第201話 毘沙門堂

 その日、春日山城はとても静かだった。


みんながみんな、葛山城の落城を嘆き、悲しんでいた。


その悲しみを表現するかのように雪もしんしん積もっていった。


「くそっ。俺はなにしてるんだ。


城一つ助けられないとは。


ほんと、俺はクズだ」


景虎は、自分の部屋にいた。


普段はあまり怒らない景虎でさえ、助けられなかったことに怒り、悲しんでいた。


好花は景虎の隣にいたが、なんの言葉もかけず、ただそばにいた。


好花は、泣き腫らしたせいで、目が真っ赤に充血していた。


長い沈黙があり、好花が口を開いた。


「毘沙門堂に行かない?」


春日山城には、毘沙門堂という、毘沙門天を祀っている御堂がある。


戦う前には必ずそこでお参りをするという重要な場所だ。


「そうだな」


景虎と好花は、2人で毘沙門堂に向かった。


外に出ると、辺りは真っ暗だった。


雪の風が、体を突き刺すように、寒さを助長していた。


誰もいないのを確認すると好花は、景虎の手を繋いだ。


手の温かさがじんわりと伝わってくる。


毘沙門堂は、真っ暗なせいか、不気味に見えた。


しかし、灯りをともすと、不気味さは和らいだ。


毘沙門天は、相変わらず堂々とそこに着座していた。


2人は毘沙門天の前で手を合わせ、祈りを捧げた。


もちろん、それは葛山城で戦ってくれた仲間たちへの祈り。


落合さん、梓さんへの祈りだった。


好花が景虎をふと見ると、景虎の目から涙が出ていた。


「いくら、戦で死者を見ようとも、未だに慣れない。やっぱり堪える。


今回のことは、より一層堪えるな。


本当に申し訳ない」


手を合わせながら、景虎はそう言って、頭を下げた。


好花の目からまた涙が溢れ、泣き崩れた。

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