第34話 ブラッディ―・ターキー・レース

「おっさーーーーん!」

ハイドン・パークに騒々しい声が響き渡り、僕らのおサルさんが駆け込んできた。

「よかった、まだここで面接してたんだな。ん? こいつは誰だ」

ジャンがクロに目を止めた。

「この子はクロだ。今度の探索でポーターをやってもらうことになった」

「へぇ、獣人のポーターを雇ったのか。まあ、俺は何でもいいけどな! 俺が『不死鳥の団』の切り込み隊長ジャンだ。俺のことはジャン隊長と呼ぶように!」

「はい、ジャン隊長」

「カッカッカッ。まあよろしく頼まぁ! と、そんなことよりおっさん、これを見ろ!」

ジャンは薄汚れたチラシを俺に押し付けてきた。

「ブラッディ―・ターキー・レース?」

「そうよ! 外国人のおっさんはやっぱり知らねぇか? 冬の一番昼の短い日に「冬祭」が行われるのは知ってるだろ? ネピアではこの日、ブラッディ―・ターキーという鳥を食べてお祝いするのが冬の風物詩になってるわけだ」

「ああ、俺の故郷では冬至の日にカボチャを食べる習慣があったな」

「けっ、カボチャって。しけてんなぁ。このネピアでは女房を質に入れてもターキーを食べろってくらい、みんな祭りの日はターキーを食う。それがネピアっ子ってもんだ。なあクロ?」

「そうですね。スラムでもこの日だけはターキーを食べて冬祭を祝います」

「ほう。それで?」

「ブラッディ―・ターキーは体長4メートルを超える巨大な野生の鳥でさ、ネピアの北の平原に住んでいるんだが普段は禁猟なんだ。それが冬祭を控えていよいよ明日解禁されるわけだ。解禁期間は明日から冬祭前夜祭までのちょうど一週間。買取と販売はすべて教会が取り仕切る。だから品物はすべて教会に納めるわけだが、この期間中に一番大きなブラッディ―ターキーを捕った者は表彰されて、賞金までもらえるってわけよ!」

ターキーの安定供給のためのシステムの一環ということか。

「ネピアの男としては一度でいいから、このブラッディ―・ターキー・レースに参加したかったんだが、今年はついにパーティーもぶち上げたからな。是非『不死鳥の団』として参加したい!」

地元の人間としてはどうしても参加したいお祭りのようだ。

「3日後の探索はどうするんだ?」

「そんなもんは冬祭の後だ! メグとボニーさんには俺が話をつける」

「まあ、二人が承諾するなら俺に依存はないよ。あ、でもクロにポーターをお願いしちゃったな」

「そんなもん、クロもターキー狩りに連れて行けばいい。血抜きだ、腹抜きだ、羽むしりだとやることは山ほどあるんだ。ボニーさんたちは俺が説得するから、おっさんは馬車と食料なんかの用意を頼む!」

「わかった、わかった。じゃあ明日の9時に…」

「7時だ! 解禁時間は明日の午前8時から。それまでに北の平原についてなきゃ他の連中に後れをとるだろ!」

「しょうがないな。じゃあ明日の8時にサンガリアホテルの前に集まってくれ。馬車は何とかするから」

「うっしゃあ。忙しくなってきやがったぜ!」

おサルさんは来た時よりも騒々しく、走り去っていった。

「そういえばクロは大丈夫? 都合が悪かったら不参加でもいいよ。あ、参加してくれたら給金はちゃんと払うからね」

「いきます! ぜひ連れて行ってください」

ならば、食料は5人分いるな。

いろいろ買い物をして帰るとしよう。


 食品などは荷物の量が多くなってしまったので、受取だけもらって明日取に行くことにした。

次にホテルに戻ってコンシェルジュのメリッサさんに馬車の手配をしてもらう。

今回は何泊もする予定なので御者はなしで馬車だけ頼んだ。

ボニーさんが馬車を扱えると以前言っていた。

この旅の間に俺も覚えてみよう。

 パーティーの準備が終わったので、今度は俺の個人的準備を始める。

せっかくブラッディ―・ターキーを狩りに行くのだ。

ポーターとはいえ、俺も獲物を狙ってみたい。

 ブラッディ―・ターキーは縄張りを持つ鳥だ。

草食性の鳥だが縄張りに入ってくる動物には容赦ない攻撃を加える。

牛よりも大きな体をしているので北の平原では天敵もおらず、かなりの数が生息している。

ブラッディ―・ターキーは1匹平均5万リムで買い取られるので、冒険者や狩りをする人にとっては稼ぎ時だ。

故に狩りは効率よく進めなければならない。

獲物が大きいので馬車で運べるのも1回につき1頭ないし2頭が限界だ。

パーティーが獲物を狩る。

俺とクロが血抜きなどの作業をして、それをネピアに運ぶ。

その間にもパーティーは狩りを続行する。

そういった形になるだろう。

おそらく今回はポーターの仕事に徹することになるだろうが、どんな偶然が起こるかはわからない。

メンバーがいない時にブラッディ―・ターキーに遭遇してもいいように、単発式のクロスボウを作成した。

有効射程距離は50メートルくらいだ。

機会があったら狙ってみようと考えている。

 パティーにブラッディ―・ターキー・レースに参加することを手紙で知らせ、翌日は6時に起こしてくれるようにフロントにお願いして眠った。


 朝食を食べてホテルの前に出ると既に全員集合していた。まだ6時50分だ。

「おはようみんな。全員気合が入っているようだな」

「当たり前だ! こちとらネピアっ子だぜ!」

「稼ぎ時です!」

「任せろ…」

「が、頑張ります」

俺たちは馬車に乗り込み、一路北の平原へとむかった。


 街道は既に北の平原に向かう馬車で溢れている。

たまに脱輪した馬車が通路をふさぎ、渋滞と喧嘩を巻き起こしていた。

平原は障害物も少なく、街道以外も走れるので森を抜けると、みな散り散りになっていく。

「さて、どこにターキーはいるんだろうな」

「おっさん、ただのターキーならその辺にいるさ。だが俺たちが狙うのは大物のターキーだ! 一等賞金300万リムは俺たちのものだ!」

「いえ、堅実に数を狙いましょう! 1匹5万! 5匹で25万です!」

メグとジャンがそれぞれに捕らぬ狸の皮算用をしている。

もっともメグの方が現実的ではある。

夢はないが…。

「普通は水場にベースキャンプを作るんだろうけど、俺がいるからそれは心配ない。ターキーを見つけるまでは馬車を走らせるぞ」

 砂煙を上げて馬車は走る。

なるべく人のいない方へと俺たちは進んだ。


 それは巨大な鳥だった。

見た目はダチョウを二回りくらい大きくしたような姿だ。

ダチョウと同じで飛ぶことはできない。

おそらく体が重すぎるのだ。

逃げないように身を隠す必要もなく、向こうからこちらへ走ってきた。

俺とクロは馬車で待機、他のメンバーがブラッディ―ターキーへと駆け出した。

 いつものようにハチドリたちが飛び出す。

ヒカル君は今回は出番がないので馬車で休止している。

ハチドリたちが散開しいざ攻撃をしようと仕掛けた瞬間にブラッディ―・ターキーは身を躍らせた。

なんと突然飛び上がりハチドリの1匹に体当たりを仕掛けたのだ。

迷宮と違い太陽の下ではハチドリの隠密性は薄れる。

だがそうだとしても、とてつもない動体視力と機動力だった。

防御力など俺以下のハチドリはターキーの攻撃をくらい粉々に砕けてしまった。

「ボーラァァァ!!!」

失われたゴーレムは二度と復活しない。

ハチドリトリオのボーラは今ここに散った。

前哨戦はここまでだ。

シールドを構えたゴブを先頭に、メグとジャンがブラッディ―・ターキーに対峙する。

ボニーさんもいつでも遊撃できるように脇の方へ回り込んだ。

 今ここに狩りの本番がはじまるのだった。

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