぅ!」


「よし。


では、踏みつけ係は、交代交代で行こう。


大変な仕事だからな」


「踏みつけ係ってなんだろ?」


好花は、小さい声で呟いた。


すると、すかさず、隣から定満が教えた。


「雪を踏みつけて、歩く道を作る人のことですよ。


足がでかくて、がたいの良い人が適任なんですがね。


なんせ、最初に雪を踏むのは、とても体力がいるんですよ」


「あー。そっか、除雪車ないんだった」


「じょせつしゃ?」


「いや、なんでもないです!


長野まで踏みつけて、道を作るなんて、めちゃめちゃ大変じゃないですか!」


「そうですよ。


だから、雪の日は極力移動しないのです。


というか、できないのです」


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