第3話 冒険がしたいです

 俺とパティーは野宿の準備をしている。

ここから一番近いネピアという街まではまだ20キロも離れているそうだ。

すでに太陽は西の空を赤く染めていた。

この辺りには小さな集落が一つあるが宿屋はないそうだ。

仕方がないので水が確保できる川の近くで野営をすることになった。

パティーがこちらを睨んで言う。


「変なことしようとしたら殴るからね」

「マジでやめてね。確実に死ぬから」


パティーの攻撃力104に対して、俺の防御力は5しかないのだ。


 その夜は回復魔法のお礼ということでパティーが食材を提供してくれた。

俺も道中で採取したハーブとヨタイモを出した。

ヨタイモはその辺に生えている黄色い花で、根っこはジャガイモに近い味がする。

料理はスキルが最大の俺が作った。

干し肉と豆、ヨタイモのスープだ。

パティーが塩を持っていて本当に助かった。

食材は手に入れられたと思うけど食塩は難しかっただろう。


「イッペイの料理、美味しい!」

「だろ?」


一口食べてパティーの顔がほころぶ。


「かえすがえすも残念だわ。せめて平均くらいの防御力があったらねぇ」


ここまでひ弱じゃなかったら冒険に誘ってくれたと言いたいんだね。

確かに俺の防御力は低い。

だけどそれは素の状態での話だ。


「ちょっと待ってくれ! 確かに俺の防御力は5だ。だがそれは何も装備してない状態での話だろ」


パティーはあきれたように俺を見る。


「いい鎧を装備すれば何とかなると思っているの?」

「違うのか?」

「確かに良い装備を装着すれば防御力は上がるわ。でも、イッペイの筋力で自由に動くことができるかしら? フルプレートの鎧なんか凄く重いんだからね」

「そ、それは、軽くて丈夫な鎧を開発する」

「そういう装備はとても高いのよ。素材だって強い魔物からしか取れないレア素材や魔石を使うものばかりなの。イッペイはお金あるの?」

「ない……」


正直に言えば一文無しだ。


「武器だって同じよ、いくら強い武器を持っても体力と技術を伴わなくちゃ意味がないわ」


そう言われてしまうとぐうの音もでない。

だがパティーが言っているのはパティーの常識の範囲内での話だ。

例えばそれほどの訓練をしなくても使用可能であり、十分な殺傷能力を持つ武器というのは存在する。

クロスボウや銃器など飛び道具の類だ。

クロスボウは連射性がないので不安があるが、銃器を開発すれば問題は大分解消されるはずだ。

しかし防御に関しては問題が残る。

先手をとらなければ確実に殺されるだろう。

そうじゃなくても銃弾で倒れない相手、銃弾を避ける相手がいたら万に一つも生き残れない。


 だが、残された手がもう一つだけある。

ドーピングだ。

薬物錬成を使い、自分の能力値をあげるポーションを作成すれば問題はクリアされるんじゃないか?

調べてみると手近な材料で出来るものに、身体強化ポーション(10倍)というのがあった。

とりあえずこれを作成することを当面の目標にしよう。

しかし10倍といっても元がひどすぎる。

ポーション飲んでも攻撃力30に防御力50、プラス装備の補正値。

よくわからないが弱そうだ。


 キャンプ地の川の砂の中に沢山の金属を見つけたので、見張りの間に錬成して鋼のインゴットを作成した。

次に鍛冶スキルで剣を錬成する。

本当は道具作成の能力で防具を作りたかったのだが革とか紐などの素材が足りなかった。

剣なら基本的に金属さえあれば作れる。

魔力を通すほど攻撃力は上がるようだが、通せる魔力の最大値は素材で決まるようだ。

ただの鋼ではそれほどの魔力は籠められなかった。


 俺は慎重に魔力を込めていく。

うっかりすると形がいびつになったり、魔力の込め方にムラが出てきてしまう。

そうなると切れ味やバランスが悪くなってしまうのだ。

鋼のインゴットは淡い光を発しながら宙に浮き、徐々に剣の姿を形作っていく。

最後に魂が宿るかのごとく炎を上げて燃え上がると静かに大地に降りていった。


―銘を入れますか?-


俺のサインを入れるかどうかということか。

少しだけ悩んでから「いいえ」を選択した。

鍛治師として生きていきたいわけじゃない。

俺は冒険がしたいんだ。

だから冒険者以外で名前を売ることはしたくない。

ヘタに剣の製作依頼がきても困るんだよね。

俺って押しに弱いから頼まれると断れない性格なんだよ。


全長120センチ。

刃渡り95センチ。

月明かりを受けて氷のような刃がきらめいている。

自画自賛になるが、なかなかの業物わざものだ。


鑑定


【名称】ショートソード

【種類】片手剣

【攻撃力】127

【属性】無し

【備考】無銘の剣。スキル 斬撃波の習得が可能になる。



良い出来ではないか。

俺は作ったばかりの剣を装備してステータスを確認する。


【名前】 宮田一平

【年齢】 27歳

【職業】 無職

【Lv】 1

【HP】 8/8

【MP】 998704/999999

【攻撃力】3(+12) 括弧内は武器の能力

【防御力】5

【体力】 4

【知力】 1480

【素早さ】5

【魔法】 生活魔法 Lv.max、回復魔法Lv.max

【スキル】料理 Lv.max  素材錬成(マテリアル) Lv.max  薬物錬成 Lv.max

鍛冶錬成 Lv.max  鑑定Lv.max  ゴーレム作成Lv.max  道具作成Lv.max

【次回レベル必要経験値】 0/100000 


あれ〜?

127あるはずの攻撃力が12になってるよ。

つまり俺が装備しても127の内の12しか能力を引き出せないということか。

これはパティーにも言われていたから、それほど精神的ダメージは受けていない。

予定通り、近日中に飛び道具を作成しよう。

戦闘における俺のアドバンテージは何と言ってもこの魔力量だ。

攻撃魔法は使えないが、魔力をエネルギー源にする銃を作ればかなり有効なのではないだろうか。

そのためにも魔力を物理的なエネルギーに変換するための魔石が必要になってくる。

なんにせよ必要になるのは金か。

世知辛(せちがら)いことだ。

ただ、それ程悲観はしていない。

治癒師として働けばある程度の収入は見込めるし、装備品やポーションを売るという手もある。

朝になったらパティーに今作った剣を見せてどれ位の値段になるのか聞いてみよう。


「なんなのよこの剣!」

「夜番の間に作ってみました。どう?」


パティーは剣を握りしめて何度か振る。

最初は軽く。

やがて早く、力を込めて。


「なかなかいい……。ううん、すごくいい!  軽いし、バランスも申し分なし。何だろう……手にしっくりと馴染む感じ」


そこまで褒められると悪い気はしない。

しかしあの剣が軽いんだ。

俺にとってはものすごく重かったんだが。


「売り物になるかな?」

「うん。このレベルなら相当の高値で売れると思う」


鑑定


【名前】 パティー・チェリコーク

【年齢】 22歳

【職業】 戦士

【Lv】 13

【HP】 196/289

【MP】 17/42

【攻撃力】104(+127) 括弧内は武器の能力

【防御力】187(+39) 括弧内は防具の能力

【体力】 176

【知力】 97

【素早さ】86

【スキル】身体強化Lv.3 スラッシュLv.4  野営Lv.2 斬撃波Lv.0


しっかりと武器の能力を引き出しているね。

スキルの斬撃波も覚えられそうだし。


「パティー斬撃波ってスキル知ってる?」

「うん。下段から切り上げてウィンドカッターみたいなやつを飛ばすやつでしょ」

「多分それ。その剣で練習すれば使えるはずだから」

「ほえ〜、スキル付きの武器かぁ。イッペイはなんでもできるんだねぇ」

「まあね〜」

「ただ悲しいくらいに弱いんだね〜」

「それをいうなよ……」


俺はパティーに向き直って真剣に聞く。


「なあパティー 、教えて欲しい」

「いいわよ。パティー先生が何でも教えてあげちゃう。あ、でもエッチな質問はダメだぞ」

「冒険者になるために必要最低限のステータスを教えてくれないか?」


俺が真面目に質問しているのが伝わったのだろう、パティーも表情を改めて口を開いた。


「冒険者にとってステータスの数値が全てではないわ。でもね、最低のラインというのはあるの」


パティーは懐から一枚のカードを取り出した。


「これは私のギルドカード。貴方も知っていると思うけど、裏には私の体力や攻撃力が数値化されて書いてあるわ。詳しいことは教えられないけどね」


知りませんでした。

そうか、冒険者は鑑定やステータスオープンではなくギルドカードで自分の能力を確認しているのか。


「冒険者として登録するためにはステータス審査が必要なのは知ってる? そして、登録に必要な最低値は全てにおいて30以上よ」

「つまりそれは…」

「そう。イッペイのステータスじゃ冒険者として登録することはできないの」


涙に視界が滲む。


「悪いことは言わないわ。諦めた方がいい。貴方が冒険者になっても死ぬだけよ」


俺のためを思ってだろう。

パティーは簡潔な言葉で俺の夢を切り捨てた。

だけど……。


「パティー、その剣はあんたにやる」

「え、本当に?!」

「その代わり頼まれてくれないか? 銀嶺草(ぎんれいそう)が欲しいんだ」

「どういうこと? ……もう、いい歳して涙なんか流して。ほら、聞いてあげるからパティー先生に言ってごらんなさい」

「パティー先生!! 冒険がしたいです…」

「うん。気持ちはわかるわ」

「だから、ステータスを上げるポーションを作ります」

 空に星が流れた。

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