第28話 デストロイヤー・フォーメーション

 ボニーさんを同行者に迎えて俺たちの戦闘スピードは格段に上がり、サクサクと敵を殲滅しながら5区へとむかった。

ボニーさんのすごいところは戦闘力もさることながら、敵の気配を探知する能力、そして隠密能力だといえる。

闇の中から現れ、敵に一撃を加えてまた闇の中に体をとかしていく攻撃スタイルは、見ている俺も鳥はだが立つほど恐ろしい。

だが味方であれば心強いことこの上ない。

敵のせん滅数に比例してジャンとメグのレベルもどんどん上がった。

残念なのはゴブのレベルが上がらないことだ。

常に俺を守ってくれているので出番がほとんどないのだ。

「ごめんなゴブ。俺のお守ばかりさせて」

「うが」

なんて言ってるかはわからないけど、今の「うが」はなんとなく優しい声だった気がする。

ゴブはハチドリたちと違って、経験によってレベルが上がるゴーレムだ。

なんとかゴブの活躍する場を考えてやろう。


 俺たちは4区を抜け、夕方前に5区の第二階層へと続く階段の前にたどり着くことが出来た。

今日はここまでにして下の階層へは明日すすむ。

 この辺りは下の階層へむかう冒険者が多く、どの小部屋も使用中の赤い布が巻き付けられている。

5分ほどかかってようやく使用されていない小部屋を見つけて、今晩のねぐらを確保した。

 この探索の間、俺はなるべくゴブに調理や露営の準備を手伝わせていた。

ゴブは何かを教えると時間はかかるが、その意味を理解して行動ができるようになる。

そしてそのたびに経験値が入っていた。

ハチドリたちの投入で戦闘での活躍は少なくなったが、こういったポーターの仕事をゴブは担っている。先程料理をしようとしたときゴブは命令されなくても荷物から薪を取り出した。

これはすごいことだ。

俺はゴブの今後にかなり期待している。

ジャンとメグもゴブをパーティーの一員として扱って、声をかけてくれる。

このこともゴブの成長に一役かっているとおもう。


 夕飯はボニーさんが持っていたレッドボアの肉を使ってシチューを作った。

秋も深まり迷宮の中も寒さを増している。

温かい食べ物がありがたかった。

シチューを作るとき、野菜の皮むきは全部ゴブにやらせてみた。

幸い失敗してもゴブは指を切ったりすることはない。

多少傷がつくくらいだ。

いざとなれば腕の部分は換装が可能だ。

まだまだぎこちないがだいぶ上手になってきた。

そのうち一人で全部作れるようになるかもしれない。

先が楽しみだ。


 夕食が終わった後、ボニーさんが声をかけてきた。

「イッペイ…して…」

「な、なにを?」

「洗浄魔法」

やめてくれ、その言い方は俺でなくても誤解するぞ。

「ボニーさんは綺麗好きですね」

「匂いを取りたい。気配を絶つ…」

なるほど、敵に存在を知られないために匂いも消し去りたいわけだ。

そういえばコボルトは犬の顔をした魔物だけあって鼻が利くもんな。

他にも嗅覚のすぐれた魔物というのは多いのかもしれない。

俺は念入りに洗浄の魔法をかけてあげた。

「気持ち…よかった…」

だから誤解するって!


 今日はいよいよ第二階層へと突入する。

下へと続く階段は幅が3メートルくらいある。

魔石の照明器具がつけられているため階段は明るく照らされていた。

そのせいだろうか、恐怖や緊張をあまり感じなかった。

新人3人はギルドカードを手に階段を下りる。

おりきった直後、俺たちの手にあったギルドカードの階級が「第10位階」から「第9位階」に書き換えられた。

「おお!」

「やったぜ!」

「やりましたね!」

「警戒を怠るな…」

はしゃぐ俺たちをボニーさんがたしなめる。

でも、なんかいっぱしの冒険者になった感じがして気持ちを抑えきれなかった。

自らを戒める意味で俺は注意する。

「ボニーさんの言う通りだ。緊張感をもっていこう」

「はい。ここからです!」

俺たちは階段の照明にぼんやりと姿をみせる二階層に注視した。


 二階層も一階層と同じで石畳と石の壁が続いている。

見た感じはほとんど一緒だ。

「二階層1区…。地図をみて現在地を確認…」

ボニーさんの指示に従い地図を確認する。


第二階層略図

【4区       】【5区   】【6区       】【7区(下への階段)】

【1区(上への階段)】【2区   】【3区(ステュクス川)】


例によって縦横には進めるが斜めには進めないと考えてほしい。


現在地は第二階層1区だ。

下の階層に行く場合は1、2、3区を経て6区に入り7区へ抜けるのが一般的なルートだ。

ステュクス川は地下水の川で飲用になるので3区を外すルートはまず使われない。

「今日は1区の周辺で狩り…。慣れて」

 ボニーさんに導かれて狩りを始める。

2階層1区の敵はスケルトンが多かった。

そしてこのスケルトンは俺との相性が最悪だったのだ。


 バリの光線がこめかみを、バンペロの光線があばらを、ボーラの光線は骨盤を貫いた。

だがスケルトンは倒れない。

俺の銃弾が珍しく綺麗にスケルトンの眉間に吸い込まれていき貫通する。

それでもスケルトンは倒れない。

そもそも眼がないのでヒカル君のフラッシュはなんの意味も持たなかった。

こいつらは粉々に破壊しなければ倒れないアンデットなのだ。

この場所で一番活躍したのは、やはり殴打用のメイスを持つメグだった。

他の追随を許さない圧倒的なパワーで端からスケルトンを打ちこわし、磨り潰し、撃滅していく。

まさにメグの真骨頂だった。

「この場所、私に向いてるみたいです!」

メグは水を得た魚よろしく活き活きしている。

「おっさん目が死んでるぞ。気にするな、こと戦闘に関してはおっさんにはあんまり期待していねぇ」

 いきなり戦力外通告だと! 

せっかくハチドリトリオを開発したのに、もう使えなくなってしまうとは。

相性というはあるのだろうが、もう少しマルチに対応できるようになりたいものだ。


 スケルトンからはGランクとHランクの魔石がとれた。

「おお。ここは稼ぎのいい狩場だな。しばらくここで狩りをしようぜ」

ジャン君、ここだと俺の立つ瀬がないのだが…。

「そうしましょう。私、頑張っちゃいますよ!」

メグもやる気を見せている。

俺だけ反対もできないな。

スケルトンは動きが遅いし、飛び道具を使わないからゴブにこん棒でも持たせて近接戦闘の経験を積ませるか。

そうすれば俺は後ろでゴブのシールドを構えてみてればいいし…。

 俺はスケルトンが持っていた剣を集めて素材錬成を行いインゴットを作成。

鍛冶錬成でインゴットからゴブのメイスを作り出した。

全金属製のメイスは柄頭が球体でスパイク突起がついたものだ。

「ゴブ、俺の分までがんばってくれ」

「うが」

休憩時にメグから基本的なメイスの扱い方のレクチャーを受けたゴブは張り切って討伐を開始した。

陣形はメグとのツートップだ。

後に『不死鳥の団』デストロイヤーフォーメーションと恐れられる陣形が産声をあげた瞬間だった。

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