第115話 ポーターとして

 地獄の特訓が終わった。

回復魔法を使っているから疲労はない。

二時間やそこら訓練しただけで強くなるとは思わないが、それなりの満足感はある。

さっきオブトルン・スコーピオンにやられた時も、大ダメージを受けたなりに避けることはできたんだ。

ステータス画面のレベルは上がっていなくても、冒険者としての成長はしていると信じたいところだ。

それにしても俺のステータスの低さが気になるな。

久しぶりに自分のステータスを見てみるか。


【名前】 宮田一平

【年齢】 28歳

【職業】 ポーター

【Lv】 1

【状態】 正常

【HP】 10/10

【MP】 999127/999999

【攻撃力】5

【防御力】7

【体力】 12

【知力】 1482

【素早さ】8

【魔法】 生活魔法 Lv.max、回復魔法Lv.max

【スキル】料理 Lv.max  素材錬成 Lv.max  薬物錬成 Lv.max

鍛冶錬成 Lv.max  鑑定Lv.max  ゴーレム作成Lv.max  道具作成Lv.max

射撃Lv.18(命中補正+18%) 詐欺師Lv.5

【次回レベル必要経験値】 7951/100000 


基礎体力がついたせいか僅かに数値がよくなっている。

確か攻撃力は4だったはずだ。

だけど大した違いはない。

レベルは相変わらず1のままだ。

結局、与えられたものと、そこにあるものを工夫して何とかやっていかないといけないわけだ。

そういえば第七階層に身体強化ポーション(20倍)の素材があった様な気がするな。

たしかとりに行くのが無理だったから諦めたやつだ。(4話参照)

身体強化ポーションの材料はルベラバ・カクタスだ。

これはサボテンの一種で、背丈が1メートル以上ある。

現在ある10倍の身体強化ポーションにルベラバ・カクタスの抽出液を足すだけなので、一本見つければ素材としては十分だ。

身体能力が20倍になったとしても焼け石に水だが、ないよりはいい。

見かけたら採集することにしよう。

 それよりも早くEランクの魔石が欲しい。

新型のマモル君を作るためだ。

いや、俺だけじゃなくてみんなの防御力を上げる必要があると思う。

マモル君のようなゴーレムは俺しか扱えないので、マジックバリアーを張れる魔道具をつくる予定だ。ゴーレムのような自律性はない。

自動で防御はできないが、装備者が任意でマジックバリアーを張れる魔道具になる予定だ。

計算では一回3000MPで防御力5000のマジックシールドを5分間だけ張れるものになる。

必要MPがやたらでかいので、魔力の注入は俺がしておくことになるだろう。

これまでにも構想はあったものの、作成にはEランクの魔石が必要だったので作れなかった。

ラーサ砂漠にはEランク魔石をドロップする魔物がいるので、入手後すぐに作成する予定だ。

MPは俺が注入できるのでゴブにも装備可能なのがいい。

自動発生はできないけれど、現行のマモル君4個分より強力なマジックバリアだからきっと役に立つだろう。


 ドローン型ゴーレム「ドロシー」が斥候として前に出ている。

今日は風もなく遠くまで見通せた。

現在『不死鳥の団」は三台の車両を運用している。

前衛がジャンとマリアがのったT-MUTT、真ん中がボニーさんの騎乗するタッ君、後衛が俺とゴブが乗るT-MUTTだ。

先頭車両には重機関銃のドエム2、他の2両にはミニミニ軽機関銃とロケットランチャーのパンツァーブリーフ3が配備されている。

「ワイバーンの……群れ」

ボニーさんの報告に慌ててゴーグルの左目部分にドロシーからの映像を映し出す。

「ドロシー、ワイバーンは何体いる?」

俺の質問に間髪を入れずレスポンスが来る。

映像には「敵個体数:17」の文字が現れた。

「ボニーさんどうする? いつでも準備はできてるぜ」

ジャンはやりたそうな雰囲気だ。

先頭車両では既にマリアが機銃の用意をしている。

「右前方の……砂丘の上へ。距離2000メートルを切り次第……機銃射撃を開始」

ワイバーンが真っすぐに向かってくる場所へ移動して横隊の陣形をとった。

最大火力がだせる横並びの形態だ。

機銃と軽機関銃は弾幕をはることにして、ゴブゴさんにはピンポイント射撃を依頼した。

ワイバーンの最高飛行速度は時速約400キロ。

2000メートルならおよそ18秒で我々がいる地点まで到達できる。

それまでにすべてのワイバーンを撃ち落とせるかが勝負だ。

「来るぞ……構えろ!」

弾道計算機が付いた魔導照準器がワイバーンを捕らえる。

ヒットさせるには自分が考えていたよりもやや上を狙わなければならなかったようだ。

俺は自分自身よりも自分が作った道具を信じる。

俺の能力は射撃ではなく射撃を補助する道具を作ることなんだから。


「撃て」

ボニーさんの命令に機銃とゴブが射撃を開始した。

銃弾がワイバーンの群れに降り注ぐ。

敵との距離が1000メートルを切った時点で軽機関銃がこれに続いた。

僅か十数秒で合計521発の弾が撃ち尽くされた時、空には傷ついたワイバーンが1体残るだけだった。

その一体もゴブのアンチマテリアルライフルの銃弾が発射されると同時に地上へと落ちていった。


「弾帯の交換……急げ。完了後速やかに……遺体を確認する」

ワイバーンはドラゴンほど強力な魔物ではない。

だが十三体もの群れを一掃できたのは大きな収穫だ。

みんなのレベルも上がったようだ。

 ワイバーンの遺体を調べていくとEランクの魔石が1つ見つかった。

これで新装備を開発できる。

「ボニーさん、Eランクの魔石があったよ」

「うん……よかった」

マスクのせいで口元は見えなかったけど、ボニーさんが微かに笑った気がする。

「今度は何を作ろうか?」

「イッペイの……防御」

あらら、即答ですか。そんなに俺は頼りないかな?

「まあ、みんなで話し合って決めようよ」

「ダメ……イッペイの防御」

今日のボニーさんはやたらとかたくなだ。

「だってさ、マモル君もいるし、後方で距離をとって――」

「私はイッペイの盾にはなれない」

ボニーさんが俺の言葉を遮った。

「私は……イッペイの剣にしかなれないから」

「……なんで、そんなこと言うんですか。俺は……なんにも――」

「夢を……見せてくれてるから。私は今……毎日が幸せなんだ。だから私は……イッペイの剣になると決めた」

なんて答えたらいいんだろう。

目頭が熱くなるばかりで、うまく言葉が出てこない。

絶句している俺のイヤホンに声が響く。

「おっさんが使えばいいんだよ。弱いんだから。俺だって……盾って柄じゃねぇや……」

「イッペイさんがお使いください。それが一番だと思います」

自分で作っておきながらヘッドセットの能力に腹が立つ。

離れた場所にいたはずのジャンとマリアにも全部聞こえてしまっていたんだな。

「ありがとう、みんな」

声が震えないようにしたつもりだったけど、うまくいったかな? 

まあ今はいいや。

格好つけるのはこの涙が止まってからだ。

そっか。

ボニーさんも同じだったんだ。

俺も思ってたんだ、皆のお陰で夢を見続けることができるって。

辛かったり、楽しかったり、悲しかったり、面白かったりしたけど、俺も迷宮でおおむね幸せだよ。

それもこれも仲間がいてくれたからだ。

皆が俺の剣になってくれるっていうんなら俺は皆のポーターになるよ。

迷宮の深奥しんおうにさえ共にたどり着ける究極のポーターになってみせるよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る