第116話 命知らずの盗賊たち

 途中オブトルン・スコーピオンの襲撃や、戦闘訓練、ワイバーンとの戦闘を挟んだのでクリスタルロックには4時間もかかって到着した。

時間はかかったものの無事に本日の目的地に到着できて一段落だ。

俺が負傷してしまったのだから無事にとはいえないか? 

傷跡も残さず回復しているのだからいいことにしよう。


 クリスタルロックは茶色いマッシュルームのような形をしている。

「おお! クロのチンコみてえだ!」

俺も思ったけど、口には出さないデリカシーを持っている。

「イッペイさん、このキラキラ光っている石はなんでしょう?」

マリアも慣れたものでジャンを華麗にスルーしているぞ。

鑑定をかけてみたがこれは方解石の結晶だった。

純度の高いものは光学機器に使われる物質らしい。

降り注ぐ陽光に輝いて美しいが宝石としての価値はないそうだ。

「よし、日陰で休憩にしよう」

既に正午前だ。日陰にタープを張って昼食の準備をした。


 俺たちが食事をしている間、ゴブは巨岩の上で、ドローン型ゴーレムのドロシーは上空で見張りを続けていた。

魔物も怖いが、街道に出没するという盗賊も警戒の対象だ。

ハサンによると奴らは足の速い白いラクダに乗って、街道を行き交う商人を襲うそうだ。

「白いラクダだけを揃えた集団がいたら、盗賊と思ってまず間違いないね」

と言っていた。

既に俺の手は血で汚れているが、出来るなら人間との戦闘は避けたい。

こちらが先に捕捉したら迂回してでも戦闘を回避するつもりだ。


 砂漠での料理だが予想はしていたが大変だった。

何と言っても食材に砂が入ってくるのだ。

風で飛びこむ極細の砂はもう無視して食べるしかない。

また、熱いので火を使う気にはとてもならなかった。

朝のうちにハサンに焼いてもらった薄パンにチーズと輪切りにしたトマトを挟んで食べた。

何よりおいしかったのは生活魔法で冷やしたスイカだった。

布を敷いてその上にスイカを置いてスイカ割りをしたぞ。

得物は棒ではなくマチェットなので、スイカ割りならぬスイカ切りだな。

挑戦するのはボニーさんだ。

クルクルと身体を回転させた後にスタートだ。

ボニーさんは目が回っていないのか真っすぐに立っている。

相当三半規管が強いのか?

「ボニーさん、もう少し前! ……そうそこで――」

「まだだ!」

俺の声はジャンに遮られる。

「まだ、完全に間合いに入っていない」

そう? 

ジリっとボニーさんの足が指先一つ分進んだと思った刹那、抜刀とほぼ同時にスイカは真っ二つに切れていた。

地面に敷いた布は糸一つ切れていない。

この人もどんどんレベルが上がっているよ。

考えてみれば車両と銃撃戦による戦闘スピードのお陰で、普通のパーティーの5倍は時間当たりの戦闘経験が多いと思う。

「あ……開眼した」

「?」

「抜刀術」

どうやら新スキルを得たらしい。

居合切りみたいでかっこいいな!

「俺もやってみようかな!」

「さあ、スイカをいただきましょう」

マリアは慣れたもので俺を華麗にスルーしていった……。

スイカはとても美味しかったよ。

かつていた世界ではスイカに塩をかけるなんて、やったことなかったけど、砂漠では塩をかけて食べた。大量の汗をかいていたせいか、その食べ方がとても美味しく感じた。

これで塩分と水分の補給もばっちりだ。



 スイカを食べているとゴブから通信が入った。

「マスター、東の方角からラクダに乗った一団が迫ってきています」

ドロシーからの映像を確認するとかなりの数のラクダがやって来るのがわかる。

「ドロシー、集団にもう少し近づいてくれ」

ドロシーは西の方へ飛び立った。

近づくにつれて、こちらにやって来る人々の詳細が明らかになる。

 ラクダの数は40頭以上。

人も24人いた。

内22人は男で2人は女らしい。

ベールで顔を隠しているのでよくわからないが、衣装は女のものだ。

一人が一頭のラクダに乗り、無人のラクダには荷物がつけられている。

ひょっとしたら隊商キャラバンかとも思ったが、彼らが乗るラクダはみな一様に白かった。

「ドロシー、奴らの移動速度と俺たちとの相対距離を出してくれ」

移動速度:時速6.8キロ。距離:3.74キロという文字がモニターに映し出される。

あと30分程でこちらにやって来るな。

「奴ら、盗賊ですかね?」

「女の手元……よく見ろ」

ボニーさんに言われて気が付いた。

彼女らは手を縛られた状態でラクダに乗っている。

「おっさん、どうすんだよ?」

ジャンがニヤニヤしながら聞いてくる。

俺が戦闘を避けたいのを知っていて意地の悪い質問をしているのだ。

「まさか女たちを見殺しにはしねえよな? あいつらきっとワルザドの娼館へ売られるんだぜ」

「……」

「まだ若いのに可哀想なこった。スケベ親父に処女を奪われ、あんなことやこんなことされるんだろうな」

「わかってるよ。まったくガキはヒーローごっこが好きで困る」

ボニーさんとマリアを見るが無言で頷いている。

ラクダに乗っている女たちが人攫いに合ったのだとしたら、奪還するに吝かではないということだ。

「だけど殺さないよ。全員スタン弾のマガジンを装填しろ」

こんな時のために用意はしてある。

スタン弾は電気ショックで敵を無力化する特殊弾丸だ。

この弾は高圧パルス発生装置を内蔵していて、着弾と同時に分裂する。

分裂した各一片は細いワイヤーでつながっていて30秒の間電気ショックを与え続ける非殺傷型の対人兵器だ。

俺とゴブとボニーさんがその場に残り、ジャンとマリアは岩の上に隠れた。

しばらくしてラクダに乗った一団が現れたが、俺はチラッと見ただけでスイカを食べ続けた。

本当はビビりまくっているのだが、装備したマモル君の力を信じて余裕をかます。

もじゃもじゃの顎髭を生やした目つきの悪い男がラクダに乗ったまま前に出て俺たちを睨みつける。

頬に大きな刀傷があり、盗賊らしい強面だ。

「ふん、男は殺せ。女は捕まえろ! 胸の小さい年増だが売れば金にはなるだろう」

お前死んじゃうよ! 

俺がせっかく不殺ふさつでやろうと思ってるのに、自分で刑の執行ボタンを押すんじゃないよ! 

ほらぁ、ボニーさん怒ってるよぉ。

こいつらが、ただの商人であって欲しかった。

そうすれば女たちを買い取って問題を解決するという手もあったのだ。


「やっぱり……切ってしまおう……それがいい」

ボニーさんがドラゴンの角で作られたマチェットをスラリと抜き放つ。

すると剣から音波が投射された。

ドラゴンが使う威圧スキルと同じものだ。

音響兵器と同じ効果があると言い換えてもいいだろう。

指向性のある音波のせいで盗賊団は身じろぎ一つできなくなってしまった。

いや。ドラゴンの角に関係なく、ボニーさんの発する怒りが威圧となって伝わっている気がするぞ! 

とにかく動けないならそれでいい。

こいつらがボニーさんに切られる前にスタン弾を撃ってやろう。

盗賊たちはビクビクと痙攣しながら倒れていったが、とてもいいことをした気がする。


 鑑定で確認したが男たちは全員が盗賊だった。

スキャンを使って身体検査をして、武器を取り上げていく。

こいつらは全員いろんなところに小さなナイフを隠していた。

とっ捕まってロープで縛りあげられた時のために用意しておいたのだろう。

刃渡り1センチのナイフをサンダルの踵部分に隠してあるのには感心すらしてしまった。

俺も今度ブーツに隠しナイフでもつけてみようか? 

ちょっとイロモノだけど、そういうギミックって面白くて好きだ。

盗賊は以前つくっておいた結束バンドで縛り上げた。

「さてと君たちの話を聞かせてもらおうか」

全ての盗賊を拘束してから、俺は怯えてマリアの陰に隠れている二人の少女に向き直った

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