第26話 カミングアウト

 新居も決まり、俺は再び迷宮へ身を投じていく。

家具などは宣言した通りパティーが用意するというので彼女に任せた。

今頃ジェニーさんと選んでいることだろう。

ジェニーさんも俺の新居のことを「私たちの秘密基地」って呼んでいた…。まあいいけどさ。

 今日は4日ぶりにジャンとメグと合流して今後の計画を立てる予定だ。

俺が家探しをしている間にもジャンたちはポーターとして迷宮に潜っていた。

このままでは冒険者として差をつけられてしまう。

だが俺だってずっと遊んでいたわけではない。

昨日は俺の攻撃バリエーションを広げるために新たなゴーレムを開発したのだ。

 皆さんはハチドリという鳥をご存じだろうか? 

綺麗な瑠璃色をした小さな鳥だ。

鳥類の中でも小さい部類の鳥で体重は2~20gしかない。

そしてこの鳥は毎秒約55回、最高で約80回の高速ではばたき、空中で制止するホバリングを行うことが出来る。

俺の最新ゴーレムはこのハチドリを真似て作られた。

 体長20センチ。

材質は強度と重量の狭間で苦慮した末の薄いミスリル板だ。

Gクラスの魔石3個が使われている。

このハチドリ型ゴーレムを3体作った。詳しくは鑑定を見てほしい。


【名前】 バリ、バンペロ、ボーラ

【年齢】 0歳

【Lv】 -

【HP】 3/3

【MP】 機動用ジェネレーター150/150 攻撃用ジェネレーター 300/300

【攻撃力】167

【防御力】0

【体力】 2

【知力】 10

【素早さ】227

【備考】 半自立型ゴーレム。行動には50MP/分が必要。MPチャージは150まで。よって主人から3分以上離れて行動できない。半径1メートル以内に主人がいれば魔力を高速チャージすることが出来る。

嘴の部分に増幅器で光魔法を増幅して照射するレーザー砲を搭載している。攻撃用魔力のジェネレーターは行動用とは別にある。【MP】300(レーザー3発分)。

3体は意思を疎通し合える。

【次回レベル必要経験値】 -(レベルアップはない)


ごらんの通り、機動力に重きを置いたゴーレムだ。

これの設計思想は日本の某国民的ロボットアニメに出てくるファンネルという武器に由来する。

ファンネルは搭乗者の感応波で動かす遠隔操作型機動砲台で、複数の高速可動砲台を操作し全方位から攻撃を行う兵器だ。

俺のゴーレムはその動きはファンネルによく似ているが、ゴーレム自体が自律的に動く。

敵を指定してやればゴーレムが考えて攻撃してくれるわけだ。

だいたい俺には複数の砲台を同時に動かすなんて器用なことはできない。

俺は新しいタイプの人類ではないのだから。

前述したが俺は魔石20個分のゴーレムを同時に使役することが出来る。

ゴブに10個、バリに3個、バンペロに3個、ボーラに3個で計19個の魔石を使った。

1個だけ余ってしまったのでヒカル君とうゴーレムを作った。

このゴーレムはカンテラに手と足が生えた姿をしている。

自分で歩いて照らしてくれるので俺がカンテラを持たなくてもよくなった。

地味だけどかなり役に立つと思われる。

ヒカル君は攻撃手段が全くない。

その代わりフラッシュ機能を搭載した。

カメラなどについているあのフラッシュだ。

普通のものよりも光量の強いものを作った。

これは単なる目くらましだが、暗い迷宮の中では役に立つ機能だと思う。


 他にもハンドガンにフラッシュライトをつけたり、Iランクの魔石を使い火魔法を応用した手榴弾も5個作った。

このように攻撃面での装備は充実したが防御面が相変わらずだ。

小型装甲車とか作って安全を図りたいが迷宮は狭くて運用が難しいうえに、Eランクくらいの魔石が必要になる。

まだまだ先の話だ。

最終的には全身装甲型パワードスーツを作ってみたい。


「おう、おっさんこっちだ、こっち!」

待ち合わせの広場に行くとジャンが飛び跳ね人々の耳目じもくを集めていた。

あのおサルさんは相変わらずうるさい。

あ、メグがメイスの柄でジャンをぶった。

「ジャン君恥ずかしいでしょう」

「…ってぇなぁ!!」

「二人とも仲良くなってるじゃないか」

「どこがだよ、おおいてぇ」

喧嘩するほど仲が良いのだよ。

「こんにちはイッペイさん。家探しはどうなりましたか?」

「やあメグ。昨日いいところが見つかったよ。2週間後には引っ越す予定だ」

「それは何よりです。それじゃあ明日からの探索は問題なしですね?」

「勿論だ。準備万端整ってるぜ」

俄然ジャンがはしゃぎだす。

「よし! ついにパーティーでの活動開始だな。今までポーターだけだったけど頑張り次第で稼ぎは全部自分たちのものだ!」

そうなのだ。

今までは雇われる側だったのでどれだけ働いても決められた額しかもらえなかった。

だけどパーティーとして潜れば稼ぎは自分たち次第なのだ。

第一階層だから魔石も素材も大したものはないが夢が広がる気持ちはよくわかる。

「やるぜジャン。目指すは第10階層だ」

「おう。極めてやるぜ!」

「ワクワクしますね。明日が楽しみです」

 話し合いの中で1区から人の少ない5区で2泊3日の狩りを行うことが決まった。

俺は未だ5区に行ったことはないが二人は5区から帰ってきたばかりだ。

ここは仲間を信じてやってみることにしよう。

1区、5区ともに水場はないが、俺の生活魔法があるので問題はない。

もちろん予備の水は持つ。

食料や薪、包帯といった共用のアイテムが必要になるので一人2000リムを出して買うことにした。

ノートも購入して会計は勉強のために順番で付けることになった。

「俺、金勘定なんてできねぇぞ」

「一緒にやってやるから覚えろ」

「そうだよジャン君、教えてあげるから頑張ろう」

ジャンも字は書けるんだ。何とかなるだろう。

 医薬品の購入時に俺は自分のことについて二人に話しておいた。

「実は俺は薬剤師でもある。だからライフポーションの作成ができるから、薬は買わなくてもいいからね」

「なんだと?」

「本当なんですか?」

「先日、6区脱出の時に使ったポーションがあっただろ? あれは俺が作ったんだ」

「あの、無茶苦茶よく効くやつか!」

「以前も聞きましたけど、なんでイッペイさんは冒険者やってるんですか…」

「それともう一つ。俺、回復魔法も使えるから、怪我をした時は遠慮なく言ってくれ」

「っ!! おっさん俺も聞きたい。なんで冒険者やってるんだ?」

「そんなもん冒険がしたいからだ」

ジャンがハッとした顔で俺を見返す。

「…なんとなくわかるぜ」

メグは釈然としない顔をしていたが、ジャンはわかってくれたようだ。

 これで俺は秘密にしていたことのほとんどを二人に話すことが出来た。

黙っていたのはけっこう心苦しかったのでスッキリした。

ただ身体強化ポーション(10倍)の話はしていない。

あれは俺のように基本値が低い人間が飲む分には大した効果はないが、ある程度の能力がある奴が飲んだら化け物みたいな強さになってしまう。

以前パティーに飲ませた時がそうだった。

下手にあれの存在が知られたら、製造を巡って戦争が起きてもおかしくないような代物だ。

これだけは秘密にしておこうと思ってる。

俺が世間に流すのは、せいぜいバイアッポイ スペシャルや発毛剤くらいがいいところなのだ。

ED治療薬や毛生え薬で戦争は起こらない。

…おこらないよな?

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